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1999年(平成11年)

平成10長審第60号
    件名
プレジャーボート郡青プレジャーボートアサノ衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年3月5日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

保田稔、原清澄、坂爪靖
    理事官
酒井直樹

    受審人
A 職名:郡青船長 海技免状:四級小型船船舶操縦士
B 職名:アサノ船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
群青…船首船底に亀裂並びに推進器翼及び同軸に曲損
アサノ…操舵室前部船体を圧壊、のち浸水により沈没して放棄、船長及び同人の友人が頸椎捻挫

    原因
群青…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
アサノ…見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、郡青が、見張り不十分で、錨泊中のアサノを避けなかったことによって発生したが、アサノが、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも、一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年3月29日11時40分
長崎県北松浦郡二神島北側海域
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート群青 プレジャーボートアサノ
全長 11.90メートル
登録長 10.40メートル 7.49メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 154キロワット 69キロワット
3事実の経過
群青は、船体中央部のキャビン上方に操舵室を設けたFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、友人3人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.30メートル船尾0.90メートルの喫水をもって、平成10年3月28日23時15分博多港内の係留地を発し、長崎県北松浦郡二神島周辺の釣り場に向かった。
A受審人は、二神島周辺海域に至って同島や小二神島周辺を周回して釣り場を物色し、翌29日02時30分ごろから小二神島南西方200メートルばかりの地点に錨泊して友人3人に釣りを行わせ、自らは仮眠をとったのち、釣りを始めたが釣果がないので移動し、08時ごろから11時少し前まで、二神島灯台の北方900メートルばかりの地点で釣りを行ったのち、周囲にアサノほか2隻のプレジャーボートが錨泊していた同地点から再び移動し、11時ごろ二神島灯台から283度(真方位、以下同じ。)3,400メートルばかりの地点に投錨し、釣りを継続したものの、全く魚信がないので帰航することとし、同時30分同地点を発進した。
発進直後からA受審人は、針路を083度に定め、機関をほぼ全速力前進にかけて18.0ノットの速力とし、右舷側操縦席に腰掛けて見張りに当たって進行中、キャビン前方のいけす内の海水が船体動揺によりしぶきとなって操舵室前面の窓ガラスに付着し、前方が見づらくなったので、11時35分二神島灯台から333度1,220メートルの地点に達し、右舷船首方500メートルばかりに錨泊中のアサノほか2隻のプレジャーボートを見るようになったとき、漂泊を開始していけすの船底通水口の栓を閉鎖する作業を友人に頼んだものの、同作業がはかどらないので自ら操舵室から降りて同作業を行った。
同作業を終えたA受審人は、折からの潮流により北東方に60メートルばかり流されて、二神島灯台から337度1,250メートルの地点から再び083度の針路として発進することとしたが、漂泊前に前方に他船を見なかったことから、進行方向に他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、自船が漂泊中にアサノが釣り場を移動して進行方向300メートルのところに錨泊したことに気付かず、11時39分操縦席に戻るや否や発進し、機関を急いで増速しながら進行した。
こうして、群青は、錨泊中のアサノを避けないまま続航中、A受審人が船首至近にアサノを認めたが、とき既に遅くどうすることもできず、11時40分速力が18ノットばかりとなったとき、二神島灯台から354度1,200メートルの地点において、船首部がアサノの操舵室前の右舷外板に、前方から70度の角度で衝突し、同船を乗り切った。
当時、天候は晴で風力1の西風が吹き、潮高は下げ潮の初期で微弱な北東流があった。
また、アサノは、船体中央部に操舵室を設け、有効な音響を発することができる信号設備を有すべきところ、同設備のないFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、友人1人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.30メートル船尾0.60メートルの喫水をもって、同29日06時00分佐賀県呼子港内の係留地を発し、二神島周辺の釣り場に向かった。
B受審人は、二神島周辺に至って同島を周回しながら釣り場を物色し、08時45分二神島灯台の北方900メートルばかりの地点で、既に錨泊して魚釣り中の郡青ほか2隻のプレジャーボートから100メートルないし200メートル離れるように投錨し、たい釣りを行っていたところ、10時半を過ぎたころから釣果がなくなり、やがて郡青が移動を始めたのを認めたのち、11時35分過ぎから魚群探知器を見ながら微速力で自船も移動を始め、同時38分前示衝突地点に至って投錨し、水深約30メートルのところで船首から錨索を約50メートル延出して形象物を掲げず、機関を中立運転としたまま錨泊を始めた。
投錨したのちB受審人は、他船が帰途についたり、釣り場を移動したりすることを承知していたが、錨泊中の自船に向首接近する他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、ほどなく折からの潮流により船首が193度の方向で安定したことから、操舵室から出て船首部に赴き、魚群探知器で認めた魚影の上に船体を合わそうと錨索の長さを調整したり、余分の錨索を整理したりするなどの作業を友人と行っていたので、郡青が漂泊地点を発進し、その後同船が衝突のおそれのある態勢で自船に向首進行する状況となったことに気付かなかった。
こうしてアサノは、速やかに錨索を延ばして機関を使用するなどの衝突を避けるための措置をとることができないまま、同40分わずか前B受審人が、郡青を至近に認めたが、どうすることもできずに友人と共に海中に飛び込んだ直後、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、群青は、船首船底に亀(き)裂並びに推進器翼及び同軸に曲損を生じ、アサノは、操舵室前部船体を圧壊した。両船は、自力航行が不能となったため、付近で釣りを行っていたプレジャーボートに曳航されて呼子港に向かったが、その途上、アサノは損傷部からの浸水により沈没して放棄され、郡青はのちに修理された。また、B受審人及び同人の友人Cが、後日海中に飛び込む際に負ったとされる頸椎捻挫と診断された。

(原因)
本件衝突は、プレジャーボートなどが魚釣りを行う二神島北側海域において、群青が、漂泊状態から発進する際、見張り不十分で、錨泊中のアサノを避けなかったことによって発生したが、アサノが、見張り不十分で、群青との衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、プレジャーボートなどが魚釣りを行うために錨泊したり、釣り場を移動するために航行したりする二神島北側海域において、漂泊状態から発進する場合、他船に向首して発進することがないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、漂泊開始前には前方に他船を見かけなかったことから、進行方向に他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で錨泊中のアサノを避けることができないまま衝突を招き、郡青が船首部及び推進器軸等に損傷を生じ、アサノが船体を圧壊して沈没し、また、B受審人及び同人の友人が負傷するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、プレジャーボートなどが魚釣りを行うために錨泊したり、釣り場を移動するために航行したりする二神島北側海域において、釣り場を移動して錨泊した場合、自船に向首接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、錨泊中の自船に向首接近する他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同船との衝突を避けるための措置をとることができないまま衝突を招き、前示損傷等を生じるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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