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1999年(平成11年)

平成10年仙審第27号
    件名
油送船第八鶴俊丸引船新潟丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年7月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

上野延之、高橋昭雄、長谷川峯清
    理事官
大本直宏

    受審人
A 職名:新潟丸船長 海技免状:二級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
鶴俊丸…右舷前部に凹損
新潟丸…防舷タイヤに亀裂、同乗者11人が打撲傷

    原因
新潟丸…船員の常務(避航動作)不遵守

    主文
本件衝突は、新潟丸が、海上公試運転に際し、主機関回転数整定についての連絡不十分で、操舵不能状態に陥ったばかりか、主機の緊急停止措置をとらず、錨泊中の第八鶴俊丸を避けなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年8月27日09時40分
新潟港
2 船舶の要目
船種船名 油送船第八鶴俊丸 引船新潟丸
総トン数 2,996トン 198トン
全長 103.75メートル 33.61メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,942キロワット 2,942キロワット
3 事実の経過
第八鶴俊丸(以下「鶴俊丸」という。)は、沖縄を除く日本諸港間の重油などの輸送に従事する船尾船橋型油タンカーで、船長Dほか12人が乗り組み、空倉のまま、船首2.8メートル船尾5.2メートルの喫水をもって、平成9年8月25日15時20分北海道苫小牧港を発し、新潟港に向かった。
D船長は、新潟港の積荷役が翌々27日であったことから26日18時00分新潟港西区西突堤灯台(以下「西突堤灯台」という。)から282度(真方位、以下同じ。)1,330メートルの地点に左舷錨を投じ、錨鎖6節を延出し、錨泊中の船舶が表示する灯火を点灯して錨泊した。
D船長は、錨泊当直を一等航海士、甲板長及び甲板員4人による単独の2時間制に定めて錨泊を続け、翌27日日出時に錨泊中の船舶が表示する灯火を消灯して前部マストに球状形象物を掲げ、07時00分一等航海士ほか甲板部員全員を入航準備作業に従事させ、自ら入直したが09時20分降橋して自室で月末の書類作成作業を始めた。
09時40分鶴俊丸は、前示錨油地点において、船首を240度に向けて錨泊中、その右舷前部に新潟丸の船首が前方から50度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南南西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
D船長は、船体に衝撃を感じて衝突の事実を知り、事後の措置にあたった。
また、新潟丸は、R株式会社(以下「新潟鉄工」という。)の発注により株式会社新潟鐵工所新潟造船工場(以下「新潟鉄工」という。)において建造される、コルトノズル付き推進装置(以下「Z型推進」という。)を備える、2基2軸の鋼製引船で、海上公試運転(以下「公試運転」という。)の目的で、新潟運輸局長の臨時航行許可証及び乗組み基準特例許可証を取得し、新潟鉄工造修課ドックマスターのA受審人が船長として及び海技免状を受有していない同鉄工造修課新造仕上げグループ長で機関担当技師のB指定海難関係人が機関長として乗り組み、試運転指揮者のS株式会社(以下「S社」という。)船舶設計部機関艤装設計課長のC指定海難関係人ほか船舶検査官、R社関係者、新潟鉄工技師など22人が同乗し、船首1.9メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、同27日09時10分新潟市入船町所在の新潟鉄工岸壁を発し、新潟港沖合の公試運転海域に向かった。
ところで、新潟丸は、主機関(以下「主機」という。)とZ型推進がクラッチ、ユニバーサル・ジョイント、かさ歯車及び垂直軸を介して連結され、舵の代わりにコルトノズルの方向制御によって操舵するようになっているが、左右のプロペラ推力の差によっても旋回力が生じるシステムで、主機回転数の調整、クラッチの嵌脱及びコルトノズルの方向変換を船橋の操作スタンドで操作する遠隔操縦(以下「船橋遠隔」という。)ができ、機関室のZペラ操縦装置警報盤に設けられた「機側―遠隔切替えスイッチ」により船橋遠隔と同じ操作内容の機側操縦(以下「機側」という。)に切替えを行えるようになっていたが、機側に切り替えると船橋遠隔で操舵不能状態に陥る機構であった。
船橋の操作スタンドには、両舷の主機・プロペラ各回転計、主機・操舵各ハンドル、両舷主機の危急停止押釦スイッチ、機関室呼出し表示灯及び警報ブザーなどが装備されており、危急の際には、両舷主機の各危急停止押釦スイッチを押せば、押された舷の主機が給油を切断されて停止されるようになっていた。
A受審人は、平成7年7月初めてZ型推進装備船(以下「Z船」という。)を公試運転してその後Z船5隻の公試運転を支障無く行い、それらの公試運転の主機回転数整定(以下「主機整定」という。)に際し、船橋遠隔のまま機関室で主機整定だけを行うよう連絡していた。
C指定海難関係人は、試運転指揮者を何回も経験し、その職務が公試運転中の各試験の進行と指揮を行うことであったことから、平素、公試運転の10日前ごろまでに公試運転の方案及び予定表を作成して関係者に配布周知していた。更に、平成9年3月Z船の公試運転に先立ち、新潟鉄工関係者及び関係メーカーの者を集めて事前打合せを行い、同方案及び同予定表にのっとり各試験についての実施要領と各関係同乗者の配置などの説明を行った。
こうして、A受審人は、発航後、単独で操船に当たり、新潟港西区第2西防波堤(以下「西防波堤」という。)北端を左方に見ながら回頭し、平成9年8月27日09時33分少し過き西防波堤灯台から354度420メートルの地点で、針路を240度に定め、機関を全速力前進にかけ、14.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、船橋遠隔の手動操舵により進行した。
定針したころ、A受審人は、左舷船首方1.2海里に錨泊中の船舶が表示する球形形象物を掲げる鶴俊丸を初めて視認し、09時35分半西防波堤灯台から268度860メートルの地点に達したとき、主機整定を行うこととし、Z船の機構を失念して主機のクラッチを切り、船内電話で機関室のB指定海難関係人に、船橋遠隔のまま主機整定を行う旨の連絡を十分にしないで、機側に切り替えて主機整定するように連絡した。
B指定海難関係人は、A受審人からの連絡に従い、機側に切り替えて主機のクラッチを入れ、その後船橋遠隔で操舵不能状態に陥る機側に切替えの連絡に疑問を持ったが、機側に切り替えなければならない事情があると思い、直ちに船長に対して機側に切替えの確認を行わないまま、速力が8.0ノットになった主機回転数毎分400を750に整定するように徐々に回転数を上げさせた。
09時38分半A受審人は、西突堤灯台から305度1,340メートルの地点に達し、主機回転数が毎分750に整定して速力が14.0ノットになったころ、風などの影響により船首が徐々に左偏して235度になり、同時39分220度となったので針路を修正しようとして操舵したところ、船橋遠隔で操舵不能状態に陥っていることを認め、機関室の非常操舵で操船しようと電話機で同室に短時間の呼出しを行った。
船橋と機関室とを連絡する同室の電話機は、同室前部隔壁後方側に設置され、同室の騒音で電話機のブザーカ鳴っても分からないこともあるので電話機に赤色灯が取り付けられており、電話がかかってくると同灯が点灯して知らせるようになっていたが、B指定海難関係人は、主機整定のため関係者とともに両舷主機を監視していたので、電話機赤色灯が短時間点灯したのを認めなかったことから船橋からの呼出しに応答できなかった。
09時39分半A受審人は、西突堤灯台から286度1,400メートルの地点に達したとき、鶴俊丸の右舷正横間近に接近し、このまま左偏を続ければ同船との衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、このまま接近しても鶴俊丸の右舷側を航過できると思い、速やかに主機危急停止押釦スイッチを押して主機の緊急停止措置をとることなく、傍にいた技師に両舷主機回転数を減ずる旨を機関室に伝えるよう指示した。
新潟丸は、両舷主機回転数が徐々に下げながらも急速に左偏して鶴俊丸を避けないまま進行中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、鶴俊丸は右舷前部に凹損を、新潟丸は防舷タイヤに亀裂をそれぞれ生じたがのちいずれも修理され、新潟丸同乗者11人が打撲傷を負った。

(原因)
本件衝突は、新潟港において、機関、操舵両操作を切り離せないZ型推進を有する新潟丸が、公試運転に際し、主機整定の連絡が不十分で、船橋遠隔から機側に切り替えて操舵不能状態に陥ったばかりか、その際速やかに主機の緊急停止措置をとらず、錨泊中の鶴俊丸を避けなかったことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは、船長が主機整定の連絡を十分に行わなかったこと及び操舵不能状態に陥った際、主機の緊急停止措置をとらなかったことと、機関担当技師が機側に切替えの確認を行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、新潟港において、新潟丸の公試運転中、操舵不能状態に陥った場合、左舷前方に錨泊中の鶴俊丸に接近する状況であったから、速やかに主機の緊急停止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、このまま接近しても鶴俊丸の右舷側を航過できると思い、主機の緊急停止措置をとらなかった職務上の過失により、そのまま進行し、急速に左偏して同船との衝突を招き、鶴俊丸の右舷前部外板に凹損及び新潟丸の右舷船首防舷タイヤに亀裂を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が新潟丸の公試運転中、船橋遠隔から機側に切替えの連絡を受けた際、操舵不能状態に陥る切り替えの連絡に疑問を持ったまま、その切替えの確認を行わなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、その後新潟鉄工が安全対策を実施した点に徴し、勧告しない。
C指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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