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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年5月14日11時15分 佐賀県呼子港 2 船舶の要目 船種船名 漁船永勝丸
漁船孝丸 総トン数 11.42トン 4.98トン 全長 15.40メートル 12.50メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
308キロワット 154キロワット 3 事実の経過 永勝丸は、船体中央からやや後方に操舵室を設けた平甲板型FRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、たいのはえ縄漁に備えて食料を積み込むなどの目的で、船首0.60メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、平成9年5月14日10時30分佐賀県馬渡島漁港を発し、同県呼子港内の名護屋漁港に向かった。 ところで、呼子港は、港則法の適用港であるうえ、港内には名護屋漁港のほ呼子、波戸、加部島及び小友の4漁港が存在し、多数の小型漁船やカーフェリーなどが出入航のために行き交うところであった。 発航後A受審人は、舵輪後方に置いた高さ約1メートルのいすに腰掛けて見張りに当たり、呼子港に向けて東行中、操舵室の床の上に置いた充電器で携帯電話機の充電を行ないながら同港内に入航し、11時09分半呼子港名護屋B防波堤灯台(以下「B灯台」という。)から307度(真方位、以下同じ。)1,950メートルの地点に達したとき、針路を127度に定め、機関を半速力前進にかけて11.0ノットの速力とし、その後周囲の見通しがよく利くように靴を脱いでいすの上に立ち、天窓から上半身を出して見張りに当たり、手が舵輪に届かなくなったので足で操舵しながら進行した。 11時13分少し過ぎA受審人は、B灯台から307度770メートルの地点に達し、針路を101度に転じたとき、右舷船首3度650メートルのところに、船首が北北東方に向いた状態で漂泊している孝丸を認め、同時14分同船に340メートルまで接近したとき、そのまま進行すれば同船を右舷側30メートルばかり隔てて航過できる状況となったが、ふと床を見て充電ランプが点灯していないことに気付き、自船は保針性が良いのでしばらくは舵中央のまま舵輪を放していても大丈夫と思い、針路が右に振れて孝丸に著しく接近することがないよう、針路を十分に保持することなく、再度携帯電話機の充電を行うこととし、その後床に座って充電器の点検などをしていたので、徐々に船首が右に振れていることに気付かなかった。 こうして永勝丸は、次第に孝丸に向首するようになって続航中、11時15分わずか前A受審人が、充電器をリセットしたのち、上陸に備えて靴を履き、床から立ち上がったとき、船首至近に同船を認め、驚いて機関を停止したが、及ばず、11時15分B灯台から000度300メートルの地点において、その船首が113度に向いたとき、ほぼ原速力のまま、孝丸の左舷中央部に90度の角度をもって衝突した。 当時、天候は曇で風はほとんどなく、視界は良好であった。 また、孝丸は、船体中央からやや後方に操舵室を、同室前の甲板下に船首方から1番ないし3番の、魚倉をそれぞれ設けた平甲板型のFRP製小型遊漁兼用船で、B受審人が1人で乗り組み、船首0.50メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、同日10時30分名護屋漁港を発した。 ところで、B受審人は、釣り客が望んだときにいつでも遊漁ができるよう、生きた小えびを常時保有し、3番魚倉をその生け簀(す)として使用していたが、係留地の名護屋漁港内の海水が汚れているため、時折同漁港を出ては呼子港内の弁天瀬戸と名護屋浦とが交差する辺りの水域において、同倉内の海水を入れ替えていた。 10時40分B受審人は、前示衝突地点に至り、機関を中立運転としたまま漂泊し、3番魚倉の海水の入れ替えを行ったのち、10キログラムほどの小えびのうち、約半数が弱ったり死んだりしていたのでこれを取り除くため、3番魚倉倉口前方右舷側の甲板上に座り、同倉内に顔を入れて小えびの選別を始めた。 11時13分少し過ぎB受審人は、船首を023度に向けて漂泊していたとき、左舷船尾81度650メートルのところに永勝丸を視認でき、その後同船が船首前方30メートルばかりを航過する態勢から、わずかずつ右転して自船に接近するような状況となったが、正午前後の時間帯は漁船の通航量も少なく、漂泊を始めたときには周囲に他船を見かけなかったのでしばらくは大丈夫と思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、この状況に気付かないまま、小えびの選別を続けた。 こうして孝丸は、注意喚起信号を行ったり、機関のクラッチを入れて移動したりするなどの永勝丸との衝突を避けるための措置をとることができないまま漂泊中、11時15分わずか前B受審人が、ふと顔を上げて同船が至近に迫っているのに気付いたものの、何らの措置をとる暇もなく、右舷船首方に身を逃れた直後、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、永勝丸は、船首部に小破口及び擦過傷を生じ、孝丸は、左舷中央部付近を圧壊したが、のちいずれも修理された。また、B受審人が、衝撃で倒れたマストに打たれ、40日間の入院治療を要する骨折や打撲傷などを負った。
(原因) 本件衝突は、小型の漁船などが多数行き交う呼子港内において、永勝丸が、針路の保持が不十分で、船首が徐々に右に振れて漂泊中の孝丸に向かって進行したことによって発生したが、孝丸が、見張り不十分で、永勝丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、小型漁船などが多数行き交う呼子港内を名護屋漁港に向げて進行中、前路に漂泊している孝丸を認めた場合、同船を右舷側30メートルばかり隔てて航過できる態勢であったから、針路が右に振れて同船に著しく接近することがないよう、針路を十分に保持すべき注意義務があった。しかし、同人は、自船は保針性が良いので、しばらくは舵中央のまま舵輪を放していても大丈夫と思い、床に座って充電器の点検などを行っていて針路を保持しなかった職務上の過失により、徐々に船首が右に振れ、孝丸に向首進行して同船との衝突を招き、永勝丸の船首部に小破口、孝丸の左舷中央部に圧壊を生じさせ、B受審人に骨折や打撲傷などを負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、小型漁船などが多数行き交う呼子港内において漂泊した場合、自船に向首接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、正午前後の時間帯は行き交う漁船も比較的少なく、漂泊前には周囲に他船がいなかったのでしばらくは大丈夫と思い、生け簀の小えびの選別を行っていて周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船に徐々に向首しながら接近する永勝丸との衝突を避けるための措置をとることができずに衝突を招き、前示損傷等を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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