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1999年(平成11年)

平成10年神審第99号
    件名
貨物船新住宝丸灯浮標衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年6月8日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明、工藤民雄、西田克史
    理事官
坂本公男

    受審人
A 職名:新住宝丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
本船…船首部ハンドレールに曲損
灯浮標…頂部及び浮体底部に凹損等

    原因
見張り不十分

    主文
本件灯浮標衝突は、見張りが十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年1月19日06時00分
明石海峡東方
2 船舶の要目
船種船名 貨物船住宝丸
総トン数 199トン
全長 57.57メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 661キロワット
3 事実の経過
新主宝丸は、主に岡山県水島港から阪神方面への鋼材輸送に従事する船尾船橋型の貨物船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか1人が乗り組み、鋼材613トンを載せ、船首2.50メートル船尾3.50メートルの喫水をもって、平成10年1月18日22時40分水島港を発し、大阪府阪南港に向かった。
A受審人は、いつものとおり有限会社Rの専務取締役であるB指定難灘関係人と交替で単独の船橋当直に当たることとし、同受審人が発航操船に続いて当直に就き、翌19日。3時30分播磨灘航路第3号灯浮標の西方約3海里の地点で同指定海難関係人と交替した。
このときA受審人は、航海の海技免状を受有していないB指定海難関係人に対し、明石海峡航路に近づいたときには起こすようにと指示したものの、同人が長年にわたり単独当直の経験があるうえ、船舶所有者の1人であることから遠慮し、潮流の強い海域を航行するのであるから、圧流されて灯浮標等に接触することがないよう、前路の見張りを十分に行うよう指示することなく降橋して自室で休息をとった。
B指定海難関係人は、単独で船橋当直に当たって播磨灘を東行し、05時24分ごろ明石海峡航路西方灯浮標(以下、灯浮標の名称については「明石海峡航路」を省略する。)に並航したが、当直を交替してからの時間が短く、A受審人がまだ十分に休んでいないと思い、当時、視界も良く付近航行船も少なかったことから、同受審人を起こさないまま、自ら単独で操船して明石海峡を通峡することとし、明石海峡航路に入航して航路に沿って東行した。
05時50分半B指定海難関係人は、明石海峡航路東口の、平磯灯標から215度(真方位、以下同じ。)1.5海里の地点に達したとき、針路を東方灯浮標を船首方向わずか左舷側に見る124度に定めて自動操舵とし、機関を約10ノットの全速力前進にかけ、折からの東南東流に乗じて12.9ノットの対地速力で、左方に約1度圧流されながら進行した。
05時57分少し過ぎB指定海難関係人は、東方灯浮標が正船首方向わずか左約1海里に視認できる状況となったとき、GPSプロッターに表示されている124度の針路線が同じくプロッターに表示されている同灯浮標の右方を航過するよう示されていたことから、しばらくは大丈夫と思い、船橋後部右舷側にある海図台に赴き、後方を向いて同灯浮標通過後の針路を海図で確かめていたところ、徐々に左方に圧流されて東方灯浮標に向け進行する状況となったが、前路の見張りを十分に行わず、これに気付かないで続航した。
こうして、新住宝丸は、06時00分平磯灯標から160度2.45海里の地点において、その左舷船首部が、東方灯浮標に原針路、原速力のまま衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、明石海峡には2.9ノットの東南東流があった。
A受審人は、衝突の衝撃音で目覚め、急ぎ昇橋して本件の発生を知り、事後の措置に当たった。
衝突の結果、新住宝丸が船首部ハンドレールに曲損を、東方灯浮票が順部及び浮体底部に凹損等をそれぞれ生じ、同灯浮標は交換のうえ、のち修理された。

(原因)
本件灯浮標衝突は、夜間、明石海峡航路を出て東行中、前路の見張りが不十分で、東方灯浮標に向け進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは、船長が、航海の海技免状を受有しない者を船橋当直に当てる際、前路の見張りを十分に行うよう指示しなかったことと、船橋当直者が、灯浮標に接近して航過しようとする際、前路の見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、播磨灘を明石海峡に向けて航行中、航海の海技免状を受有しない者を船橋当直に当てる場合、潮流の強い海域を航行するのであるから、圧流されて灯浮標等に接触することがないよう、前路の見張りを十分に行うよう指示すべき注意義務があった。しかし、同人は、同当直者が長年にわたる単独船橋当直の経験があるから大丈夫と思い、前路の見張りを十分に行うよう指示しなかった職務上の過失により、同当直者が東方灯浮標を左舷に接近して航過しようとする際、見張りが十分に行われず、潮流に圧流されて同灯浮標との衝突を招き、新住宝丸の船首ハンドレールに曲損を、東方灯浮標に凹損等をそれぞれ生じさせた。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、夜間、明石海峡航路通週後、東方灯浮標に接近する針路で航行中、前路の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、その後同人が安全運航に努めている点に徴し、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。






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