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1999年(平成11年)

平成10年広審第104号
    件名
プレジャーボートアバルト漁船雄也丸衝突事件〔簡易〕

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年3月3日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

上野延之
    理事官
副理事官 尾崎安則

    受審人
A 職名:アバルト船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:雄也丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
アバルト…左舷船尾外板に亀裂、後部マスト倒壊、船長が右2指挫創で4日間、同乗者1人が頚部捻挫などで9日間及び同1人が腰部挫傷などで5日間の加療を要する傷
雄也丸…船首防舷材の一部分が剥離

    原因
雄也丸…見張り不十分、追い越しの航法(避航動作)不遵守(主因)
アバルト…動静監視不十分、警告信号不履行、追い越しの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、アバルトを追い越す態勢の雄也丸が、見張り不十分で、アバルトの進路を避けなかったことによって発生したが、アバルトが、動静監視不十分で、有効な音響による警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年8月14日22時40分
広島港
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートアバルト 漁船雄也丸
総トン数 17.09トン 17.00トン
全長 11.90メートル
登録長 17.99メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 36キロワット
漁船法馬力数 180
3 事実の経過
アバルトは、中央部にキャビンを有し、2本マストの補助機関付きバラストキール型のFRP製プレジャーヨットで、A受審人ほか4人が乗り組み、友人など12人を同乗させ、広島県厳島で催される花火大会を海上から見物する目的で、船首尾とも1.8メートルの等喫水をもって、平成9年8月14日15時40分広島港を発し、広島厳島港沖合いで漂泊して見物したのち、他の船が帰途に就いて船が少なくなるのを待ち、21時00分同漂泊地点からマスト灯、両色灯・船尾灯及びキャビンの室内灯を点灯して、帰途に就いた。
A受審人は、発航から操船に就き、操舵輪後方に立ち、乗組員2人を自らの両側に、他の乗組員1人を船尾に位置させて見張りに当たらせ、同乗者12人を船首甲板上に座らせ、21時56分少し過ぎ宇品灯台から256度(真方位、以下同じ。)6.3海里の地点で、針路を078度に定め、機関を全速力前進にかけ、7.0ノットの対地速力で進行した。
22時30分A受審人は、宇品灯台から253度2.4海里の地点に達したとき、正船尾1.1海里に雄也丸の灯火を初めて認めたが、後方の船だから格別配慮するまでもないと思い、動静監視を十分に行わないで続航し、同時35分宇品灯台から252度1.8海里の地点で、同船が自船を追い越す態勢で1,020メートルに接近していたが依然動静監視を十分に行うことなく、これに気付かず、その後装備していた携帯用ボンベ式エアホーンなどの有効な音響による警告信号を行わず、間近に接近したとき衝突を避けるための協力動作も行わないまま進行中、同時40分わずか前船尾至近に迫った雄也丸を認め、左舵一杯にとったが及ばず、22時40分宇品灯台から248度1.2海里において、アバルトは、049度を向首したとき、原速力のまま、その左舷後部に雄也丸の右舷船首が後方から29度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
また、雄也丸は、FRP製漁船で、B受審人1人が乗り組み、家族及びその友人達30人を同乗させ、厳島で催される花火大会を海上から見物する目的で、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同14日17時30分広島港を発し、厳島港沖合で漂泊して花火大会を見物したのち、他の船が帰途に就いて船が少なくなるのを待ち、22時00分同漂泊地点からマスト灯、両舷各灯、船尾灯及び2個の青色回転灯を点灯して、帰途に就いた。
B受審人は、船首に同人の夫及び息子、中央右舷側に母親並びに操舵室内の左舷側に友人を位置させて見張りに当たらせ、操舵室中央に立って操舵操船に当たり、22時25分宇品灯台から255度4.6海里の地点で、針路を078度に定め、機関を半速力前進にかけ、13,6ノットの対地速力で進行した。
22時35分B受審人は、宇品灯合から253度2.3海里の地点に達したとき、正船首1,020メートルにアバルトの船尾灯及びキャビンから漏れる灯火を視認し得る状況になり、その後自船がアバルトを追い越す態勢で接近したが、船首目標の宇品灯台に気を奪われ、見張りを十分にすることなく、これに気付かず、同船を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けないまま続航中、同時40分わずか前船首至近に迫ったアバルトを認め、左舵一杯、機関を極微速力前進にしたが及ばず、雄也丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、アバルトは、左舷船尾外板に亀裂を生じ及び後部マスト倒壊、雄也丸は、船首防舷材の一部分に剥離を生じたが、のちいずれも修理された。また、A受審人が右2指挫創で4日間、アバルトの同乗者Cが頚部捻挫などで9日間及び同Dが腰部挫傷などで5日間の加療を要する傷をそれぞれ負った。

(原因)
本件衝突は、夜間、広島湾において、アバルトを追い越す態勢の雄也丸が、見張り不十分で、アバルトの進路を避けなかったことによって発生したが、アバルトが、動静監視不十分で、有効な音響による警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、夜間、広島湾を帰航する場合、アバルトを見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船首目標の宇品灯台に気を奪われ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、アバルトを確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けないまま続航し、アバルトとの衝突を招き、同船左舷船尾外板の亀裂、同船後部マストの倒壊及び雄也丸の船首防舷材一部分の剥離を生じさせ、A受審人が右2指挫創で4日間、アバルト同乗者Cが頚部捻挫などで9日間及び同Dが腰部挫傷などで5日間の加療を要する傷をそれぞれ負わせるに至った。
A受審人は、夜間、広島湾を帰航中、雄也丸を後方に認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、後方の船だから格別配慮するまでもないと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により有効な音響による警告信号を行わず、間近に接近したとき衝突を避けるための協力動作も行わないまま進行し、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、同人が負傷し、アバルトの同乗者2人に挫傷などの傷を負わせるに至った。

参考図






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