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1999年(平成11年)

平成10年広審第95号
    件名
油送船第三徳誉丸貨物船冨士丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年7月14日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

釜谷獎一、黒岩貢、横須賀勇一
    理事官
田邉行夫

    受審人
A 職名:第三徳誉丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
C 職名:冨士丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
徳誉丸…右舷船橋楼及びボートダビット基部甲板に凹損
冨士丸…左舷船首部外板に凹損

    原因
徳誉丸…動静監視不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
冨士丸…動静監視不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第三徳誉丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る冨士丸の進路を避けなかったことによって発生したが、冨士丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための最善の協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年11月20日00時35分
瀬戸内海周防灘
2 船舶の要目
船種船名 油送船第三徳誉丸 貨物船冨士丸
総トン数 696.80トン 392トン
全長 59.8メートル 65.2メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,176キロワット 956キロワット
3 事実の経過
第三徳誉丸(以下「徳誉丸」という。)は、可変ピッチプロペラを装備した船尾船橋型の鋼製油送船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか6人が乗り組み、空倉のまま、海水バラスト80トンを載せ、船首2.00メートル船尾3.80メートルの喫水をもって、平成9年11月19日17時05分愛媛県新居浜港を発し、日没後は航行中の動力船の表示する灯火を掲げ、山口県徳山下松港に向かった。
A受審人は、同船の当直体制を単独の4時間輪番制に定め、一等航海士が毎4時から8時までの時間帯を、B指定海難関係人が毎0時から4時までの時間帯を、その他の時間帯は自らが当直に当たるほか、出入港、狭水道の操船等に従事していた。
A受審人は、来島海峡を北上して釣島水道、平郡水道を西行し、鼻繰瀬戸を経由して、翌20日00時火振埼灯台から128度(真方位、以下同じ。)6海里の地点に達したとき、針路を298度に定めて操舵を自動とし、機関を11.5ノットの全速力前進にかけて進行し、このころ船橋当直のため昇橋していたB指定海難関係人に当直を行なわすことにした。
A受審人は、その後、このままの針路で進行すれば火振灯台の南側を約1海里隔てて北西進することになり、周辺海域は、多数の船舶が集中して航行するところであったが、平素B指定海難関係人に船橋当直を行わせていたとき、不安を感じなかったことから、操船を同人に任せても支障はないと思い、周辺海域に他船が多くなり、複雑な関係が発生したときにば報告するよう指示を徹底することなく、単に入港の30分前に知らす旨を告げただけで降橋した。
こうしてB指定海難関係人は、船橋当直に従事していたところ、00時15分火振埼灯台から137度3.2海里の地点に達したとき、右舷船首47度2.6海里に冨士丸の表示する白、白、紅3灯を初めて視認し、その後方位がわずかずつ前方に変化しながら火振埼灯台の南側海域に向け南西進していることを認めると共に、数隻の船舶が西進し、同灯台付近の海域で集中するのを認め、これらと複雑な関係になることを予見できたがA受審人から、これらの状況を報告する旨の指示を受けていなかったことから、自ら操船に当たることとし、同人に報告を行わなかった。
00時26分B指定海難関係人は、火振埼灯台から166度1.5海里の地点に達したとき、冨士丸を右舷船首41度1.0海里に認める状況となり、このころ同船が右方に転針して次第に減速し、その後、方位の変化がないまま前路を左方に横切り、衝突のおそれのある態勢となって接近したが、冨士丸が右転したのを認めたことから、このまま続航しても自船との船間間隔が隔たるので無難と思い、同船に対する動静監視を行うことなく進行した。
00時28分B指定海難関係人は、冨士丸が同一方向のまま0.8海里に接近したとき、左舷船尾近くに、自船の左舷方を追い抜く態勢で接近中の第三船の灯火を認め、操舵を手動に切り替え、その後、同船に気を奪われて進行し、依然、A受審人に報告を行わないまま、どう対拠しようかと思案するうち、冨士丸と接近し続けたものの、このことに気付かず、同船の進路を避けないで続航中、同時35分少し前、前示第三船が自船の船首と並航したころ、その船尾方を替わすため左舵をとり、290度を向首したとき右舷側至近に冨士丸を認めたが、どう対拠することもできず、00時35分徳誉丸は、火振埼灯台から244度1.4海里の地点において、原速力のまま、同船の右舷後部に冨士丸の左舷船首が後方から45度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
A受審人は、衝突の衝撃によって昇橋し、事後の措置に当たった。
また、冨士丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長D及びC受審人ほか2人が乗り組み、石炭灰353トンを載せ、船首1.15メートル船尾3.35メートルの喫水をもって、同月19日23時55分ごろ火振埼灯台から078度5.6海里ばかりの徳山下松港第4区を発し、関門港小倉区に向かった。
C受審人は、翌20日00時03分火振埼灯台から076度3.7海里の地点に達したとき、D船長から船橋当直を引き継ぎ、針路を250度に定めて操舵を自動とし、機関を10.5ノットの全速力前進にかけて進行した。
00時09分C受審人は、火振埼灯台から080度2.5海里の地点に達したとき、左舷船首80度3.5海里のところに徳誉丸の表示する白、白、緑3灯を初めて視認し、その後、同船の方位がわずかずつ後方に変化しながら火振埼灯台の南側約1海里の地点に向け北西進しているのを認め得る状況にあった。
00時25分少し前C受審人は、火振埼灯台南側の予定変針点に達したころ、右舵をとって転針を開始し、同時26分同灯台から182度0.5海里の地点で針路を265度に定針したとき、左舷船尾73度1.0海里のところに徳誉丸の灯火と同船の周辺に点在して北西進する数隻の他船の灯火を視認したことから、徐々に機関回転数を減じ、8.0ノットの半速力前進となって進行したが、このころから徳誉丸との方位の変化がなくなり、前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢となって接近した。
C受審人は、操舵を手動に切り替えて操船に当たり、これら数隻の他船の動静に気を奪われて徳誉丸に対する動静監視を十分に行うことなく続航中、00時32分同船と同一方向のまま0.3海里に接近したが、このことに気付かず、警告信号を行わず、なおも接近する同船に対し、衝突を避けるための最善の協力動作をとることなく進行し、同時35分少し前至近に迫った徳誉丸を認めて、左舵10度をとって回頭中、245度を向首したとき前示のとおり衝突した。
衝突の結果、徳誉丸は、右舷船橋楼及びボートダビット基部甲板に凹損を、冨士丸は、左舷船首部外板に凹損をそれぞれ生じたが、のち両船とも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、火振埼灯台の南側海域において、徳山下松港に向け北西進する徳誉丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る冨士丸の進路を避けなかったことによって発生したが、南西進中の冨士丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための最善の協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
徳誉丸の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の当直者に船橋当直を行わせるにあたり、周辺海域に多船が多くなり、他船との複雑な関係が発生したときには報告するよう指示を徹底しなかったことと、当直者が、周辺海域に他船が多くなり、他船との複雑な関係が発生したとき、船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、火振埼灯台の南側海域において、同灯台に接近して北西進するにあたり、無資格者に船橋当直を行わせる場合、多数の船が集中して航行する海域であったから、周辺海域に他船が多くなり、他船との複雑な関係が発生したときには自らが操船指揮をとることができるよう、当直者に対して報告するよう指示を徹底しておくべき注意義務があった。しかるに同人は、平素、同無資格者に単独当直を行わせていたとき、不安を感じなかったことから同人に操船を任せても支障ないと思い、当直者に対して報告するよう指示を徹底しなかった職務上の過失により、冨士丸との衝突のおそれのある態勢で接近する状況であることに気付かず、同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、徳誉丸の右舷船橋楼及びボートダビット基部甲板に凹損を、冨士丸の左舷船首上部外板に凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、夜間、火振埼灯台の南側海域において、同灯台に接近して西行するにあたり、徳誉丸とその周辺に点在して北西進する数隻の他船の灯火を視認した場合、徳誉丸との衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、これら数隻の他船の動静に気を奪われて、徳誉丸の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船との衝突を避けるための最善の協力動作をとることなく進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、夜間、火振埼灯台の南側の船舶が集中する海域に向け航行中、数隻の船舶を認め、これらとの間に複雑な関係が予期される場合、船長に報告しなかったことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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