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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年10月11日02時50分 鹿児島県佐多岬南方沖合 2 船舶の要目 船種船名 引船不捨丸
台船朱雀 総トン数 124.00トン 全長 37.60メートル 70.00メートル 幅
20.00メートル 深さ 3.50メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
882キロワット 船種船名 貨物船ユニバロー 総トン数 16,584.00トン 全長
186.74メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力 14,783キロワット 3 事実の経過 不捨丸は、船首船橋型の鋼製引船で、A及びB両受審人ほか3人が乗り組み、船首尾喫水ともに0.55メートルとなった空船で無人の台船朱雀(以下「台船」という。)を曳航し、船首1.8メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、平成9年10月9日05時00分沖縄県那覇港を発し、関門港に向かった。 A受審人は、船橋当直を自らとB受審人及び一等航海士による、単独4時間交替の3直制とし、港外に出たところで、曳索の長さを約270メートルに調節し、不捨丸の船尾から台船の船尾までの距離が約340メートルの引船列として、沖縄群島西岸沿いに北上した。 ところで、A受審人は、平素、夜間、台船に舷灯及び船尾灯を掲げるほか、株式会社ゼニライトブイ製のE-1型と称する4秒間に1閃光を発する乾電池式の点滅標識灯(以下「簡易標識灯」という。)を、甲板上の高さ約1メートルの位置で、両舷側付近の船首から船尾に加ナて各舷5箇所の計10箇所に掲げて航行していたものの、船舶の輻輳(ふくそう)する海域でないことや空船状態ではどちらの舷からでも簡易標識灯を見ることができることから、舷灯及び船尾灯を掲げなくても航行に支障がないと思い、那覇港で揚荷役前に取り外した台船の舷灯及び船尾灯を復旧せず、台船には簡易標識灯のみを取り付けて、これを点灯して航行することにした。 同月10日23時50分B受審人は、A受審人と交替して船橋当直に就き、不捨丸の法定灯火及び台船の簡易標識灯の点灯を確かめ、翌11日00時00分一湊灯台から267度(真方位、以下同じ。)6.9海里の地点で、針路を035度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、8.2ノットの対地速力で進行した。 02時30分B受審人は、佐多岬灯台から193度15.3海里の地点に達したとき、左舷船尾52度4.1海里のところにユニバロー(以下「ユ号」という。)のレーダー映像を探知して、同時に白、白、緑3灯を初めて視認し、同時43分ユ号が同方位1.4海里になり、同船が自船引船列を追い越す態勢で接近するのを認め、船橋上部甲板に設置されている探照灯を台船に向け照射したうえ、昼間信号灯をユ号に向け発光して注意を喚起し、同船の動静を監視しながら続航した。 B受審人は、02時45分佐多岬灯台から189度13.5海里の地点に至ったとき、ユ号が同方位1.1海里に接近し、同船が避航の気配を見せないまま、衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めたが、引船列の針路をユ号の針路と平行にすれば何とか無難に替わせるものと思い、避航を促すよう警告信号を行うことなく、手動操舵に切り替え、右舵5度を取って右転を開始した。 B受審人は、台船が横引き状態にならないよう、引船列の操縦性能を考慮して小刻みな転針を行っていたことから、依然、ユ号と著しく接近する状況のまま進行し、02時49分不捨丸の船首がユ号とほほ同じ針路の070度となったので舵を中央に戻し、ユ号の様子を見たところ、同船が急速に右転しながら台船に接近しているのを認め、台船への衝突の危険を感じ、衝突時に不捨丸が横引きされて転覆に至らぬよう、不捨丸と曳索と台船の方向を同一にするため、同時49分半左舵20度をとって左転を始め、両船と曳索とが一直線になって間もなく、02時50分佐多岬灯台から188度13.0海里の地点において、台船が050度を向いて、原速力のまま、その左舷後部にユ号の船首がほぼ直角に衝突した。 当時、天候は晴で風力1の北西風が吹き、視界は良好であった。 A受審人は、自室で就寝中、衝突の衝撃で目を覚まし、直ちに昇橋して事後の措置に当たった。 また、ユ号は、船尾船橋型のコンテナ船で、船長C及び二等航海士Dほか19人が乗り組み、コンテナ貨物10,263.9トンを積載し、船首8.9メートル船尾9.5メートルの喫水をもって、同月9日16時18分(現地時刻)台湾基隆港を発し、京浜港に向かった。 翌々11日00時00分D二等航海士は、口之永良部島野埼の北西方約4.5海里の地点で、前直者と交替して甲板手とともに船橋当直に就き、船内時間を1時間進めて日本標準時に合わせたのち、漁船を避けながら東行し、02時00分薩摩硫黄島灯台から146度7.4海里の地点に達したとき、針路を067度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、18.2ノットの対地速力で進行した。 02時43分D二等航海士は、佐多岬灯台から195度14.1海里の地点に達したとき、右舷船首20度1.4海里のところに不捨丸の船尾灯と引き船灯及び台船の簡易標識灯を視認できる状況で、その後不捨丸引船列を追い越す態勢で接近したが、見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同引船列を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまで、その進路を避けないで続航した。 02時49分D二等航海士は、右舷船首31度700メートルのところに不捨丸の船尾灯を初めて視認したものの、引き船灯を見落とし、不捨丸が引船列であることに気付かず、不捨丸の船尾灯が自船の船首方向に近寄って来るように見えたので、同船を左舷方に見て追い越すこととし、右舵一杯を令し、右転中、ユ号は、船首が140度を向いたとき、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、不捨丸引船列は、台船の左舷後部外板に破口を生じ、曳索が切断されたが、のち修理され、ユ号は、船首外板に凹損及び小破口を生じた。
(原因) 本件衝突は、夜間、鹿児島県佐多岬南方沖合において、不捨丸引船列を追い越すユ号が、見張り不十分で、同引船列の進路を避けなかったことによって発生したが、不捨丸引船列が、法定の灯火を掲げず、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) B受審人は、夜間、台船を曳航して鹿児島県佐多岬南方沖合を北上中、左舷後方にユ号を視認し、同船が避航の気配を見せないまま衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めた場合、避航を促すよう警告信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、引船列の針路をユ号の針路と平行にすれば何とか無難に替わせるものと思い、警告信号を行わなかった職務上の過失により、ゆっくりと右転しながら進行してユ号との衝突を招き、台船の左舷後部外板に破口を生じさせるとともに曳索を切断させ、ユ号の船首外板に凹損及び小破口を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人が、夜間、台船を曳航して那覇港から関門港に向け航行する船、台船に法定の灯火を掲げなかったことは、本件発生の原因となる。 しかしながら、以上のA受審人の所為は、不捨丸に法定の引船灯を表示し、台船に容易に視認することができる簡易標識灯を掲げて航行しており、同灯火が周囲から十分に認められたこと及び他船接近時には探照灯をもって台船を照射、その存在を示すために有効な措置を講じていたことに微し、職務上の過失とするまでもない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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