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1999年(平成11年)

平成11年長審第11号
    件名
漁船平充丸プレジャーボートたか衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年7月8日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

原清澄、安部雅生、坂爪靖
    理事官
山田豊三郎

    受審人
A 職名:平充丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:たか船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
平充丸…ほとんど損傷なし
たか…右舷側中央部外板に破口、船長が第4腰椎圧迫骨折などを負って約1箇月の入院加療

    原因
平充丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
たか…見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、平充丸が、見張り不十分で、漂泊中のたかを避けなかったことによって発生したが、たかが、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年11月14日10時00分
熊本県八代港大築島北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船平充丸 プレジャーボートたか
総トン数 12トン
登録長 11.91メートル 5.89メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 33キロワット
漁船法馬力数 160
3 事実の経過
平充丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、このしろを釣る目的で、船首0.70メートル船尾1.15メートルの喫水をもって、平成9年11月14日08時30分熊本県八代港を発し、途中、燃料補給のため同県天草郡松島町阿村に寄せ、09時45分ごろ補給を終えて同地を発進し、八代港内の小築島北方沖の釣り場に向かった。
09時50分半A受審人は、下大戸ノ鼻灯台から021度(真方位、以下同じ。)550メートルの地点に達したとき、針路を135度に定め、機関を全速力前進にかけて17.5ノットの対地速力とし、自動操舵で進行した。
09時57分少し過ぎA受審人は、八代港防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から250度2.3海里の地点に達したとき、左舷船首約3度1,500メートルばかりのところに7隻ばかりの漂泊中の遊漁船群を認め、これらを避けるため、針路を防波堤灯台から224度1.9海里ばかりにある漁柵(さく)(以下「漁柵」という。)の南方550メートルばかりに向く139度に転じることにしたが、同遊漁船群に気をとられ、転針方向の見張りを十分に行なうことなく、右舷船首約5度1,450メートルばかりで漂泊中のたかに気付かないまま、針路を転じて続航した。
転針後、A受審人は、たかと衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、右舷船首方で漂泊中の1隻の遊漁船が今にも動きだすのではないかと同船の動静監視に気をとられ、依然たかの存在に気付かないまま進行中、10時00分防波堤灯台から230度2.1海里の地点において、平充丸の船首が、原針路、原速力のままたかの船尾部右舷側に右舷船尾後方から13度の角度をもって衝突した。
当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期で、付近海域には約200度方向に流れる0.7ノットばかりの潮流があり、視界は良好であった。
また、たかは、航行区域を限定沿海区域とし、船体前部にキャビンを、船体ほぼ中央部に機関室を設けたFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、いかの一本釣りを行う目的で、船首0.25メートル船尾0.60メートルの喫水をもって、同月14日08時00分八代港を発し、同港内の大築島北方沖の釣り場に向かった。
08時30分ごろB受審人は、前示衝突地点の北東方400メートルばかりの地点に至り、いったん投錨して釣りの準備を行い、同時40分ごろ揚錨し、左舷側に1本、右舷側に2本の釣り竿をそれぞれ置き竿としていか釣りを始めた。
B受審人は、折からの下げ朝流で圧流されると潮上りを繰り返しながら船首を南南東方に向けてキャビン後方の機関室ケーシングの上に座り、右舷方を向いて釣りをしていたところ、09時57分少し過ぎ前示衝突地点付近において、右舷船尾13度1,450メートルのところに、衝突のおそれがある態勢で接近する平充丸を視認できる状況となったが、接近する他船があれば漂泊中の自船を避けて行くものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、接近する平充丸に気付かないで、同船との衝突を避けるための措置がとれないまま釣りを続け、同時59分ごろ釣り餌がとられていることに気付き、いけすから餌のはぜを取り出し、船尾方を向いて立ち、下を向いて針にはぜを付けていたところ、10時00分わずか前異常な波の音に気付いてふと顔を上げたとき、船尾至近に迫った平充丸を認めたが、どうする暇もないまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、平充丸は、ほとんと損傷を生じなかったが、たかは、衝突の衝撃で右回頭し、右舷側中央部外板に破口を生じ、平充丸に横抱きされて八代港に引き付けられ、のち修理された。また、B受審人は、衝突の衝撃で船内で倒れているところを僚船に救助されたが、第4腰椎圧迫骨折などを負って約1箇月の入院加療を受けた。

(原因)
本件衝突は、熊本県八代港内において、平充丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中のたかを避けなかったことによって発生したが、たかが、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、熊本県八代港内において、釣り場に向けて航行中、左舷船首方で漂泊中の遊漁船群を避けるため進路を右方に転じる場合、転針方向で漂泊中の他船を見落とさないよう、同方向の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同遊漁船群に気をとられ、転針方向の見張りを十分行わなかった職務上の過失により、転針方向で漂泊中のたかに気付かずに転針し、転針後、右舷船首方で漂泊中の遊漁船の動静監視に気をとられたまま進行してたかとの衝突を招き、自船の船首外板擦過傷、たかの右舷側中央部外板破口などの損傷を生じさせ、B受審人に第4腰椎圧迫骨折などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、熊本県八代港内において、漂泊して釣りをする場合、自船に向首接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、接近する他船は漂泊中の自船を避けるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、釣り餌を付けることに専念し、接近する平充丸に気付かず、衝突を避けるための措置をとることができないまま漂泊していて衝突を招き、前示の損傷と負傷を生じるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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