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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年2月23日05時40分 千葉県房総半島東方沖合 2 船舶の要目 船種船名 遊漁船渡辺丸
遊漁船太田丸 総トン数 5.2トン 4.89トン 全長 15.9メートル 登録長
9.85メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 235キロワット
169キロワット 3 事実の経過 渡辺丸は、FRP製の遊漁船で、A受審人が海技免状のトン数限定を超え船長として単独で乗り組み、釣り客8人を乗せ、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成9年2月23日05時20分千葉県太夫崎漁港を発し、同漁港東方沖合の漁場に向かった。 A受審人は、航行中の動力船が表示する法定の灯火を掲げ、発航後しばらく低速で走り、05時27分鴨川灯台から208度(真方位、以下同じ。)2.5海里の地点に達したとき、針路を090度に定めて自動操舵とし、機関を回転数毎分1,800にかけ、15.0ノットの対地速力で進行した。 A受審人は、高速力で航走すると船首浮上により船首に死角が生じることを知っていたが、多くの遊漁船が集まる漁場より北方の別の漁場に向かうつもりであったことから船首方に他の遊漁船はいないものと思い、定針後、作動中のレーダーを短距離レンジに切り替えて活用するなり、操舵室天井の開口部から顔を出すなりして船首死角を補う見張りを十分に行うことなく、レーダーを6海里レンジとしたまま、操舵室内の椅子(いす)に腰掛けて操船にあたった。 A受審人は、05時30分正船首2海里のところに先航する太田丸の白灯1個を初認することができ、同時36分鴨川灯台から154度2.5海里の地点に達したころには、前部甲板の作業灯を更に点じて漂泊を開始した同船を正船首1海里に視認することができる状況であったが、船首死角に入っていてその存在に気付かず、その後司船に向かって接近したものの、機関を後進にかけるなど同船を避ける措置をとらずに続航中、05時40分鴨川灯台から137度3.1海里の地点において、原針路、原速力のままの渡辺丸の船首が、太田丸の左舷船首に後方から60度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力1の北北東風が吹き、視界は良好で、日出は06時23分であった。 また、太田丸は、FRP製の遊漁船で、B受審人が単独で乗り組み、釣り客4人を乗せ、船首0.2メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同日05時05分太夫崎漁港を発し、同漁港東方沖合の漁場に向かった。 B受審人は、05時13分半鴨川灯台から208度2.5海里の地点において針路を090度に定め、10.0ノットの対地速力とし、航行中の動力船が表示する法定の灯火を掲げて手動操舵で進行し、同時30分正船尾2海里に後続する渡辺丸の白、紅、緑3灯に気付かないまま続航した。 B受審人は、05時33分前示衝突地点に至って機関を中立とし、前部甲板にある60ワットの作業灯1個を点じ、釣り客に釣りの準備を始めさせ、船首を030度に向首して漂泊を開始したが、接近する他船があれば漂泊中の自船を避けるものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、魚群探知機の監視に熱中していて、同時36分左舷正横後30度1海里に白、紅、緑3灯を示して来航する渡辺丸の存在に依然気付かず、その後自船に向かって接近する渡辺丸に対して警告信号を行わず、同船が避航しないまま更に接近しても機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとらずに漂泊中、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、渡辺丸は、船首部に擦過傷を生じ、太田丸は左舷船首部を圧壊したが、のちいずれも修理され、太田丸の釣り客3人が胸部打撲等を負った。
(原因) 本件衝突は、夜間、太夫崎漁港東方沖合において、漁場に向け東航中の渡辺丸が、見張り不十分で、漂泊中の太田丸を避けなかったことによって発生したが、太田丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、太夫崎漁港東方沖合を漁場に向け東航する場合、船首浮上により船首死角が生じていたのであるから、レーダーを活用するなどの船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、多くの遊漁船が集まる漁場より北方の別の漁場に向かうつもりであったことから船首方に他の遊漁船はいないものと思い、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、太田丸の存在に気付くことなく、漂泊中の同船を避けずに接近して衝突を招き、自船の船首部に擦過傷を生じ、太田丸の左舷船首を圧壊し、太田丸の釣り客3人が胸部打撲等を負うに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用し同人を戒告する。 B受審人は、夜間、太夫崎漁港東方沖合において、遊漁を行うために漂泊する場合、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、接近する他船があれば漂泊中の自船を避けるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船に向け接近する渡辺丸に気付かず、同船に対して警告信号を行うことも、衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けて同船との衝突を招き、両船が前示の損傷を生じ、太田丸の釣り客が負傷するに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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