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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年7月27日15時53分 北海道野寒布(のしゃっぷ)岬南南西方沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船第三十八隆運丸
遊漁船第二加奈丸 総トン数 6.50トン 登録長 11.75メートル 7.78メートル 機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関 出力
18キロワット 漁船法馬力数 80 3 事実の経過 第三十八隆運丸(以下「隆運丸」という。)は、たこいさり漁に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、平成10年7月27日05時30分北海道稚内市西稚内漁港を発し、野寒布岬北西方沖合の漁場に向かった。 A受審人は、漁場に至り、操業を行ってたこ140キログラムを漁獲したあと、船首0.20メートル船尾1.60メートルの喫水をもって、15時33分稚内灯台から293度(真方位、以下同じ。)1.8海里の地点を発し、針路を190度に定め、機関を全速力前進にかけて14.0ノットの対地速力で自力操舵により同漁港に向け帰航の途についた。 15時38分A受審人は、稚内灯台から255度2海里の地点に達したとき、陸側に寄せるため針路を自動操舵の針路設定ダイヤルで5度左転し、左舷船首方からのしぶきが激しくなったので、速力を少し減じて12.0ノットの対地速力としたあと、徐々に左転して南下した。 ところで、A受審人は、全速力近くで航行することで船首が浮上し、操舵室中央の見張り位置からは正船首方向の左右約15度ずつ水平線が見えなくなり死角が生じていたが、操舵室の右舷側の窓を開け、同室の右舷側に立って見張りを行い、左舷側の窓はしぶきがかかるので閉じ、また、レーダーは故障していて修理されないまま使用できない状況にあったものの、船首を左右に振るなどして船首方の死角を補う見張りを行わずに進行した。 15時50分A受審人は、西稚内港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から301度1.4海里の地点に達したとき、手動操舵に切り換えて左転し、針路を150度としたところ、正船首、1,100メートルのところに存在した第二加奈丸(以下「加奈丸」という。)に向首することとなり、同時52分少し前同船が正船首500メートルとなったとき、同船は錨泊中であることを示す形象物を掲げていなかったものの、船首係留索を漁網用ボンデンにとっていたことから錨泊して釣りをしていることが分かる状況となり、その後同船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近した。しかし、同人は、海上は時化ているので、前路に遊漁船などの支障となる他船はいないものと思い、依然船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを十分に行っていなかったので、そのことに気付かず、同船を避けないまま続航中、突然衝撃を感じ、15時53分北防破堤灯台から288度1海里の地点において、隆運丸は、原針路、原速力のまま、その船首が加奈丸の左舷船尾に直角に衝突した。 当時、天候は曇で風力5の東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。 また、加奈丸は、主として釣りに使用していたFRP製遊漁船で、B受審人が1人で乗り組み、友人1人を乗せ、かれい釣りの目的で、船首尾とも0.15メートの喫水をもって、同日13時07分稚内港を発し、西稚内漁港西方沖合の釣り場に向かった。 13時33分B受審人は、前示衝突地点に至り、漁網用のボンデンに船首の係留索を大まわしにとって、ボンデンからの距離を約15メートルとし、係留索の端をクリートに巻いて止め、機関を停止したあと、錨泊していることを示す形象物を掲げずに、釣りを開始した。 15時47分B受審人は、船首が060度を向いていたとき、左舷正横前10度1.2海里ばかりのところに来航する隆運丸の船体を認め、その後時折同船を見ながら船首部で釣りを続けた。 15時50分B受審人は、隆運丸が左舷正横1,100メートルのところで左転し、自船に向首したのを認め、同時52分少し前、隆運丸が500メートルとなり、その後衝突のおそれのある態勢のまま自船を避けずに接近したが、自船はボンデンに係留して錨泊していることから、そのうち隆運丸の方で避航するものと思い、速やかに機関を始動して前進するなどの衝突を避けるための措置をとらないまま釣りを続け、15時52分半同船が150メートルに接近したとき、レーダースキャナーが回転していないのを見て衝突の危険を感じ、立ち上がって同船に向かって手を振り、大声で叫んだが、何ら反応が見られないのでナイフで船首の係留索を切断しようとしたものの、あわてていたことからナイフを海中に落とし、どうすることもできずにいるうちに060度を向首して前示のとおり衝突した。 衝突の結果、隆運丸は船首左舷外板に軽微な擦過傷を生じただけであったが加奈丸は船尾左舷外板に亀裂及び船外機損傷を生じ、のち修理された。
(原 因) 本件衝突は、北海道野寒布岬南南西方沖合において、隆運丸が、見張り不十分で、前路で錨泊している加奈丸を避けなかったことによって発生したが、加奈丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。 (受審人の所為) A受審人は、北海道野寒布岬南南西方沖合において、西稚内漁港に向け航行する場合、全速力近くで航行したことにより船首が浮上し、操舵室の見張り位置からは正船首方向に死角が生じていたのであるから、正船首方で錨泊していた加奈丸を見落とさないよう、船首を左右に振るなどして船首方向の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、前路に遊漁船などの支障となる他船はいないものと思い、船首方向の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊していた加奈丸に気付かず、同船を避けずに進行して同船との衝突を招き、隆運丸の船首左舷外板に軽微な擦過傷、加奈丸船尾左舷外板に亀裂及び船外機に破損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、野寒布岬南南西方沖合において錨泊中、左舷正横から来航する隆運丸が自船を避けずに接近して来るのを認めた場合、速やかに機関を始動して前進するなどの衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、自船は錨泊しているのでそのうち隆運丸が避けるものと思い、速やかに衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、隆運丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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