日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成10年長審第78号
    件名
漁船更進丸漁船高栄丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年7月2日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

坂爪靖、原清澄、保田稔
    理事官
小須田敏

    受審人
A 職名:更進丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:高栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
更進丸…船首に擦過傷
高栄丸…左舷船首部を破損

    原因
更進丸…見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
高栄丸…動静監視不十分、警告信号不履行、各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、更進丸が見張り不十分で、漁ろうに従事している高栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、高栄丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年6月13日06時30分
長崎県生月島長瀬鼻西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船更進丸 漁船高栄丸
総トン数 12トン 6.6トン
全長 18.50メートル
登録長 13.63メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 308キロワット
漁船法馬力数 120
3 事実の経過
更進丸は、船体中央部に操舵室を設けたFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、いか一本釣り漁を行う目的で、船首0.50メートル船尾2.00メートルの喫水をもって、平成9年6月12日15時00分長崎県郷ノ浦港を発し、18時00分ごろ同県生月島長瀬鼻北西方11海里ばかりの漁場に至って操業を行い、いか約70キログラムを獲て操業を終え、航行中の動力船の灯火を表示して翌13日05時00分生月長瀬鼻灯台から270度(真方位、以下同じ。)10.0海里の地点を発進し、水揚げ地の同県生月港に向かった。
漁場発進時、A受審人は、針路を090度に定め、入港時刻を調整するため機関を微速力前進にかけて4.0ノットの速力とし、舵輪後方に置いた渡し板に腰掛けて自動操舵で進行した。
06時21分ごろA受審人は、生月長瀬鼻灯台から270度4.6海里ばかりの地点で、機関の回転数を上げて全速力前進の10.0ノットの速力として続航し、同時27分少し前同灯台から270度37海里の地点に達したとき、右舷船首12度1,000メートルのところに、極低速力で漁ろうに従事しながら北上中の高栄丸を視認でき、その後、同船と方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、前路をいちべつしただけで、船首方約1海里を先航する僚船のほかに他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、僚船と無線電話で入港時刻等の連絡をとっていて高栄丸の存在に気付かないまま進行した。
更進丸は、高栄丸の進路を避けないで続航中、06時30分わずか前A受審人が右舷前方至近に同船の船尾部を認め、急ぎ手動操舵に切り換え、機関のクラッチを中立にしたが、効なく、06時30分生月長瀬鼻灯台から270度3.1海里の地点において、原針路、原速力のまま、その船首が高栄丸の左舷船首部に直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力1の東風が吹き、視界は良好で、日出は05時12分であった。
また、高栄丸は、船体中央からやや後方に操舵室を設けたFRP製漁船で、B受審人のほか1人が乗り組み、たい延(はえ)縄魚を行う目的で、船首0.50メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、同日05時39分長崎県宮ノ浦漁港を発し、生月島長瀬鼻西方3海里ばかりの漁場に向かった。
06時15分B受審人は、生月長瀬鼻灯台から261度3.2海里の地点に達したとき、針路を000度に定め、機関を回転数毎分400にかけてクラッチの嵌脱(かんだつ)を繰り返しながら2.0ノットの前進速力で、自動操舵としたまま、右舷船尾部で船首方を向いて投縄を開始した。
ところで、高栄丸は、漁ろうに従事している船舶が表示する形象物を掲げていなかったが、揚縄機を備え、乗組員が船尾部で投縄しながら極低速力で進行しているうえ、付近の海域が延縄の漁場となっていることから、一見すれば延縄魚に従事中の漁船と分かる状態であった。
06時24分少し過ぎB受審人は、生月長瀬鼻灯台から266度3.1海里の地点に達したとき、左舷船首78度1.0海里のところに、自船に向けて左方から接近する態勢の更進丸を初認し、同時27分少し前同船が同方位、1,000メートルまで接近し、その後も同船と方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、初認時にいちべつしただけで自船の船尾方を替わしていくものと思い、同船と衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう、同船の方位の変化を確かめるなどの動静監視を十分に行うことなく、投縄を続けながら進行した。
高栄丸は、避航する気配を見せないで接近する更進丸に対し、警告信号を行うことも、間近に接近したとき機関を使用するなどの衝突を避けるための協力動作をとることもできないまま続航中、06時30分わずか前B受審人がふと左方を見たとき、左舷船首至近に迫った同船を認め、慌てて操舵室に入り、機関を後進にかけたが、効なく、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、更進丸は、船首に擦過傷を生じたのみであったが、高栄丸は、左舷船首部を破損し、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、長崎県生月島長瀬鼻西方沖合において、漁場から水揚げ地の同県生月港に向けて東行中の更進丸が、見張り不十分で、たい延縄漁に従事している高栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、高栄丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、長崎県生月島長瀬鼻西方沖合において、漁場から水揚げ地の同県生月港に向けて1人で操船に当たって航行する場合、前路の他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路をいちべつしただけで船首方を先航する僚船のほかに他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路でたい延縄漁に従事している高栄丸に気付かず、同船の進路を避けることができないまま進行して衝突を招き、更進丸の船首に擦過傷を、高栄丸の左舷船首部に破損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、長崎県生月島長瀬鼻西方沖合において、たい延縄漁に従事中、自船に向けて左方から接近する態勢の更進丸を認めた場合、同船と衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう、同船の方位の変化を確かめるなどの動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、いちべつしただけで同船は自船の船尾方を替わしていくものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、避航の気配を見せずに接近する更進丸に対し、警告信号を行うことも、間近に接近したとき機関を使用するなどの衝突を避けるための協力動作をとることもできないまま進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION