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1999年(平成11年)

平成10年門審第104号
    件名
貨物船英寛丸岸壁衝突事件〔簡易〕

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年3月12日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

伊藤實
    理事官
副理事官 新川政明

    受審人
A 職名:英寛丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
左舷船首部外板を凹損、左舷船底に擦過傷、岸壁上部の角を小損

    原因
針路保持不適切

    主文
本件岸壁衝突は、針路の保持が適切でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年5月29日11時10分
大分県大分港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船英寛丸
総トン数 198トン
登録長 50.71メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 514キロワット
3 事実の経過
英寛丸は、高知県高知港と近隣各港間にスクラップや肥料などを運搬する、不定期の船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか2人の家族船員が乗り組み、空倉で、船首0.6メートル船尾2.4メートルの喫水をもって、平成10年5月29日11時00分大分県大分港鶴崎泊地の家島東、岸壁(4)号で、大分港鶴崎西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から152度(真方位、以下同じ。)2,720メートルの係留地を出航し、高知港に向かった。
ところで、家島東岸壁は、大分港の鶴崎泊地の南側の港奥につながる、小中島川の右岸に位置し、同岸壁から同泊地に至る間の水道は、左岸の新港岸壁との川幅が100メートルしかなく、そのほぼ中央部は5メートル前後の水深があるものの、両岸寄りが浅くなっているので、操船者は水道の中央部を航行するように、十分留意しており、A受審人は、自船の係留岸壁の近くに居住地があって、長年にわたって同川を出入航し、その水路状況について十分精通していたので、いつも水道の中央部を航行するように操舵に当たっていた。
出航時、A受審人は、家島東岸壁(4)号に出船右舷付けの係留状態から、船首、船尾もやい索及びスプリング2本を放したのち、機関を微速力前進にかけ、2.5ノットの対地速力の中央部に向かい、その後機関長を食事の準備に、甲板員を船尾で係留索の整理などに当たらせ、11時06分西防波堤灯台から148度2,350メートルの地点に達したとき、針路を338度に定め、レバー操舵により進行した。
A受審人は、単独で操舵スタンド後方に素足で草履を履いて立ち、左手で操舵レバーを握って見張りと操舵に当たっているうち、11時08分西防波堤灯台から147.5度2,200メートルの地点付近で、右手に火を点けた煙草を持ってこれ吸い始め、間もなく機関を半速力前進に増速し、4.0ノットの対地速力で北上した。
11時09分半A受審人は、火の点いた煙草を不用意に右足の上に落とし、足を振ったところ、煙草が草履の鼻緒と足の間に挟まり、これを取り除こうとした際、針路が左右どちらかに偏ると左右の岸壁に衝突するおそれがあったが、振り払うことに気を取られ、水道の中央部を航行するように、操舵レバーを確認するなどして適切に針路を保持することなく、下を向いて煙草を振り払っているうち、左手で握っていた操舵レバーに力が入って左舵一杯が取られたものの、これに気付かないまま、左岸の新港岸壁に向かって進行した。
A受審人は、11時09分半少し過ぎ、右足に挟まった煙草を取り除いてふと前方を見たところ、新港岸壁が目前に直っているのに気付き、急いで機関を全速力後進にかけて、操舵レバーで右舵一杯としたが及ばず、11時10分西防波堤灯台から148度1,950メートルの新港岸壁に、英寛丸の船首が314度を向いて27度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力1の南南西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
衝突の結果、左舷船首部外板を凹損し、左舷船底に擦過傷を生じ、岸壁上部の角を小損した。

(原因)
本件岸壁衝突は、大分港鶴崎泊地につながる、小中島川の狭い水道を出航中、針路の保持が不適切で、水道中央部から左転して左岸の新港岸壁に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、単独でレバー操舵と見張りに当たり、大分港鶴崎泊地につながる、小中島川の狭い水道を出航する場合、針路が左右どちらかに偏ると、左右の岸壁に衝突するおそれがあったから、水道の中央部を航行するように、適切に針路を保持すべき注意義務があった。しかるに、同人は、右手に持っていた火の点いた煙草を落とし、これを右足と履いていた草履の鼻緒の間に挟み、振り払って取り除こうとした際、振り払うことに気を取られ、操舵レバーを確認するなどして適切に針路を保持しなかった職務上の過失により、左手で握っていた操舵レバーが左舵一杯に取られ、左転して左岸の新港岸壁に向かって進行して同岸壁との衝突を招き、英寛丸の左舷船首部外板及び左舷船底に凹損などを生じさせ、岸壁を小損させるに至った。






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