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1999年(平成11年)

平成10年門審第63号
    件名
引船くにさき丸漁船海王丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年7月22日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

供田仁男、宮田義憲、阿部能正
    理事官
喜多保

    受審人
A 職名:くにさき丸船長 海技免状:二級海技士(航海)
B 職名:海王丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
くにさき丸…右舷船尾部外板に凹損
海王丸…船首部を分断、のち廃船処理、船長が頭部、左肩及び左下肢打撲

    原因
くにさき丸…動静監視不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
海王丸…見張り不十分、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、くにさき丸が動静監視不十分で、前路を左方に横切る海王丸の進路を避けなかったことによって発生したが、海王丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年12月4日20時20分
大分県国東半島東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 引船くにさき丸 漁船海王丸
総トン数 196トン 4.99トン
全長 36.669メートル
登録長 9.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,574キロワット
漁船法馬力数 90
3 事実の経過
くにさき丸は、Z型推進駆動装置を装備し、主として港内における大型船舶の操船補助作業に従事する引船兼消防船で、A受審人ほか3人が乗り組み、入港船支援の目的で、船首2.0メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、平成9年12月4日18時40分大分港を発し、福岡県苅田港に向かった。
A受審人は、自ら船橋当直に就き、機関を11.5ノットの全速力前進にかけ、航行中の動力船の灯火を表示して別府湾を縦断し、20時09分半大分空港飛行場灯台から115度(真方位、以下同じ。)1.3海里の地点において、針路を003度に定め、折からの北方に流れる微弱な潮流に乗じ、12.0ノットの対地速力(以下速力は対地速力である。)で、自動操舵により国東半島東方沖合を北上した。
定針したころA受審人は、右舷前方3海里付近に漁船群の灯火を認め、次いで20時16分少し前右舷船首37度1.0海里に漁船群から離れて西行する海王丸の白、紅2灯を初めて視認したが、漁船だから急に停止したり向きを変えたりしてそのうち離れてゆくだろうと思い、海王丸のコンパス方位の変化を確かめる動静監視を十分に行わなかったので、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、早期に右転するなど海王丸の進路を避けることなく、時折操舵室の窓枠と同船とを見比べて続航した。
20時20分少し前A受審人は、海王丸が右舷ほぼ正横100メートルに迫ったとき、ようやく衝突の危険を感じ、手動操舵に切り替えて右転を試みたものの及ばず、20時20分武蔵港古市C防波堤東灯台(以下「C防波堤東灯台」という。)から091度1.1海里の地点において、くにさき丸は、013度を向いて原速力のまま、その右舷船尾部に海王丸の船首が前方から85度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、衝突地点付近には北方に流れる0.5ノットの潮流があった。
また、海王丸は、昭和54年に進水し、船体の後部に操舵室を設けたFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、あじ刺し網漁の目的で、船首0.6メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同日16時30分大分県東国東郡武蔵町の武蔵港を出港し、17時30分国東半島東方沖合の漁場に着いて操業を開始した。
B受審人は、80キログラムの漁獲を得て操業を終え、19時00分C防波堤東灯台から101度12.0海里の地点を発して帰途に就き、直ちに針路を伊予灘西航路第1号灯浮標の北方に向かう287度に定めて自動操舵とし、機関を8.1ノットの微速力前進にかけ、航行中の動力船の灯火を表示して、前部甲板上で見張りを行う傍ら操業の後始末にあたって伊予灘を西行した。
19時30分B受審人は、伊予灘西航路第1号灯浮標を左舷側に1,200メートル隔てて並航したとき、操舵室に戻って針路を278度に転じ、このころから北方に流れ始めた微弱な潮流により右方に2度圧流されながら、同一速力で進行し、やがて、国東半島東岸まで約3海里となってそれまで周りを囲んでいた漁船群が途切れたころ、再び前部甲板に赴いて操業の後始末を続けた。
20時16分少し前B受審人は、左舷船首58度1.0海里にくにさき丸の白、緑2灯を視認でき、その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況となったが、陸地に相当近づいたから船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、くにさき丸に気付かず、揚網したあと魚倉に入れておいた網を甲板上に引き出し、絡まった魚を外しながら続航した。
B受審人は、くにさき丸が避航の気配を見せずになおも接近し、同船の動作のみでは衝突を避けることができなくなったものの、依然このことに気付かず、速やかに行きあしを停止するなどの衝突を避けるための協力動作をとることなく進行中、海王丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、くにさき丸は右舷船尾部外板に凹損を生じ、海王丸は船首部を分断し、僚船の援助を得て武蔵港に帰港したが、船齢と修理費の関係で廃船処理され、B受審人が頭部、左肩及び左下肢打撲を負った。

(原因)
本件衝突は、夜間、国東半島東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、北上するくにさき丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る海王丸の進路を避けなかったことによって発生したが、西行する海王丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、国東半島東方沖合を北上中、右舷前方に白、紅2灯を表示した海王丸を視認した場合、衝突のおそれがあるかどうか判断できるよう、同船のコンパス方位の変化を確かめる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、漁船だから急に停止したり向きを変えたりしてそのうち離れてゆくだろうと思い、海王丸のコンパス方位の変化を確かめる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、その進路を避けることなく進行して衝突を招き、くにさき丸の右舷船尾部外板に凹損を生じさせ、海王丸の船首部を分断させたほか、B受審人に頭部、左肩及び左下肢打撲を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、漁場から帰途に就いて国東半島東方沖合を西行する場合、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、陸地に相当近づいたから船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近するくにさき丸に気付かず、衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、自ら負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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