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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年10月26日05時35分 広島県呉港 2 船舶の要目 船種船名
プレジャーボートハッピー 全長 7.58メートル 機関の種類 電気点火機関 出力
102キロワット 3 事実の経過 ハッピーは、専らレジャーで釣りを行う、定員12名の沿海区域(限定)を航行区域とする、船外機付きFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、友人5人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.3メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、平成9年10月26日05時30分呉港川原石船だまりを発し、諸島水道に向かった。 ところで、呉港内の同船だまりは、川原石西ふ頭及び川原石南ふ頭に挟まれた長さ450メートル幅200メートルの南西方に延びる水路の北東端奥にあり、同水路の南西端の開口部から南西方へ約700メートルには、艦艇係留用として、直径3.4メートル高さ2.1メートルの鉄製の浮体からなる、海上自衛隊の係船灯浮標K4(以下、海上自衛隊の係船灯浮標の名称については「海上自衛隊の係船灯浮標」を省略する。)のほか同形態の係船灯浮標がK4の位置から東へ300メートルにK2、西へ350メートルにK7、西へ700メートルにK10、東南東へ500メートルにK1、南東へ450メートルにK3、南南西へ400メートルにK6、南西へ700メートルにK9、南南西へ700メートルにK5及び南西へ900メートルにK8の係船灯浮標がそれぞれ存在し、A受審人は、呉港内での航行経験が多く、これら灯浮標の位置及びその形態にっいてよく知っていた。そして、これらの灯浮標には漁船等がしばしば衝突することから黄色の灯火が設置され、波によって灯浮標が傾くときは見えないこともあったので、灯浮標本体が見えにくい薄明時には、見張りを十分に行って航行することを要する水域であった。 A受審人は、日出前の薄暗い中、05時33分半小麗女島灯台から083度(真方位、以下同じ、)1.1海里の呉港内の地点において、針路を220度に定め、倉橋島と能美島を目標として、機関を全速力前進よりやや減じた14.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。 A受審人は、05時35分少し前小麗女島灯台から098度1,600メートルの地点に達したとき、正船首100メートルに存在するK4を認め得る状況であったが、慣れた水路で、同係船灯浮標には灯火がついているので見落とすことはあるまいと思い、前路の見張りを十分に行うことなく、波によって傾いていたK4に気付かず、K4を避けないで続航中、ハッピーは、05時35分小麗女島灯台から101度1,560メートルの地点で、原針路、原速力のまま、その船首がK4に衝突した。 当時、天侯は晴で風力1の北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期にあたり、簿明は04時59分、日出は06時23分であった。 衝突の結果、ハッピーは、船首部に亀裂を生じ、衝突時の衝撃でA受審人は、顔面創傷・鼻骨骨折で2週間の安静・通院加療を、友人Bは頸部挫傷・左眼瞼打撲挫創で約1週間の休業加療を、同Cは左下肢打撲擦過創・骨盤部左肩胸部打撲で5日間の加療を、同Dは開放性頭蓋骨陥没骨折・脳挫傷・髄液漏で約1箇月の入院後2箇月の通院加療を、同Eは左側胸部打撲で3週間の休業加療をそれぞれ要する傷害を負った。
(原因) 本件灯浮標衝突は、薄明時、係船灯浮標が多数点在する呉港呉区域内を諸島水道に向け航行中、見張り不十分で、呉港内のK4係船灯浮標に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人が、薄明時、常時通航して付近の状況を把握している海上自衛隊係船灯浮標が多数点在する呉港呉区の水域を航行する場合、同係船灯浮標を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、慣れた水路で、同係船灯浮標には灯火がついているので見落とすことはあるまいと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路のK4に向首進行して、これに気付かず、K4との衝突を招き、ハッピーの船首部に亀裂を生じさせ、同人はじめ友人全員に骨折、創傷等の傷害をそれぞれ負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。 |