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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年7月17日02時50分 岡山県倉敷市久須見鼻沖合 2 船舶の要目 船種船名 油送船第十高砂丸
貨物船第八進成丸 総トン数 499トン 378トン 全長 66.00メートル 登録長
60.05メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 956キロワット
735キロワット 3 事実の経過 第十高砂丸(以下「高砂丸」という。)は、専ら瀬戸内海、九州地方諸港間の軽油などの運搬に従事する船尾船橋型油タンカーで、A受審人ほか5人が乗り組み、空倉のまま、船首0.7メートルの船尾3.1メートルの喫水をもって、平成9年7月16日14時50分岡山港を発し、水島港に向かった。 A受審人は、積荷が翌朝から行われる予定であったので、久須見鼻北東方沖合で待機することとし、16時35分久須見鼻灯標から028度(真方位、以下同じ。)700メートルの地点で、水深7メートルのところに右舷錨を投じ錨鎖2節を延出して錨泊した。 A受審人は、日没時に法定の錨泊中の船舶の灯火を表示したほか、甲板上の作業用照明灯を点灯し、その後の入港作業や荷役作業に備え乗組員を休息させ、自らも休息していたところ、翌17日02時50分高砂丸が353度を向首していたとき、同船の右舷船尾部に、第八進成丸(以下「進成丸」という。)の船首が、後方から80度の角度で衝突した。 当時、天候は曇で風力1の北西風が吹き、潮候はほぼ低潮時で、衝突地点付近には微弱な南流があった。 A受審人は、衝突の衝撃を感じて直ちに昇橋し、進成丸との衝突を認め、事後の措置に当たった。 また、進成丸は、船尾船橋型貨物船で、B受審人ほか4人が乗り組み、鉄屑約997トンを積載し、船首2.4メートル船尾4.2メートルの喫水をもって、同月15日17時50分京浜港を発し、水島港に向かった。 B受審人は、航海当直を一等航海士との2人による単独6時間交代制とし、自らが03時から09時までと15時から21時までを、一等航海土が他の時間帯をそれぞれ受け持っていたところ、翌16日夕刻紀伊半島南方を航行中、船主でもある一等航海士に会社から電話があり、同人が緊急に徳島県橘港沖合で下船することとなったが、交代人員の手配がつかなかったため、同沖合から欠員のまま水島港に向かうこととした。 B受審人は、一等航海士が下船するまでの間、同人に当直を行わせることとし、18時ごろから休息して21時ごろ再び当直に就き、同時10分橘港沖合で一等航海士を下船させた後、航行中の動力船の灯火を表示して下津井瀬戸経由で水島港に向かった。 B受審人は、他に航海当直ができる乗組員がいなかったことから、橘港沖合から水島港までの6時間あまりの当直を自らが単独で行うこととしたものの、当日、03時から09時及び15時から18時までの当直に入って十分な休息がとれていなかったうえ、発進後は鳴門海峡、備讃瀬戸等の船舶が輻輳(ふくそう)する箇所を長時間通航することとなり、単独の当直を続けると、心身の疲労で居眠り運航となるおそれがあったが、目的地までの所要時間はいつもの当直時間と変わらないので居眠りすることはあるまいと思い、甲板員を昇橋させて2人で当直に就くなどの居眠り運航の防止措置をとることなく、単独当直のまま航行を続けた。 翌17日02時20分B受審人は、大槌島171メートル頂から009度1,300メートルの地点に達したとき、針路を273度に定め、機関を全速力前進の10.0ノットの対地速力で、自動操舵によって進行した。 定針したころB受審人は、前方の久須見鼻北東沖に錨泊する高砂丸ほか数隻の船舶の灯火を認め、02時41分久須見鼻灯標から081度1.7海里の地点に達したとき、竪場島灯浮標を左舷側300メートルに航過したことは記憶しているものの、まもなく眠気を覚えないまま居眠りに陥った。 02時47分B受審人は、久須見鼻灯標から064度1,400メートルの下津井瀬戸に向ける予定転針点に達したころ、正船首900メートルに錨泊中の灯火を表示した高砂丸を視認し得る状況となり、その後衝突のおそれのある態勢で同船に接近したが、居眠りしてこれに気付かず、同船を避けることも、下津井瀬戸への転針もしないまま続航中、進成丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、高砂丸は、右舷船尾外板に凹損及び右舷機関室入口周辺の囲壁を圧壊する損傷を生じ、進成丸は、右舷船首部外板に破口を伴う凹損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、久須見鼻北東方沖合において、進成丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、錨泊中の高砂丸を避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為) B受審人は、夜間、急速が十分にとれていない状態で長時間の単独当直に就く場合、甲板員を昇橋させて2人で当直に就くなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、目的地までの所要時間はいつもの当直時間と変わらないので居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、単独で当直を続けて居眠りに陥り、高砂丸を避けないまま進行して同船との衝突を招き、高砂丸の右舷船尾部外板に凹損及び右舷機関室入口囲壁を圧壊並びに進成丸の右舷船首部外板に破口を伴う凹損をそれぞれ生じさせるに至った。 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
参考図
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