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1999年(平成11年)

平成10年神審第107号
    件名
貨物船第八海徳丸引船光復丸引船列衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年5月20日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

須貝壽榮、佐和明、工藤民雄
    理事官
平野浩三

    受審人
A 職名:第八海徳丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:光復丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
海徳丸…右舷船首外板に凹損
台船…右舷前部外板凹損、積載されていたコンテナ2個に凹損

    原因
海徳丸、光復丸引船列…動静監視不十分、行会いの航法(避航動作)不遵守

    二審請求者
理事官平野浩三

    主文
本件衝突は、両船が、ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがあるとき、第八海徳丸が、動静監視不十分で、針路を右に転じなかったことと、光復丸引船列が、動静監視不十分で、針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年10月3日04時15分
和歌山県潮岬西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八海徳丸
総トン数 199トン
全長 57.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 588キロワット
船種船名 引船光復丸 台船(M)2005号
総トン数 150トン
全長 32.46メートル 70.00メートル
幅 20.00メートル
深さ 3.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
3 事実の経過
第八海徳丸(以下「海徳丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長C及びA受審人ほか1人が乗り組み、屑鉄600トンを載せ、船首2.55メートル船尾3.60メートルの喫水をもって、平成9年10月2日15時50分愛知県豊橋港を発し、岡山県水島港に向かった。
A受審人は、23時50分ごろ和歌山県三木埼沖合の熊野灘において、C船長から引き継ぎ、単独で2直6時間交替の船橋当直に就き、翌3日03時33分潮岬灯台から205度(真方位、以下同じ。)1海里の地点で、針路を291度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの北東風を右舷後方から受けて船首を2、3度左右に振りながら、10.0ノットの対地速力で所定の灯火を掲げて進行した。
04時07分A受審人は、江須埼灯台から136.5度3.6海里の地点に至り、舵輪後方の位置でいすに腰を掛けて見張りに当たっていたとき、右舷船首5度2海里のところに、光復丸の垂直に掲げた白、白、白3灯を初めて視認した。そして、同人は、同船の紅灯及び見え隠れする緑灯各1個を、また、それらの少し左方に同船が引いている台舶(M)2005号(以下「台船」という。)の右舷灯をそれぞれ視認することができる状況であった。
しかし、A受審人は、雨模様のなか窓ガラス越しに視認した光復丸の灯火を操業中の漁船のものと思い込み、双眼鏡でその灯火の点灯模様を確かめるとともに、衝突のおそれの有無を判断できるよう、コンパスで同灯火の方位の変化を確かめるなど、動静監視を十分に行わなかったので、光復丸引船列とほとんど真向かいに行き会う態勢で接近し、その後衝突のおそれがあることに気付かず、同引船列の左舷側を十分な距離をもって通過することができるよう、速やかに針路を右に転じなかった。
04時13分右舷船首2.5度770メートルのところで、光復丸引船列が針路を左に転じたことにより、これまで見せていた光復丸の紅灯に代わって緑灯を明瞭に示すようになり、同緑灯を認めたA受審人は、やがてその方位がわずかに右方に変わることから、同船が右舷側を航過するものと思い、依然、台船の右舷灯に気付かないまま、同じ針路及び速力で続航した。
A受審人は、04時14分半光復丸が右舷側を50メートル隔てて航過し、間もなく左舷船首8度250メートルに台船の船影を認め、急いでいすから立ち上がって操舵を手動に切り替えて右舵10度をとり、同時15分わずか前船首が右に回頭を始めているとき、船首至近に台船の右舷灯を認め、直ちに左舵一杯、機関のクラッチを中立としたが及ばず、04時15分江須埼灯台から151度2.4海里の地点において、海徳丸は、原速力のまま、300度を向いたその船首が、台船の右舷前部に前方から30度の角度で衝突した。
当時、天候は雨で風力4の北東風が吹き、視界は良好であった。
C船長は、自室で就寝しているとき衝突の衝撃で目を覚まし、昇橋して事後の措置に当たった。
また、光復丸は、鋼製引船で、B受審人ほか3人が乗り組み、空の40フィートコンテナ140個を5縦列4段に積み付けて船首尾とも0.9メートルの喫水となった無人の台船を船尾に引き、船首2.0メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、同月2日15時00分大阪港を発し、静岡県清水港に向かった。
翌3日00時B受審人は、和歌山県田辺港沖合において、光復丸の船尾から台船の船尾までの距離を310メートルとした引船列をなし、それぞれ所定の灯火を掲げて紀伊半島西岸沖合を南下していたとき、前直の甲板員から引き継ぎ、単独で2直6時間交替の船橋当直に就き、03時10分和深埼三ツ石照射灯台から229度0.8海里の地点で、針路を110度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの北東風により5度右方に圧流されながら、6.2ノットの曳航速力で進行した。
03時50分B受審人は、江須埼灯台から230度1.1海里の地点に達したとき、潮岬沖合において西行船と左舷を対して航過することができるよう沖出しするため、針路を120度に転じたところ、北東風により右方に圧流された台船が110度に向首して光復丸の右舷船尾10度方向に追従する状態となり、引き続き同じ圧流模様及び曳航速力で、光復丸が船首を2、3度左右に振りながら紀伊半島南岸沖合を東行した。
B受審人は、立って見張りに当たり、04時00分左舷船首4度3.9海里に、海徳丸の白、白2灯を初めて視認し、同時07分江須埼灯台から160度1.8海里の地点に差し掛かったとき、同船の緑灯を雨模様のなか同方位2海里に認めるようになった。そして、同人は、見え隠れするその紅灯をも視認することができる状況であったものの、海徳丸に対する動静監視が不十分で、これを見落とし、同船とほとんど真向かいに行き会う態勢で接近し、その後衝突のおそれがあったが、このことに気付かず、互いに進路を横切る関係にあって自船が保持船であると思い、海徳丸の左舷側を十分な距離をもって通過することができるよう、速やかに針路を右に転じなかった。
こうしてB受審人は、04時10分海徳丸との接近に備えて操舵を手動に切り替え、同じ針路、速力及び圧流模様で続航するうち、同時13分同船の灯火を左舷船首6.5度770メートルに見るようになったとき、依然その紅灯を見落とし、このまま進行すれば、同船が左舷側を至近距離で航過する状況であったところ、右舷側に航過して台船と衝突するようになると思い、徐々に左転を開始した。
B受審人は、横引き状態とならないよう、小刻みの左舵をとり、04時14分半海徳丸が右舷側を50メートル隔てて航過したのを認め、同船と台船との衝突を避けるため左回頭を続けるうち、光復丸が090度を向首した台船の前端部から088度260メートルばかりにあって船首が050度を向いていたとき、台船は前示のとおり衝突した。
衝突の結果、海徳丸は右舷船首外板に、台船は右舷前部外板に、台船に積載されていたコンテナ2個にそれぞれ凹損を生じたが、のちいずれも修理された。

(航法の適用)
本件は、夜間、潮岬西方海域において、西行中の海徳丸と東行中の光復丸引船列とが、針路が見掛け上9度の角度で交差する態勢のまま近距離まで接近し、その後衝突に至っているもので、適用する航法について検討する。
航法の適用時期は、両船の接近模様、付近海域の状況、船舶の輻輳度、舷灯の光達距離及び視程等から判断し、両船の距離が2海里になったときをもってするのが相当である。
このときにおける両船の相対位置関係を認定した各運行模様により、作図で衝突時から逆算して求めると、時刻は04時07分で、相手船の方位は116度及び296度となる。そして、相手船の灯火の視認模様は、両船が船首を2、3度左右に振りながら進行し、各舷灯の前方の照射範囲は反対舷へ3度に及ぶと考えられることから、針路291度で進行中の海徳丸が、右舷船首5度に光復丸の白、白、白3灯及び左舷灯のほか見え隠れする右舷灯を、針路120度で進行中の光復丸が、左舷船首4度に海徳丸の白、白2灯及び右舷灯のほか見え隠れする左舷灯をもそれぞれ視認することができる状況であった。
したがって、両船がほとんど真向かいに行き会う態勢であったとするのが相当であり、互いに相手船の方位に明確な変化がない状態で接近していることから、衝突地点付近の海域を考え合わせ、海上衝突予防法第14条行会い船の航法を適用するべきものと認める。

(原因)
本件衝突は、夜間、潮岬西方沖合において、西行する海徳丸と東行する光復丸引船列とが、ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがあるとき、海徳丸が、動静監視不十分で、同引船列を十分な距離をもって通過することができるよう、針路を右に転じなかったことと、光復丸引船列が、動静監視不十分で、海徳丸を十分な距離をもって通過することができるよう、針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、潮岬西方沖合を西行中、雨模様のなか船首少し右方に光復丸引船列の灯火を視認した場合、同船の態勢及び衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、視認した灯火を操業中の漁船のものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、光復丸引船列とほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがあることに気付かず、十分な距離をもって通過することができるよう、針路を右に転じることなく進行して同引船列との衝突を招き、海徳丸の右舷船首外板、台船の右舷前部外板及び台船積載のコンテナにそれぞれ凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、台船を引いて潮岬西方沖合を東行中、雨模様のなか船首少し左方に海徳丸の白、白2灯を初認した後、やがて同じ方位にその緑灯を視認した場合、見え隠れする紅灯を見落とさないよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、海徳丸の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、その見え隠れする紅灯を見落とし、互いに進路を横切る関係にあって自船が保持船であると思い、同船とほとんど真向かいに行き会う態勢であることに気付かず、十分な距離をもって通過することができるよう、針路を右に転じることなく進行して同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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