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1999年(平成11年)

平成10年神審第92号
    件名
漁船第21チュウヨウマルプレジャーボートみしま丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年3月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明、工藤民雄、清重隆彦
    理事官
竹内伸二

    受審人
A 職名:第21チョウヨウマル船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
チュウヨウマル…船首部に小破口、船底部に擦過傷
みしま丸…両舷ブルワーク等に亀裂、オーニングステイに曲損などをそれぞれ生じて右舷側に転覆、船長が頭部打撲などの傷を負って海中に転落し、溺水によって死亡

    原因
チュウヨウマル…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
みしま丸…船員の常務(衝突回避惜置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第21チュウヨウマルが、見張り不十分で、錨泊中のみしま丸を避けなかったことによって発生したが、みしま丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年3月9日12時40分
高知県宿毛湾
2 船舶の要目
船種船名 漁船第21チュウヨウマル プレジャーボートみしま丸
総トン数 4.99トン
全長 12.44メートル 5.42メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 18キロワット
漁船法馬力数 80
3 事実の経過
第21チュウヨウマル(以下「チュウヨウマル」という。)は、養殖漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、養殖中のふぐを水揚げする目的で、船首甲板に水揚げに使用するベルトコンベア1台を載せ、船首0.1メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、平成9年3月9日12時25分高知県宇須々木漁港を発し、宿毛市小筑紫町内外ノ浦の湾口部に設けられていた養殖施設に向かった。
発航後A受審人は、船尾寄りに設けられた操舵室の後部に置いた台の上に立ち、操舵室屋根越しに前方を見張りながら手動による操舵に当たり、宿毛湾奥の大島南西方に設置されている真珠母貝養殖施設を左舷近くに見て南下し、12時36分土佐長崎鼻灯台(以下「長崎鼻灯台」という。)から295度(真方位、以下同じ。)2,600メートルの、同養殖施設南西角付近で、針路を長崎鼻灯台を船首方向少し右舷に見る105度に定め、機関を全速力前進にかけて13.1ノットの対地速力で進行した。
ところで、チュウヨウマルは全速力前進で航行すると船首が浮上し、A受審人の操舵位置からは、船首から前方約300メートルまでが死角に入り、また、船首甲板上に置かれていたベルトコンベアや船首部のマストとデリックも前方の見張りを一部妨げ、船首方向の見張りがやや困難な状況であったものの、注意して見張りに当たれば、船首方向に存在する他船を視認することが可能であった。
A受審人は、当日が日曜日で養殖漁業に従事する漁船等が出漁しておらず、付近に他船はいないものと思い、長崎鼻灯台の背後にある山とその北東方の湾口部対岸の小高い山を目標とし、これらのほぼ中間に船首を向けて続航した。そして、12時37分半長崎鼻灯台から299度1,900メートルの地点に達したとき、正船首方向1,000メートルのところで錨泊しているみしま丸を視認できる状況となり、その後、その方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近したが、前方の海面付近の見張りを十分に行っていなかったので、同船の存在に気付かず、これを避けることなく進行し、間もなく同船が船首死角に入って視認できない状況となった。
こうして、チュウヨウマルは、原針路、原速力で航行中、12時40分長崎鼻灯台から312度950メートルの地点において、その船首がみしま丸の左舷中央部に前方から40度の角度で衝突して乗り上げた。
当時、天候は晴で風力3の北西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
また、みしま丸は、船尾付近に緑色のオーニングを張ったセルモータ始動式船外機を搭載した無甲板型プレジャーボートで、船長Bが1人で乗り組み、釣りをする目的で、同日10時40分宿毛市小筑紫町田ノ浦の係留地を発し、長崎鼻灯台沖合の釣り場に向かった。
10時50分ごろB船長は、前示衝突地点付近の釣り場に到着し、漁船等の通常航行する海域であったが、錨泊中であることを示す球形形象物を表示しないまま、荷造りなどに用いられるポリプロピレン製紐の先端に建材用コンクリート製ブロックを結び、これらを錨と錨索の代わりに用いて水深約30メートルのところに錨泊し、いとよりの一本釣りを開始した。
12時37分半B船長は、前示衝突地点において、船首をほぼ325度に向けて釣りを行っていたとき、チュウヨウマルが左舷船首40度1,000メートルのところから衝突のおそれがある態勢で来航し、間近に接近しても避航する気配が見られなかったが、錨索代わりの紐を切断し、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとらないまま、325度に向首して錨泊中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、チュウヨウマルは船首部に小破口を、及び船底部に擦過傷をそれぞれ生じ、みしま丸は両舷ブルワーク等に亀裂を、及びオーニングステイに曲損などをそれぞれ生じて右舷側に転覆し、また、B船長(大正13年4月15日生、四級小型船舶操縦士免状受有)が頭部打撲等の傷を負って海中に転落し、溺水によって死亡した。

(原因)
本件衝突は、高知県宿毛湾北東部を航行中のチュウヨウマルが、見張り不十分で、錨泊中のみしま丸を避けなかったことによって発生したが、みしま丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、単独で操船して高知県宿毛湾北東部の長崎鼻沖合を東行する場合、錨泊中のみしま丸を見落とすことがないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、当日が日曜日で付近を航行する漁船等が見当たらなかったことから気を許し、前方の山などを目標にして操舵に当たり、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、みしま丸の存在を見落とし、同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船船首部に小破口等を生じさせ、みしま丸の両舷ブルワーク等に損傷を生じさせて転覆に至らしめ、また、同船の船長を溺水により死亡させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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