日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成11年仙審第14号
    件名
漁船金幸丸漁船栄丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年8月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

上野延之、高橋昭雄、内山欽郎
    理事官
大本直宏

    受審人
A 職名:金幸丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:栄丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
金幸丸…右舷船首部を損傷
栄丸…船首部外板に擦過傷、作業員1人が約1箇月半の入院治療を要する硬膜下血腫

    原因
金幸丸、栄丸…視界時の航法(速力・信号)不遵守

    主文
本件衝突は、金幸丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、栄丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月20日04時25分
岩手県箱崎魚港
2 船舶の要目
船種船名 漁船金幸丸 漁船栄丸
総トン数 1.1トン 1.0トン
登録長 6.83メートル 6.82メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
漁船法馬力数 18 30
3 事実の経過
金幸丸は、レーダー及び法定灯火の設備を有しな定置漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか4人が乗り組み、網起こしの目的で、船首0.25メートル船尾0.20メートルの喫水をもって、平成10年8月20日04時15分箱崎漁港の係留地を発し、同港北西方沖合の定置網に向かった。
ところで、箱崎漁港は、岩手県大槌湾奥の南西部に位置し、同港北部の北防波堤西端及び西第1防波堤(以下「西防波堤」という。)東端との間に、水路幅約60メートルの入り口があり、北防波堤西端部に緑色灯を頂部に装備した白色立標及び西防波堤東端部に紅色灯を頂部に装備した紅色立標がそれぞれ設置されており、大槌港灯台から210度(真方位、以下同じ。)1.5海里の地点に箱崎漁港原点(以下「原点」という。)が設けられていた。
発航するとき、A受審人は、各防波堤の立標の灯火を認めたものの、海面上3ないし5メートルまで霧が徐々に濃くなっていくのを認めたが、バケツを叩くなど有効な音響による霧中信号を行わないで、作業員1人を右舷船首に後ろ向きに、船体中央に作業員2人を、右舷船尾に1人をそれぞれ腰掛けさせ、自らは左舷船尾で腰掛けて舵柄により操舵に当たった。
発航後、A受審人は、機関を後進にかけて岸壁から離れ、機関を一旦停止してその後前進にかけ、右回頭を行い、04時24分原点から178度135メートルの地点で、針路を港の入り口に向かう330度に定め、機関を半速力前進にかけ、4.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行し、海面上3ないし5メートルまで霧が濃くなり視程が更に制限される状態になったが、速力をそれほど出していないので他船を視認してからでも避けることができると思い、状況に応じて直ちに停止できる安全な速力で航行しなかった。
04時25分少し前A受審人は、原点から216度69メートルの地点に達したとき、右舷船首18度75メートルのところに栄丸が存在したが気付かず、依然霧中信号を行わず、状況に応じて直ちに停止できる安全な速力にしないまま続航し、同時25分わずか前右舷船首至近に迫った栄丸の船影を初めて認め、機関を中立としたが及ばず、04時25分原点から243度62メートルの地点において、金幸丸は原針路、原速力のまま、その右舷船首部に栄丸の船首が前方から30度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、視程は40メートル以下で、潮候は下げ潮の中央期にあたり、日出は04時49分であった。
また、栄丸は、レーダー及び法定灯火の表示設備を有しない採介藻漁業に従事する船外機を装備したFRP難漁船で、B受審人が1人で乗り組み、同日03時00分箱崎漁港を発し、同港北方沖合のほたて貝養殖場に至ってほたて貝300キログラムを漁獲し、船首0.15メートル船尾0.20メートルの喫水をもって、同養殖場を発して帰途に就いた。
発航したとき、B受審人は、海面上3ないし5メートルまで霧がかかり視程が40ないし50メートルになっていたのを認めたが、船首部甲板上の高さ2.5メートルの位置に200ワットの傘付き作業灯を1個点灯しただけで、バケツを叩くなど有効な音響による霧中信号を行わず、市場の出荷時間に間に合わせようと思い、状況に応じて直ちに停止できる安全な速力で航行しなかった。
04時24分B受審人は、原点から346度233メートルの地点で、針路を箱崎漁港の入り口に向かう180度に定め、機関を半速力前進にかけ、9.0ノットの速力で進行した。
04時25分少し前B受審人は、原点から287度59メートルの地点に達したとき、左舷前方にぼんやりと北防波堤の立標の緑色灯火を認め、海面上3ないし5メートルまで霧が濃くなって視程が更に制限される状態になったので、速力を6.0ノットに減速したものの、依然、霧中信号を行わず、状況に応じて直ちに停止できる安全な速力にしないまま続航し、同時25分わずか前左舷船首至近に迫った金幸丸の船影を初めて認め、機関を全速力後進にかけたが及ばず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、金幸丸は右舷船首部を損傷し、栄丸は船首部外板に擦過傷をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理され、作業員Cは後頭部を強打し、約1箇月半の入院治療を要する硬膜下血腫を負った。

(原因)
本件衝突は、日出前の薄明時、霧が徐々に濃くなって視界制限状態になる大槌湾において、金幸丸が、箱崎漁港を出航する際、有効な音響による霧中信号を行わず、状況に応じた安全な速力で航行しなかったことと、栄丸が、同港付近沖合のほたて貝養殖場から帰航する際、有効な音響による霧中信号を行わず、状況に応じた安全な速力で航行しなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、日出前の薄明時、箱崎漁港を出航する際、徐々に霧が濃くなるのを認めた場合、状況に応じた安全な速力で航行すべき注意義務があった。しかるに、同人は、速力をそれほどど出していないので他船を視認してからでも避けることができると思い、安全な速力で航行しなかった職務上の過失により、栄丸との衝突を招き、金幸丸の右舷船首部に損傷及び栄丸の船首部外板に擦過傷を生じさせ、作業員1人に硬膜下血腫を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、日出前の薄明時、箱崎漁港付近沖合のほたて貝養殖場から帰航する際、霧が濃くなるのを認めた場合、状況に応じた安全な速力で航行すべき注意義務があった。しかるに、同人は、市場の出荷時間に間に合わせようと思い、安全な速力で航行しなかった職務上の過失により、金幸丸との衝突を招き、両船に前示損傷及び作業員1人に硬膜下血腫を負わせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION