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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年8月13日07時00分 石川県富来漁港沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船漁山丸
漁船第3栄丸 総トン数 14.00トン 6.10トン 登録長 14.99メートル 12.50メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 漁船法馬力数 160 120 3 事実の経過 漁山丸は、通称大漁丸船団の網船として、中型まき網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか11人が乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成8年8月12日17時00分石川県富来漁港を発し、同漁港から南南西方約6海里の漁場に至って操業を始め、はまち約5トンを獲たところで終夜の操業を終え、帰途に就くこととした。 A受審人は、翌13日05時30分富来漁港に向けて漁場を発進し、北上して同漁港近くの沖合に至り、06時55分能登富来港風無第3防波堤灯台から094度(真方位、以下同じ。)760メートルの、水深約13メートルの地点において、錨を船首から投入して直径20ミリメートルの化学繊維製のロープを約20メートル延出し、錨泊中に船舶が表示する形象物を掲げないまま、船首を110度に向けた状態で錨泊を開始した。 このとき、A受審人は、右舷正横1,540メートルのところに、第3栄丸(以下「栄丸」という。)を視認できる状況で、その後、同船が自船に向けて接近してきたが、錨泊しているから航行中の船舶が避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、錨泊したところから南方約1,200メートルに設置された養殖用のいけすに漁獲したはまちを移し替えるため、乗組員を移乗させる同船団所属の総トン数6トンの作業船を左舷側に横付けさせ、同船に乗組員が乗り込むのを船橋の左側で見守っていたので、栄丸に気付かなかった。 06時59分A受審人は、栄丸が衝突のおそれがある態勢のまま300メートルに接近したが、見張り不十分で依然としてこのことに気付かず、注意喚起信号を行わないまま、乗組員の移乗作業に気をとられているうち、突然、作業船に移乗した乗組員がわあーと大声をあげたので右方を振り向いたとき、右舷正横至近のところに迫った栄丸を認めたものの、どうすることもできず、07時00分前示錨泊地点において、漁山丸は、110度を向首したままその右舷中央部に、栄丸の船首が直角に衝突した。 当時、天候は晴で風力1の東風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、視界は良好であった。 また、栄丸は、前示船団の探索船として、中型まき網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同月12日17時30分富来漁港を発し、魚群の探索を行いながら南下し、同船団所属船とともに終夜の操業に従事したのち、帰途に就くこととした。 B受審人は、翌13日06時00分滝埼灯台から297度6.7海里の地点を発進すると同時に、針路を020度に定め、機関を全速力前進にかけ、操舵輪の後方に設けられた椅子に腰をかけて単独の船橋当直に当たり、10.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。 06時50分B受審人は、能登富来港風無第3防波堤灯台から185度1.6海里の地点に達したとき、操業の合間に適宜漂泊して3時間程度の休息をとっていたので特に疲労感などはなかったものの、急に眠気を催した。ところが、同人は、入港を間近に控えてよもや居眠りするとは思わず、休息中の乗組員を昇橋させて見張りを行わせるなど居眠り運航の防止措置をとることなく、そのまま当直を続けるうち、間もなく居眠りに陥った。 こうして、B受審人は、06時55分正船首1,540メートルのところに、漁山丸を視認でき、その後、同船に向首して接近し、漁山丸が錨泊しているのが分かる状況であったが、居眠りしていたのでこのことに気付かず、同船を避けないまま続航し、栄丸は、原針路、原速力で前示のとおり衝突した。 衝突の結果、漁山丸は、右舷中央部外板に破口を生じ、栄丸は、船首部に亀裂を生じたが、のちいずれも修理され、B受審人は、全身打撲を負った。
(原因) 本件衝突は、石川県富来漁港近くの沖合において、同漁港に向けて帰航中の栄丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で錨泊中の漁山丸を避けなかったことによって発生したが、漁山丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) B受審人は、石川県富来漁港南南西方沖合の漁場から単独の船橋当直に当たって帰航中、漁港に近づいた際に眠気を催した場合、休息中の乗組員を昇橋させて見張りを行わせるなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、入港を間近に控えてよもや居眠りするとは思わず、休息中の乗組員を昇橋させて見張りを行わせるなど居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、前路で錨泊中の漁山丸を避けないまま進行して同船との衝突を招き、漁山丸の右舷中央部外板に破口を、栄丸の船首部に亀裂をそれぞれ生じさせ、自らが全身打撲を負うに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人は、石川県富来漁港近くの沖合において錨泊し、左舷側に横付けさせた作業船に乗組員を移乗させる場合、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。 しかるに、同人は、錨泊しているから航行中の船舶が避けてくれるものと思い、乗組員の移乗作業に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、右舷正横から自船に向けて接近してくる栄丸に気付かず、注意喚起信号を行わないで同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、B受審人を負傷させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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