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1999年(平成11年)

平成9年門審第115号
    件名
漁船第二海幸丸漁船第八幸栄丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年2月8日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

伊藤實、西山烝一、岩渕三穂
    理事官
伊東由人

    受審人
A 職名:第二海幸丸船長 海技免状:六級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:第八幸栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
海幸丸…右舷側後部外板に凹損及びブルワークに曲損
幸栄丸…船首部に破口を生じて浸水

    原因
幸栄丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
海幸丸…見張り不十分、注意喚起信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、第八幸栄丸が、見張り不十分で、錨泊中の第二海幸丸を避けなかったことによって発生したが、第二海幸丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年10月9日02時10分
山口県見島西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二海幸丸 漁船第八幸栄丸
総トン数 49.61トン 16.00トン
全長 26.50メートル 19.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 345キロワット
漁船法馬力数 160
3 事実の経過
第二海幸丸(以下「海幸丸」という。)は、しいら漬漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか6人が乗り組み、操業の目的で、船首1.0メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成8年10月8日05時00分山口県奈古港を発し、同県見島西方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、同日07時00分目指す漁場に至ってしいら漬漁を始め、18時ごろその日の操業を終え、20時00分見島北灯台から233度(真方位、以下同じ。)9.2海里の地点において、重さ130キログラムの左舷錨を投入し、直径32ミリメートルの化学繊維製の錨索を300メートルほど延出し、船首を風に立てて北西方に向けて錨泊した。
A受審人は、錨泊中の灯火として、船首マスト上で甲板上の高さ6.4メートルのところに停泊灯を、船体中央部操舵室上のマスト上で甲板上の高さ5.5メートルのところに白色全周灯を、船尾マスト上で甲板上の高さ5.0メートルのところに赤色回転灯を、いずれも40ワットの電球をバッテリー電源で点灯したものの、翌朝の操業に備えて全員を休養させて船橋当直を立てることなく自らも船橋で休息したので、周囲の見張りが不十分であった。
翌9日02時09分A受審人は、船首が290度を向いていたとき、右舷正横方250メートルのところから第八幸栄丸(以下「幸栄丸」という。)が衝突のおそれがある態勢で接近していたが、依然、周囲の見張りが不十分でこのことに気付かず、注意喚起信号を行うことなく錨泊を続けているうち、02時10分前示錨泊地点において、海幸丸は、その右舷側後部に、幸栄丸の船首が直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力3の北西が吹き、視界は良好であった。
A受審人は、衝撃を感じて飛び起き、幸栄丸と衝突したことを知り、事後の措置に当たった。
また、幸栄丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、いか釣りの目的で、船首0.7メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、同月8日13時00分山口県特牛(こっとい)港を発し、見島北方の漁場に向かった。
B受審人は、同日18時ごろ漁場に至って操業を始め、22時30分いか約100キログラムを漁獲したところで操業を打ち切り、同時50分見島北灯台から004度20海里の地点を発進し、水揚げのため特牛港への帰途についた。
漁場発進後、B受審人は、針路を角島西方沖合1海里に向首する200度に定めて自動操舵とし、機関を半速力前進にかけ、8.0ノットの対地速力で、レーダーを4海里レンジとして作動させて進行し、翌9日01時30分ごろ甲板員に漁具の後始末をさせることとし、集魚灯の整備用に前部マストと操舵室との間に架けた、直径5センチメートルのパイプに吊り下げてある電球2個及び操舵室両舷にある電球各3個の合計8個の30ワットの作業灯を点灯し、自らは操舵室の舵輪後方にある高さ約1メートルのすのこに腰を掛けて前方の見張りと操舵に当たった。
02時02分半B受審人は、正船首1海里のところに描泊中の海幸丸を視認でき、同船に衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、前路に他船はいないものと思い、作業灯を点灯していて前方の見張りが妨げられていたものの、レーダーを監視するなどして見張りを十分に行うことなく、同船に気付かないまま、同船を避けずに続航した。
02時09分半少し過ぎB受審人は、操舵室前面で作業をしていた甲板員の大声に気が付き前方を見たところ、海幸丸の船体と錨泊中の灯火とを認め、慌てて機関のクラッチを切ったが効なく、幸栄丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、海幸丸は、右舷側後部外板に凹損及びブルワークに曲損を生じたが、のち修理され、幸栄丸は、船首部に破口を生じて浸水したが自力で奈古漁港に回航し、のち譲渡された。

(原因)
本件衝突は、夜間、山口県見島西方沖合において、同県特牛港に向けて南下中の幸栄丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中の海幸丸を避けなかったことによって発生したが、錨泊中の海幸丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、夜間、山口県見島北方沖合の漁場から同県特牛港に向けて帰航する場合、操業漁船と航行船舶の多い海域であったから、前路の他船を見落とすことのないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路に他船はいないものと思い、レーダーを監視するなど前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、停泊灯、白色全周灯及び赤色回転灯を点灯して錨泊中の海幸丸に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、海幸丸の右舷側後部外板に凹損及びブルワークに曲損を、幸栄丸の船首部に破口及び浸水をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、山口県見島西方沖合で錨泊する場合、見張り不十分で、接近する他船に対して注意喚起信号を行わなかったことは、本件発生の一因となる。
しかしながら、以上のA受審人の所為は、成規の灯火に加え、白色全周灯及び赤色回転灯を点灯していたことに徴し、職務上の過失とするまでもない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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