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1999年(平成11年)

平成10年長審第59号
    件名
漁船久栄丸漁船太幸丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年3月3日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

保田稔、安部雅生、坂爪靖
    理事官
酒井直樹

    受審人
A 職名:久栄丸船長 海技免状:二級小型船船舶操縦士(5トン未満限定)
B 職名:太幸丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
久栄丸…船首部及び機関室囲壁上部を圧壊、船長が頬に切傷
太幸丸…船首部の亀裂、推進器の曲損等

    原因
久栄丸、太幸丸…見張り不十分、行会いの航法(右側通行)不遵守

    主文
本件衝突は、両船が、ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがあるとき、久栄丸が、見張り不十分で、針路を右に転じなかったことと、太幸丸が、見張り不十分で、針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年12月21日21時10分
佐賀県呼子港北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船久栄丸 漁船太幸丸
総トン数 4.84トン 4.8トン
全長 12.60メートル 13.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 70 90
3 事実の経過
久栄丸は、船体のほぼ中央部に機関室囲壁を設け、その真後ろに操舵室を配置し、レーダーやGPSなどの装備がないFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、平成8年12月21日16時30分佐賀県呼子港殿ノ浦最奥部の岸壁を発し、17時15分ごろ加唐島灯台から143度(真方位、以下同じ。)870メートルばかりの漁場に至って投錨し、いか約50匹を獲たのち、船首0.50メートル船尾0.75メートルの喫水をもって、21時00分漁場を発進して帰途についた。
A受審人は、マスト灯、両舷灯及び船尾灯を表示し、また、漁獲したいかを生かした状態で持ち帰るため、機関室囲壁前方の甲板上約50センチメートルのところに白色裸電球を点灯し、傘を付けたり、覆いをしたりして明かりが周囲こ漏れないような措置を講じない状態で、生け簀(す)を照らしたまま、周囲の灯台などの灯火を目測しながら進行し、21時01分加唐島灯台から136度1,120メートルの地点に達したとき、針路を159度に定め、機関をほぼ全速力前進にかけて8.5ノットの対地速力とし、操舵室で立って見張りに当たり、手動操舵で続航中、同時05分ごろ右舷船首30度100メートルばかりのところに白色点滅灯を認め、これを他船の灯火かと思っていったん停し、これが延縄の存在を示す灯火であることを確かめたのち、同一の針路、速力で進行した。
ところで、久栄丸の前方には、肥前立石埼灯台や臼島、鷹島などに設置された灯台の灯火に加え、佐賀県東松浦郡呼子町小友地区から呼子港にかけての市街地に、水銀灯などの明るい灯火が多数存在していた。
21時08分わずか過ぎA受審人は、加唐島灯台から150度2,700メートルの地点に達したとき、ほぼ正船首1,500メートルのところに、太幸丸の白、紅及び緑の3灯を視認でき、その後同船とほとんど真向かいに行き会い、衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況となったが、ほかにも延縄の存在を示す灯火があるかもしれないと右方を探すことに気をとられ、周囲の見張りを十分に行うことなく、太幸丸の灯火が前方の市街地の明るい灯火や甲板上の裸電球の光芒に紛れるかして同船の灯火を見落とし、この状況に気付かないまま、続航した。
こうして久栄丸は、針路を右に転じないまま進行中、21時10分肥前立石埼灯台から354度2,700メートルの地点において、原針路、原速力のまま、船首部が太幸丸の船首部に、真向かいの態勢でほぼ平行に衝突し、太幸丸に乗り切られた。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。
また、太幸丸は、船体ほぼ中央部に操舵室を設け、一本釣り漁業などに従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、いか釣り漁を行う目的で、船首0.65メートル船尾1.21メートルの喫水をもって、同21日20時57分呼子港フェリー岸壁東側の係留地を発し、長崎県対馬下島阿須浦付近の漁場に向かった。
B受審人は、マスト灯、両色灯及び船尾灯を表示し、操舵室でいすに腰掛けて見張りに当たり、加部島東岸沿いを手動操舵で北上し、21時05分半肥前立石埼灯台から054度650メートルの地点に達したとき、針路を341度に定め、機関をほぼ全速力前進にかけて18.0ノットの対地速力として進行した。
ところで、太幸丸は、ほぼ全速力で航行すると船首が浮上し、船首左右各舷7度ばかりの範囲に死角を生じ、前方を見通すことができないため、B受審人は、前方に他船などの存在を予測したときは天窓から顔を出したり、船首を振ったりするなどして船首死角を補う見張りを行っていた。
21時08分わずか過ぎB受審人は、肥前立石埼灯台から003度1,700メートルの地点に達したとき、ほぼ正船首1,500メートルのところに、久栄丸の白、紅及び緑の3灯を視認でき、その後同船とほとんど真向かいに行き会い、衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況となったが、1.5海里レンジとしたレーダーをいちべつして前方に他船の映像を認めなかったところから、前路に他船はいないものと思い、レーダーのレンジ切換えや船首輝線消去を行ったり、舷側や天窓から顔を出して前方を見たりするなど、船首死角を補う見張りを十分に行うことなく、久栄丸の灯火を見落とし、この状況に気付かず、いすに腰掛けたまま漫然と進行した。
こうして太幸丸は、針路を右に転じないまま続航中、原針路、原速力で前示のとおり衝突した。
衝突の結果、久栄丸は、船首部及び機関室囲壁上部を圧壊し、太幸丸は、船首部の亀裂、推進器の曲損等をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。また、A受審人は、額に切傷を負った。

(原因)
本件衝突は、夜間、佐賀県呼子港北方海域において、両船がほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で互いに接近中、久栄丸が、見張り不十分で、針路を右に転じなかったことと、太幸丸が、見張り不十分で、針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、漁場からの帰航中、佐賀県呼子港北方の海域において、停止して延縄の標識灯を認めたのち、灯台の灯火や市街地の明るい灯火などが多数存在する方向に向け、レーダーなどを装備せずに航行する場合、市街地の灯火や甲板上の裸電球の光芒などに他船の灯火が紛れるおそれがあったから、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、ほかにも延縄の標識灯があるかもしれないと右方を探すことに気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、太幸丸を見落とし、針路を右に転じないまま進行して同船との衝突を招き、久栄丸の船首部破損及び機関室囲壁上部圧壊を、太幸丸の船首部亀裂及び推進器曲損をそれぞれ生じさせ、自らが軽傷を負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、佐賀県呼子港北方海域において、漁場に向け、船首が浮上して船首死角を生じた状態で航行する場合、船首方から接近する他船を見落とさないよう、舷側や天窓から顔を出して前方を確認するなどの船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、レーダーをいちべつして前方に他船の映像を見なかったことから、前路に他船はいないものと思い、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、久栄丸を見落とし、針路を右に転じないまま進行して同船との衝突を招き、前示損傷等を生じるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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