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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年1月24日15時30分 千葉港葛南区 2 船舶の要目 船種船名
貨物船新勢丸 総トン数 499トン 全長 71.526メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 882キロワット 3 事実の経過 新勢丸は、船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、千葉港葛南区京葉鉄鋼埠頭(以下「鉄鋼埠頭」という。)K-3バースに右舷錨を投入して錨鎖2節半を延出して左舷を対して入り船で着岸し、船首からいずれも直径60ミリメートルの化学繊維製のヘッドライン及びスプリングラインを各1本また、船尾からこれと同様のスターンライン及びスプリングラインを各1本とって係留したうえ、鋼材1,530トンを積載し、船首4.15メートル船尾4.78メートルの喫水をもって、重量物である厚板コイル積み込み開始に伴う転係のため、平成10年1月24日15時25分鉄鋼埠頭K-3バースを発し、同埠頭K-1バースに向かった。 ところで、鉄鋼埠頭は、江戸川河口左岸に構築された南北に延びる長さ約1,150メートル、幅約750メートルの埠頭で、同埠頭東側の各バースは、先端部から順にK-1から始まって埠頭奥部に向かって順次大きくなる番号で呼称され、K-3バースは、K-1バースから約200メートル北方に位置し、同埠頭と対岸に築造されている埠頭との間が長さ1,300メートル、幅170メートルの水路となっていた。 A受審人は、自船の係留するバースの前後であるK-4バース及びK-2バースにいずれも他船が、また、対岸の岸壁には自船とほぼ同型の船舶が3隻連なって係留していたところから、可航水路幅が約150メートルに狭められていたものの、機関を使用して一旦同岸壁から離れ、K-2バースに着岸している船を替わしてK-1バースに着岸するつもりで、船首に一等航海士及び甲板員を、船尾に機関長及び一等機関士をそれぞれ配置に就け、自ら操舵、操船に当たり、船尾の各係留索をかいらんして船尾が岸壁から離れるのを見届けた後、船首のヘッドラインをかいらんして船首が岸壁から10メートルほど離れた地点で、船首のスプリングラインをかいらんし、発航と同時に錨鎖の巻き込みを開始して、15時25分半機関を微速力前進にかけ、右転しながらゆっくりと前進した。 A受審人は、次第に船体が加速され、025度を向き、船尾が岸壁から10メートル離れたとき、100メートルばかり前方の対岸に着岸している船舶への接近を避けるため、同時29分機関を停止し、次いで微速力後進とし、間もなく船体力が後進し始めたが、同船舶が気になってこれに気を取られ、岸壁との相対距離を十分に確認することなく、早期に後進行きあしを止めないで後進を続け、同時30分わずか前船尾後方の岸壁が至近に迫っていることに気付き、あわてて機関を停止とし、引き続いて半速力前進としたものの及ばず、15時30分千葉港葛南市川灯台から054度2,570メートルに当たる岸壁の先端から375メートルの地点において、新勢丸は、025度に向首して0.5ノットの後進行きあしをもって、その船尾左舷角が岸壁に45度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力3の西北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。 衝突の結果、左舷船尾外板に擦過傷を生じ、岸壁上部角部を欠損した。
(原因) 本件岸壁衝突は、千葉港葛南区京葉鉄鋼埠頭において、転係のため離岸するに当たり、岸壁との相対距離の確認が不十分で、後進行きあしを止める時機を失し、岸壁に向かって後進したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、千葉港葛南区京葉鉄鋼埠頭において、転係のため離岸するに当たり、機関を微速力後進にかけ、船体が後進し始めた場合、船尾後方の岸壁に著しく接近しないよう、岸壁との相対距離を十分に確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、前方の対岸に着岸している船舶への接近に気を取られ、岸壁との相対距離を十分に確認しなかった職務上の過失により、後進行きあしを止める時機を失し、岸壁に向かって後進を続けて同岸壁との衝突を招き、新勢丸の左舷船尾外板に擦過傷を生じさせ、岸壁を損傷させるに至った。 |