日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成11年函審第18号
    件名
漁船第八幸進丸漁船第五海洋丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年6月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大石義朗、大山繁樹、古川隆一
    理事官
熊谷孝徳

    受審人
A 職名:第八幸進丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第五海洋丸船長 海技免状:一級小型船操縦士
    指定海難関係人

    損害
幸進丸…球状船首部及び船首部左舷側船底外板に摩擦傷
海洋丸…船尾ブルワークを圧壊して右舷側に横転、のち廃船

    原因
幸進丸…見張り不十分、追い越しの航法(避航動作)不遵守(主因)
海洋丸…見張り不十分、警告信号不履行、追い越しの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第五海洋丸を追い越す第八幸進丸が、見張り不十分で、第五海洋丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第五海洋丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年10月22日05時30分
北海道室蘭港北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八幸進丸 漁船第五海洋丸
総トン数 4.9トン 4.90トン
登録長 11.90メートル 9.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 90 40
3 事実の経過
第八幸進丸(以下「幸進丸」という。)は、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、船首0.3メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成10年10月22日03時00分北海道有珠漁港を発し、03時15分アルトリ岬南西方4.5海里ばかりの漁場に至り、前日に設置しておいた刺し網の揚網作業を開始し、かれいなど約120キログラムを獲て、05時25分揚網作業を終え、同時28分虻田港西防波堤灯台から216度(真方位、以下同じ。)5.5海里の漁場を発進し、帰途についた。
A受審人は、発進したとき、航行中の動力船の灯火を表示して単独船橋当直に当たり、05時28分半、虻田港西防波堤灯台から216度5.4海里の地点に達したとき、針路を虻田漁港南方のオタモイノ埼に向く041度に定め、機関を全速力前進にかけ、20.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
定針したとき、A受審人は、ほぼ正船首840メートルに第五海洋丸(以下「海洋丸」という。)の白色全周灯を視認し得る状況であったが、前路に他船はいないものと思い、正船首方の見張りを十分に行わなかったので同船の灯火を認めなかった。
A受審人は、その後自船が海洋丸を追い越す態勢で接近し、衝突のおそれがあったが、このことに気付かず、同船の進路を避けることなく続航中、05時30分虻田港西防波堤灯台から215度5.0海里の地点において、幸進丸の船首が、海洋丸の船尾中央に、後方から24度の角度で原針路、風速力のまま衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は下げ潮の初期にあたり日出前の薄明りで周囲は暗かった。
また、海洋丸は、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか2人が乗り組み、船首0.3メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、平成10年10月22日02時00分北海道有珠漁港を発し、03時00分アルトリ岬南西方沖合4海里ばかりの漁場に至り、前日に設置しておいた刺し網の揚網作業を行ったが、漁獲が少なかったので投網準備していた刺し網を少し北右の漁場に設置することにし、05時24分虻田港西防波堤灯台から214度5.2海里の漁場を発進した。
B受審人は、発進したとき、単独船橋当直に当たり、操舵室上部マストに白色全周灯1個とその下方に両色灯を点灯し、針路を虻田漁港の西方沖合に向く017度に定め、機関を微速力前進にかけて2.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
05時28分半、B受審人は、虻田港西防波堤灯台から214度5.1海里の地点に達したとき、左舷船尾27度840メートルに幸進丸の白、紅、緑3灯を視認し得る状況となったが、漁場発進前に他船を認めなかったことから周囲に他船はいないものと思い、後方の見張りを十分に行わなかったので、同船の灯火を認めなかった。
B受審人は、その後幸進丸が自船を追い越す態勢で、自船の進路を避けることなく接近し、衝突のおそれがあったが、このことに気付かず、警告信号を行わず、速やかに右転するなどの衝突を避けるための協力動作をとることなく続航中、05時30分少し前船尾甲板にいた漁労長の叫び声を聞き、左舷船尾至近に迫った幸進丸を認めたが、どうすることもできず、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、幸進丸は、球状船首部及び船首部左舷側船底外板に擦過傷を生じ、海洋丸は、船尾ブルワークを圧壊して右舷側に横転し、同業船により有珠漁港に引き付けられたが、のち廃船処分となり、海洋丸の乗組員全員が、海中に投げ出されたが幸進丸に無事救助された。

(原因)
本件衝突は、日出前の薄明時、北海道室蘭港北西方沖合において、北上する海洋丸を追い越す幸進丸が、見張り不十分で、海洋丸の進路を避けなかったことによって発生したが、海洋丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、日出前の薄明時、室蘭港化西沖合を北海道有珠漁港に向けて航行する場合、北上する海洋丸を見落とさないよう、正船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、前路に他船はいないものと思い、正船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、海洋丸を追い越す態勢となったことに気付かないまま同船の進路を避けずに進行して同船との衝突を招き、同船の船尾ブルワークを圧壊、横転させて廃船処分に至らせ、自船の球状船首部及び船首部左舷側船底外板に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、日出前の薄明時、室蘭港北西沖合においで漁場の移動を行う場合、左側後方から接近する幸進丸を見落とさないよう、後方の見張りを十分に行うべき注義務があった。ところが、同人は、周囲に他船はいないものと思い、後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、追い越す態勢の幸進丸が自船の進路を避けずに接近していることに気付かず衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して幸進丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION