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1999年(平成11年)

平成9年門審第35号
    件名
油送船光進丸漁船福丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年2月9

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

畑中美秀、清水正男、岩渕三穂
    理事官
喜多保

    受審人
A 職名:光進丸機関長(当時、船橋当直中) 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:福丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
光進丸…船首の塗装が一部剥離
福丸…船首部が圧壊、船長が後頭部、頸部及び背部に約10日間の通院を要する打撲傷

    原因
福丸…見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
光進丸…見張り不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、福丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る光進丸の進路を避けなかったことによって発生したが、光進丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年1月11日09時30分
宮崎県細島港
2 船舶の要目
船種船名 油送船光進丸 漁船福丸
総トン数 199トン 3.5トン
全長 48.90メートル
登録長 9.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット
漁船法馬力数 20
3 事実の経過
光進丸は、主として瀬戸内海の各港間に重油を運般する船尾船橋型の油送船で、A受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首0.60メートル船尾2.50メートルの喫水をもって、平成9年1月11日09時20分細島港工業港地区(以下「工業港地区」という。)を発し、徳山下松港に向かった。
ところで、光進丸では船橋当直を、船長、A受審人及び同受審人の息子である甲板員の3人による4時間交替の単独当直制を採り、荷役作業は主として船長と甲板員が行っていたことから、荷役中は同受審人が休息し、出航後直ぐに昇橋して船橋当直に就くこととしていた。
出航後、A受審人は、船首配置の作業を終えて昇橋し、09時25分細島工業港第6号灯浮標を左舷正横に航過する、細島港余島防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から247度(真方位、以下同じ。)1,430メートルの地点で、船長から船橋当直を引き継ぎ、針路を045度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.5ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
09時26分半A受審人は、防波堤灯台から260度970メートルで、細島工業港第3号畑浮標を右舷正横に航過する地点において、針路を防波堤灯台の北方260メートルに向首する066度に転じたとき、左舷船首37度1,020メートルに、前路を右方に横切る態勢の福丸を視認できたものの、船首方約3,000メートルのところで操業中の漁船数隻の動静と、右舷方の細島港白浜地区からの出航船の有無を確かめることとに気を取られ、同船に気付かなかった。
09時28分半A受審人は、左舷船首37度460メートルに、福丸が衝突のおそれがある態勢で接近する状況となっていたが、依然,、前方及び右舷方に気を取られ、左舷方の見張りを行っていなかったのでこのことに気付かず、警告信号を吹鳴せず、同船との衝突を避けるための協力動作をとることなく続航中、09時30分少し前、ふと左舷前方を見たとき、左舷船首方直前に迫った同船を初めて認め、衝突の危険を感じ、急いで機関を中立としたが及ばず、09時30分防波堤灯台から004度260メートルの地点において、光進丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首部が、福丸の船首に後方から66度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、視界は良好であった。
A受審人は、衝突を避けられたものと思って航海を続けていたところ、豊後水道を航行中に海上保安部から連絡を受け、衝突の事実を知って細島港に帰港した。
また、福丸は、一本釣り漁業に従事する木製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、いか釣りの目的で、船首0.3メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、同日09時10分宮騎県東臼杵郡門川町門川漁港を発し、細島港南東方の飛島付近の漁場に向かった。
ところで、B受審人は、腰痛のため長い時間同じ姿勢でいることが苦痛で、操舵と見張りに当たる場合には、操舵室の後方に舵柄を持って立ち、操舵室の天井越しに前方の見張りを行ったり、自分で作製した腰掛台を操舵室後方に置いてこれに腰掛け、舵柄の先端を持ち操舵室前面の窓を通して前方の見張りを行ったりしていた。
出航後、B受審人は、乙島防波堤突端を左舷に見てこれを替わし、09時24分防波堤灯台から322度1,300メートルの地点において、針路を防波堤灯台の地東方約200メートルに向首する132度に定め、機関を半速力前進にかけて6.0ノットの対地速力で進行した。
B受審人は、操舵室の後方に立ったり、腰掛台に腰を掛けたりして舵柄で操舵に当たり進行中、09時26分半防波堤灯台から327度850メートルの地点に達したとき、右舷船首77度1,020メートルに工業港地区を出航して前路を左方に横切る態勢の光進丸を認めることができたものの、前方を見張ることに気を取られ、右舷方の見張りを十分に行わなかったので同船に気付かなかった。
09時28分半B受審人は、右舷船首77度460メートルに、光進丸が衝突のおそれがある態勢で接近する状況となっていたが、依然、見張り不十分で同船に気付かず、機関を減速するなりして同船の進路を避けることなく続航中、同時30分姿勢を変えるため腰掛台から立ち上がったとき、突然船首に衝撃を受け、福丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、光進丸は、船首の塗装が一部剥離しただけで損傷はなく、福丸は、船首部が圧壊したが、のち修理され、B受審人は衝突の衝撃で船上に倒れ、後頭部、頸部及び背部に約10日間の通院を要する打撲傷を負った。

(原因)
本件衝突は、宮崎県細島港において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近した際、福丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る光進丸の進路を避けなかったことによって発生したが、光進丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、宮崎県東臼杵郡門川漁港を出航し、細島港内を航行して同港南東方の漁場に向かう場合、同港内は出入航船が多いから、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前方見張ることに気を取られ、右舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、工業港地区を出航して右舷方から接近する光進丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、福丸の船首部を圧壊させ、自らも転倒して後頭部、頸部及び背部に約10日間の通院を要する打撲傷を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、工業港地区を出航して細島港内を航行する場合、同港内は出入船舶が多いから、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船首方及び右前方を見張ることに気を取られ、左舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する福丸に気付かず、同船に対して警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して同船との衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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