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1999年(平成11年)

平成11年横審第4号
    件名
漁船智佳丸漁船清辰丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年7月2日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

勝又三郎、半間俊士、西村敏和
    理事官
小金沢重充

    受審人
A 職名:智佳丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:清辰丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
智佳丸…球状船首の先端部を凹損
清辰丸…右舷中央部外板に破口を伴う損傷

    原因
智佳丸、清辰丸…動静監視不十分、警告信号不履行、船員の常務(避航動作)不遵守

    主文
本件衝突は、両船が操業中、智佳丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、清辰丸の進路を避けなかったことと、清辰丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、智佳丸の進路を避けなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日及び場所
平成9年11月6日08時15分
伊豆諸島新島北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船智佳丸 漁船清辰丸
総トン数 9.1トン 4.86トン
登録長 11.98メートル 12.31メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 235キロワット
漁船法馬力数 120
3 事実の経過
智佳丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が一人で乗り組み、ひき縄漁の目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、平成9年11月6日07時20分伊豆諸島式根島の野伏漁港を発し、同諸島新島北西方沖合の200メートル等深線に囲まれた漁場に向かった。
ところで、智佳丸のひき縄漁は、操舵室の後方付近から両舷にそれぞれ10メートルの竿(さお)を設置し、その先端部と中央部及び船尾両舷から直径2ミリメールの釣用縄合計6本を左右対称に出し、縄の長さは、両竿先端部のものが約31.5メートル、同中央部のものが約12メートル船尾両舷からのものが約40.5メートルで、各縄の先端に擬似餌(ぎじえ)を取り付け、これらを投入してから速力を落として魚群の探索を始め、漁場周辺の海域を適宜動き回り、魚群を見つければその付近を旋回したり、往復したりして漁を行い、魚が釣れたときは後部甲板で縄に取り付けたつなぎ糸をたぐりよせ、魚を取り込むようにしていた。
A受審人は、07時50分新島港灯台から320度(真方位、以下同じ。)4.7海里の高瀬と呼まれる漁場に至って操業に取りかかり、機関を回転数毎分900として6.0ノットの対地速力で魚群探索を行い、このころ先に漁場に到着して操業をしていた清辰丸を視認し、同船が同じひき縄魚を行っているのを認めた。
A受審人は、魚群探知器を作動させて魚群を探索ながら北西方に進み、1.0海里進んだところで左転し南方に針路を変えて操業を続け、一匹目のめじまぐろを獲て後部甲板にて揚収し、08時08分ごろ北東に針路を変えたとき、左舷船首22度1,300メートルに清辰丸を認め、同船が左旋回しながら南西に船首を向けていたが一見して同船は北西方に進んでいるものと思い込み、その後同船に対する動静監視を行わなかった。
08時10分A受審人は、新島港灯台から316度5.7海里の地点において、針路を045度に定め、機関を引き続き微速力前進にかけ、6.0ノットの対地速力で自動操舵で進行したとき、清辰丸が左旋回を続けながら自船の船首方向に接近する状況で南下を始め、清辰丸を左舷船首28度1,160メートルのところに認められる状況で、その後衝突のおそれがある態勢で互いに接近していたが、後部甲板上で後向きになり、釣り上げた魚を魚倉に入れるため、同魚倉にポンプで海水を張る作業を始め、これを見ていたので、依然として同船に対する動静監視が不十分となり、同船の接近に気付かなかった。
A受審人は、引き続き海水を張る作業を続け、清辰丸が更に接近したものの、警告信号を行わず、その後衝突を避けるための措置をとらないまま同一針路で続航中、08時15分わずか前ふと船首方向を振り向いたとき、船首至近に同船を認めて機関を全速力後進にかけたが、及ばず、智佳丸は、08時15分新島港灯台から322度5.8海里の地点において、原針路、原速力のまま、その球状船首が清辰丸の右舷中央部に後方から65度の角度で衝突した。
当時、天候は晴れで風力3の北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、視界は良好であった。
また、清辰丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が一人で乗り組み、ひき縄漁の目的で、船首0.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日05時30分伊豆諸島新島の新島港を発し、同島北西方沖合の前示の漁場に向かった。ところで、清辰丸のひき縄漁は、操舵室の後方付近から両舷にそれぞれ竿を設置し、その先端部と中央部及び船尾から釣用縄合計5本を出し、縄の長さは、両竿の先端部のものが26メートル、同中央部のものが15メートルの、船尾からのものが9メートルで、各縄の先端に擬似餌を取り付け、これらを投入してから機関を微速力前進にかけ、3.5ノットの速力で左旋回しながら行うもので、魚が釣れたときは同じ速力のまま小舵角に舵を切り、旋回しながら魚を取り込むようにしていた。
B受審人は、約1箇月前から静岡県下田港を基地とし、同港を朝出港して伊豆諸島付近に至り、夕方帰航するという日帰り操業を続け、同月6日は新島の友人のところに寄ったので新島港を出港することとなった。
06時50分B受審人は、新島港灯台から334度6.2海里の地点の漁場に至り、ひき縄漁の準備をしたのち、魚群探知器を働させて魚群の探索にあたりながら、機関を微速力前進にかけ、3.5ノットの対地速力で、半径約500メートルの左旋回をしながらひき縄漁を行い、07時15分ごろから操業を開始した。
07時50分ごろB受審人は、付近に来航した智佳丸を初認し、ひき縄漁の準備をしていることから自船と同じ漁を行っているのを知り、間もなく智佳丸が北上し、しばらくして南下し神津島の方向に向かっているのを認めたが、釣果が多くなってきたこともあって釣り上げるのに夢中になり、その後同船の動静を監視しなかった。
08時08分B受審人は、智佳丸が反転し、針路を北東方に向けて航行し始め、自船の船首方向に接近する状況であったが、智佳丸は南下し続けているものと思い、後部甲板上で遠隔操縦装置を使用しながら後方を向き、漁獲物の取り込みに没頭していたので、このことに気付かなかった。
08時10分B受審人は、新島港灯台から322度61海里の地点に達し、半径約500メートルで左旋回し、船首が179度を向いていたとき、智佳丸を右舷船首18度1,160メートルのところに認められる状況で、その後衝突のおそれがある態勢で互いに接近していたが、依然として漁獲物の取り込みに没頭し、このことに気付かなかった。
B受審人は、智佳丸が接近していたが、警告信号を行わず、その後衝突を避けるための措置をとることなく続航中、08時15分わずか前ふと顔を上げて右舷方を見たとき、右舷至近に同船を認めて機関を停止したものの、効なく、旋回中の船首が110度を向いたとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、智佳丸は、球状船首の先端部を凹損し、清辰丸は、右舷中央部外板に破口を伴う損傷を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、伊豆諸島新島北西方沖合の漁場において、両船が操業中、智佳丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、清辰丸の進路を避けなかったことと、清辰丸が動静監視不十分で、警告信号を行わず、智佳丸の進路を避けなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、伊豆諸島新島北西方沖合の漁場において操業中、左舷船首方にひき縄漁に従事している清辰丸を視認した場合、ひき縄中の船は漁場を旋回したり往復したりするのを知っていたのであるから、互いに接近しないよう、清辰丸に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同船は北西方に進んでいるものと思い込み、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する同船に気付かず、その進路を避けずに進行して同船との衝突を招き、同船の右舷側中央部外板に破口を、智佳丸の球状船首の先端部に凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、伊豆諸島新島北西方沖合の漁場において操業中、ひき縄漁に従事している智佳丸を視認した場合、ひき縄中の漁船は漁場を往復したりするのを知っていたのであるから、互いに接近しないよう、智佳丸に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漁獲物の取り込みに没頭し、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する同船に気付かず、その進路を避けずに進行して同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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