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1999年(平成11年)

平成10年神審第85号
    件名
引船第六富栄丸引船列貨物船デイジー衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年7月22日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

工藤民雄、佐和明、米原健一
    理事官
坂本公男

    受審人
A 職名:第六富栄丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
富栄丸…船首部のフェンダー受け、操舵室右舷側壁及び機関室囲壁に凹損、ハンドレールを曲損
デイジー…左舷後部外板に凹損

    原因
富栄丸引船列…動静監視不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
デイジー…警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第六富栄丸引船列が、動静監視不十分で、前路を左方に横切るデイジーの進路を避けなかったことによって発生したが、デイジーが、警告信号を行わず、衝突を避けるための最善の協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年1月27日04時54分
友ケ島水道南方
2 船舶の要目
船種船名 引船第六富栄丸
総トン数 125.77トン
全長 30.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,102キロワット
船種船名 コンクリートミキサー船第十八豊号
長さ 58.00メートル
幅 22.00メートル
深さ 5.00メートル
船種船名 貨物船デイジー
総トン数 32,173トン
全長 204.11メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 14,480キロワット
3 事実の経過
第六富栄丸(以下「富栄丸」という。)は、港湾工事に使用する作業台船などの曳航に従事する、コルトノズル式推進器2個を備えた鋼製引船で、A受審人ほか2人が乗り組み、喫水船首2.0メートル船尾2.5メートルの非自航のコンクリートミキサー船第十八豊号(以下「豊号」という。)を、径85ミリメートルの曳航索で船尾に引き、富栄丸の船尾から豊号の後端までの距離が108メートルの引船列とし、船首1.6メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、平成10年1月27日00時00分兵庫県福良港を発し、和歌山県和歌山下津港和歌山区に向かった。
A受審人は、富栄丸には前部にマスト灯2個のところ3個連掲したほか、舷灯1対、船尾灯及び引船灯を、また豊号には船尾にある居住区の両舷側に舷灯1対及び上部に白色全周灯3個を連掲したほか、船首のプラント上部にある投光器2個と居住区周囲の室外灯4個をそれぞれ点灯したうえ、発航操船に引き続き単独で船橋当直に当たって淡路島南岸沿いに東行した。
02時58分A受審人は、沼島灯台から022度(真方位、以下同じ。)1.3海里の地点で、針路を098度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの北流により20度左方に圧流されながら、4.0ノットの対地速力で進行した。
その後、A受審人は、昇橋した機関長を見張りの補助につけ、04時ごろ友ケ島水道南方の南北に航行する船舶の多い海域に近づいてきたので、舵を手動に切り替えて自ら操舵に当たり、同時24分友ケ島灯台から210.5度5.2海里の地点に達したとき、レーダーで右舷船首66度5.9海里にデイジーの映像を探知するとともに、肉眼で同船のマスト灯2個を初めて視認したが、まだ距離が遠かったことから、これを一べつしただけで目を離して続航した。
04時45分A受審人は、友ケ島灯台から197度4.4海里の地点に差し掛かり、デイジーが右舷船首70度2.2海里となり、その後同船が前路を左方に横切り、方位に明確な変化がなく衝突のおそれがある態勢で接近したが、近くの航行船に気をとられ、デイジーに対する動静監視を十分に行わなかったので、同船の接近にも、また機関音が高かったこともあって、デイジーが吹鳴した長音1回にも全く気付かず、早期にその進路を避けないまま進行した。
A受審人は、04時53分半ふと前方を見たとき、船首間近にデイジーのひときわ大きな船体を認め、衝突の危険を感じ、急いで右舵をとったものの、同船とほほ直角に当たることを避けるため、左舵一杯にとり直し、次いで両舷機を半速力前進に落としたのち、左舷機を後進にかけたが及ばず、04時54分友ケ島灯台から189度4.1海里の地点において、富栄丸は、075度を向いたとき、約4.0ノットの対地速力をもって、その船首部がデイジーの左舷後部に後方から45度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、衝突地点付近には約1.4ノットの北流があった。
また、デイジーは、コンテナや雑貨などの輸送に従事する、可変ピッチプロペラを備えた2基1軸の船尾船橋型ロールオン・ロールオフ船で、船長Cほか24人のロシア人が乗り組み、コンテナ及び雑貨2,955トンを載せ、船首6.3メートル船尾7.3メートルの喫水をもって、同月22日中華人民共和国香港を発し、神戸港に向かった。
越えて同月27日04時20分C船長は、和歌山県の下津沖ノ島灯台から260度5.0海里の地点で、針路を005度として航行中の動力船の灯火を表示し、12.0ノットの対地速力で、友ケ島水道南方7海里付近のパイロットステーションに向け北上した。そして同人は、同ステーションに近づいたとき減速し、同時37分B指定海難関係人(本件当時大阪湾水先区水先免状を受有し、受審人に指定されていたところ、平成11年3月31日水先人の業務を廃止したので、これが取り消され、新たに指定海難関係人に追加された。)を乗船させた。
こうしてB指定海難関係人は、04時40分友ケ島灯台から186度7.3海里の地点で、C船長と船橋に立って嚮導を開始し、当直航海士を機関ハンドルの操作と見張りに、また操舵手を手動操舵にそれぞれ配置し、針路を355度に定め、機関をそれまでの約7.5ノットの微速力前進から約15ノットの全速力前進に増速し、折からの約1.4ノットの北流に乗じて友ケ島水道に向け進行した。
04時45分B指定海難関係人は、友ケ島灯台から187.5度6.4海里の地点に達し、14.5ノットの対地速力になったとき、左舷船首11度2.2海里に富栄丸の白、白、白、緑4灯と、その後方に豊号の多数の白灯を視認し、双眼銭で確かめてこれが東方に向かう引船列であることを知り、富栄丸引船列が自船の船尾方に替わしやすくなるよう、少しでも広い海域を空けるつもりで3度右転して358度の針路とした。
B指定海難関係人は、04時47分友ケ島灯台から188.5度5.9海里の地点に差し掛かったとき、更に2度右転して針路を000度とし、富栄丸引船列の動静を監視するうち、方位に明確な変化がないまま、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることを認めた。
04時51分B指定海難関係人は、富栄丸引船列を左舷船首7度1,250メートルに見る態勢となったとき、同引船列に避航の様子が見られないまま近づくので、C船長に指示して長音1回の注意喚起を行ったものの、警告信号を行わず、右舵少しを令して5度右転し、様子を見ながら続航した。
その後、B指定海難関係人は、富栄丸引船列が適切な避航動作をとらないまま間近に接近したが、そのうち自船を右方に見る同引船列が避航するものと思い、大きく右転し衝突を避けるための最善の協力動作をとることなく進行した。
04時52分B指定海難関係人は、富栄丸引船列が左舷船首方800メートルに接近したとき、右舵を令して徐々に右転し、同時53分船首が約4度右転したころ同引船列と近距離に迫ったので、C船長に指示し、短音を繰り返して連吹したものの、なおも富栄丸引船列に避航の気配が見られなかったので、衝突の危険を感じ、急いで右舵一杯を令したが及ばず、デイジーは、030度を向首し、約16.4ノットの対地速力をもって前示のとおり衝突した。
衝突の結果、富栄丸は船首部のフェンダー受け、操舵室右舷側壁及び機関室囲壁に凹損を生じたほか、ハンドレールを曲損し、のち修理され、デイジーは左舷後部外板に凹損を生じた。

(原因)
本件衝突は、夜間、友ケ島水道南方海域において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、東行中の富栄丸引船列が、動静監視不十分で、前路を左方に横切るデイジーの進路を避けなかったことによって発生したが、北上中のデイジーが、警告信号を行わず、間近に接近したとき衝突を避けるための最善の協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、コンクリートミキサー船を曳航して友ケ島水道南方海域を東行中、右舷方にデイジーのマスト灯を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、引き続き同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、まだ距離が遠かったことから、一べつしただけで目を離し、その後近くの航行船に気をとられ、デイジーに対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切るデイジーと衝突のおそれがある態勢で接近する状況にあることに気付かず、同船の進路を避けることなく進行してデイジーとの衝突を招き、富栄丸の操舵室右舷側壁などに凹損を生じさせたほかハンドレールに曲損を、またデイジーの左舷後部外板に凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、夜間、デイジーの嚮導に当たって友ケ島水道南方海域を北上中、前路を右方に横切る富栄丸引船列を視認して衝突のおそれがある態勢で間近に接近するのを認めた際、大きく右転し衝突を避けるための最善の協力動作をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、本件後水先人の業務を廃止したことに徴し、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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