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1999年(平成11年)

平成10年広審第54号
    件名
旅客船クィーンダイヤモンド油送船第八十七海幸丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年7月13日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

中谷啓二、釜谷獎一、黒岩貢
    理事官
川本豊

    受審人
A 職名:クィーンダイヤモンド船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:第八十七海幸丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
クィーン…左舷前部外板にき裂を伴う凹損
海幸丸…船首部ブルワークなどに凹損

    原因
クィーン…船員の常務(割り込み・衝突回避措置)不遵守(主因)
海幸丸…船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    二審請求者
補佐人田川俊一

    主文
本件衝突は、クィーンダイヤモンドが、運航措置不適切で、第八十七海幸丸と第三船との間に割り込んだことによって発生したが、第八十七海幸丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年6月4日21時55分
来島海峡
2 船舶の要目
船種船名 旅客船クィーンダイヤモンド 油送船第八十七海幸丸
総トン数 9,022トン 1,591トン
全長 150.87メートル 91.04メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 17,652キロワット 2,206キロワット
3 事実の経過
クィーンダイヤモンド(以下「クィーン」という。)は、可変ピッチプロペラを装備した2基2軸の推進機関を有し、船首後方約30メートルの位置に船橋を備え、神戸、松山、大分各港を定期で結ぶ旅客船兼自動車渡船で、A受審人ほか34人が乗り組み、旅客121人を乗せ、車両117台を積載し、船首4.70メートル船尾5.77メートルの喫水をもって、平成9年6月4日20時30分所定の灯火を表示して松山港を発し、神戸港に向かった。
21時35分ごろA受審人は、来島海峡航路(以下「航路」という。)通航に備え、安芸灘を北上中、航路西口まで約2海里の梶取ノ鼻北方の地点で昇橋し、三等航海士をレーダー監視に、甲板手、甲板員を操舵及び見張りにそれぞれ当たらせ操船指揮を執った。
このころA受審人は、左舷前方約1海里に自船と同じく航路に向かう第八十七海幸丸(以下「海幸丸」という。)の灯火を初認し、またレーダーにより、航路入り口中央部付近に多数の同航船が列をなしているのを認め、三等航海士から、それら他船について、いずれも自船より速力が遅く、このままの状況だと海幸丸には津島付近で追い付き、そのころ同船の前方の同航船とは約1海里に近づく旨の報告を受け、それらを右舷に見て航路内を航行するよう航路西口の北端に向けて続航し、来島大角鼻潮流信号所の表示により中水道の潮流が南流6ノットであることを認めたうえ、21時41分桴磯灯標から325度(真方位、以下同じ。)1.5海里の地点で、予定時刻より約10分早く航路に入り、針路を085度に定め手動操舵とし、機関を20.0ノットの全速力前進にかけ、折からの順潮流に乗じて22.5ノットの対地速力で、中水道に向け進行した。
ところでクィーンが、航路を順潮時に東航する際の針路、使用速力、注意事項などについて、運航船社である株式会社Rは、運航管理規程に基づき定めた運航基準の中で、運航基準図及び運航基準表にそれぞれ記載していて、速力については、安芸灘から航路入り口にかけてを20.0ノットとしたのち、航路内においてはVarとして示したうえ、平均速力を約15ノットとして求めた主要地点の通過時間を併記し、また中水道への進入針路を、津島潮流信号所に並航してから約0.8海里の航路屈曲部で、それまで航路に沿う針路から約55度右転して同水道中央に向ける針路としていた。
一方、注意事項としては、小型船の近道、ワイ潮、無灯火漁船、小型連絡船、違法航行船などの項目が同基準表に列記され、A受審人は、これまでの航路航行中に、これらに該当する事象に遭遇して、臨機に必要な措置をとったことがあった。
21時44分半A受審人は、桴磯灯標から020度1.45海里の地点で、針路を航路に沿う122度に転じ、来島海峡航路第5号灯浮標の灯火をほぼ正船首に見て、航路北端を続航し、同時49分半小島東灯標から344度1.45海里の津島朝流信号所に並航する約0.7海里手前の地点に達したとき、16.4ノットの対地速力で進行している海幸丸の船尾灯を右舷船首52度約130メートルに見るようになり、また同方向0.5海里ばかりの航路中央付近に、ほぼ海幸丸と同速力で、航路に沿って先航する第三船の大型コンテナ船を認め、そのまま進行すると海幸丸と第三船との間に後方から割り込むことになった。
この時点で、クィーンは、強朝流下、約0.4海里の距離の中に前方の大型船2隻と共に前後して同航し、航路内最狭部である中水道入り口に向け大幅な右転が必要な航路屈曲部に近づいており、西水道を北上する西航船と一時的に見掛け上横切り船の関係が発生する海域であることに加え、前示運航基準表に注意事項として示されている、小型船の近道、ワイ潮、無灯火漁船、違法航行船などの事象も考慮されるべき状況にあり、各航行船がどのような機関操作、操舵を余儀なくされるか予測困難であることから、クィーンが海幸丸を追い抜き、第三船との間に割り込んだ場合、いずれかが臨機にそのような機関操作、操舵を行うと、直ちに各船間に衝突のおそれが生じる可能性があった。
しかしながらA受審人は、衝突のおそれが生じる可能性があることを考慮せず、第三船に後続して行けば大丈夫と思い、速やかに減速して割り込みを中止し、海幸丸に後続するなど衝突のおそれを回避するための適切な運航措置をとることなく続航し、21時51分津島潮流信号所まで250メートルの地点で、海幸丸を右舷約130メートルの距離で追い抜き、甲板員から後方がクリアーになった旨の報告を受け、航路中央に寄るよう徐々に右転を始めて海幸丸の前方に割り込み、第三船に近づくことから3ノットばかり減速して進行した。
海幸丸を追い抜いたころ、A受審人は、先航する第三船の右方に、西水道を北上し小島の陰を替わった大型船(以下「北上船」という。)の白、白、紅3灯を初認し、21時52分ごろ同船が西水道の出口付近に達したにもかかわらず、四国側に近寄って航行するよう左転せず、第三船の前路を横切る態勢で北上を続けていることに不安を覚え、機関を約13ノットの半速力に減じ、まもなく航路屈曲部に近づいたため中水道入り口に向けさらに右転を始めたところ、そのころ北上船との危険を感じて機関を停止した第三船と急に接近し始め、衝突のおそれを認めて機関を微速力としたうえ同船の船尾を替わすため右航一杯を令した。
21時53分A受審人は、自船が減速したことにより、船尾後方約200メートルのところを後続していた海幸丸と接近し、同船と衝突のおそれが生じたものの、同船を追い抜いたのちは、前方の状況を把握するのに精一杯で、後方に気を配ることができずにいたので、当直者共このことに気付かず、まもなく右舵が効き始めたころ、第三船の前路を左方に横切る態勢の北上船が、一瞬その白灯の間隔を狭まって見せたことから、左転して自船の前路に向くと思い、同船と衝突の危険を感じて直ちに舵を中央に戻し、続いて機関を全速力後進にかけた。
21時54分A受審人は、後進に伴う短3声を吹鳴し終わった直後、右舷前方400メートルばかりの地点で、第三船と北上船が衝突したことを衝撃音と共に認め、まもなく両船が泊船から遠ざかって行ったので機関を停止し、ふと海幸丸が気になり確認したところ、船橋左舷至近に迫った同船を視認したもののどうすることもできず、21時55分小島東灯標から057度1,260メートルの地点において、145度に向首して、ほぼ行きあしが停止したクィーンの左舷前部に、海幸丸の船首が後方から65度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候はほぼ高潮時にあたり、衝突地点付近には約5ノットの南流があった。
また、海幸丸は、可変ピッチプロペラを備えた船尾船橋型の油送船で、B受審人ほか9人が乗り組み、空倉のまま、船首1.90メートル船尾4.75メートルの喫水をもって、同日19時00分所定の灯火を表示して山口県岩国港を発し、来島海峡経由で兵庫県姫路港に向かった。
19時40分ごろB受審人は、柱島水道西口付近で首席二等航海士と共に船橋当直に就き、機関長を機関操作に当て、来島海峡に向け進行し、21時38分桴灯標から322度1.3海里の地点で航路西口に達したのち、漁船を避けながら航路内を続航して、同時46分同灯標から058度2,900メートルの地点で、針路をほぼ航路に沿う125度に定め遠隔操舵とし、機関を約14ノットの全速力前進にかけ、折からの順潮流により16.4ノットの対地速力で、右舷前方約0.5海里のところを、自船とほぼ同速力で先航する第三船に続いて中水道に向け進行した。
21時48分B受審人は、左舷後方約0.2海里に自船を追い抜く態勢のクィーンの灯火を初認し、同時51分津島潮流信号所に並航する手前で、同船が自船の左舷側を追い抜いたのを認めたころ、右舷前方に小島の陰を替わった北上船の白、白、紅3灯を初認した。
21時52分B受審人は、クィーンが、中水道入り口に向け徐々に右転して船首約200メートルのところを右方に替わって行くので、同船の左舷船尾に向いて後続しようと右転を始め、その後距離が変わらないことから、同船が減速したと思い続航した。
21時53分B受審人は、小島東灯標から025度1,550メートルの地点で、140度に向首してクィーンに後続していたとき、第三船との衝突の危険を感じて微速力にしたクィーンと接近し始め、衝突のおそれが生じたが、接近することには気付いたものの、まさか急速に接近することはないと思い、直ちに大きく左転して機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとらず、速力を半速、次いで微速力に減じて進行中、クィーンが全速力後進をかけたことから急速に接近し、同時54分わずか前衝突の危険を感じ、左舵一杯をとり、短3声を吹鳴して全速力後進をかけたが及ばず、海幸丸は、210度に向首して2.0ノットの対地速力になったとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、クィーンは、左舷前部外仮にき裂を伴う凹損を生じ、海幸丸は、船首部ブルワークなどに凹損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、船舶のふくそうする来島海峡において、クィーンが、航路内を高速力で東航中、航路屈曲部の中水道及び西水道の出入り口付近に近づき、近距離で前後して先航する海幸丸と第三船との間に後方から割り込む状況となった際、運航措置が不適切で、割り込むことを中止し、海幸丸に後続するなど衝突のおそれを回避するための措置をとらなかったことによって発生したが、海幸丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、船舶のふくそうする来島海峡を東航中、航路屈曲部の中水道及び西水道の出入り口付近に近づき、近距離で前麦して先航している海幸丸と第三船との間に後方から割り込む状況となった場合、そのまま続航して割り込むと第三船及び自船が臨機にとる機関操作、操舵などによって衝突のおそれが生じる可能性があったから、速やかに減速して割り込みを中止し、海幸丸に後続するなど衝突のおそれを回避するための適切な運航措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、第三船に後続して行けば大丈夫と思い、速やかに減速して割り込みを中止し、海幸丸に後続するなど衝突を回避するための適切な運航措置をとらなかった職務上の過失により、海幸丸との衝突を招き、クィーンの左舷前部外板にき裂を伴う凹損を、また、海幸丸の船首部ブルワークなどに凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、船舶のふくそうする来島海峡を東航中、航路屈曲部の中水道及び西水道の出入り口付近で、自船を追い抜いたクィーンが前方近距離で減速し、その後接近するのを知った場合、衝突のおそれがあったから、速やかに左転し機関を停止するなどして衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、まさか急速に接近することはないと思い、速やかに左転し機関を停止するなどして衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、クィーンとの衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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