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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年12月16日07時29分 青森県青森湾 2 船舶の要目 船種船名 油送船近竜丸
漁船第八栄光丸 総トン数 2,947トン 19トン 登録長 98.04メートル 18.99メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
2,942キロワット 558キロワット 3 事実の経過 近竜丸は、船尾船橋型油送船で、A受審人ほか10人が乗り組み、ガソリンなどの石油製品5,170キロリットルを載せ、船首5.62メートル船尾6.62メートルの喫水をもって、平成9年12月13日19時30分千葉港を発し、青森港に向かった。 翌々15日13時35分A受審人は、青森港沖合に錨泊中の社船の北方1,000メートル付近に至り、青森港新北防波堤西火拾から012度(真方位、以下同じ。)2.8海里の地点で、明朝着桟の予定で左舷錨を投じて錨泊した。 翌16日07時20分A受審人は、乗組員に着桟及び荷役準備を行わせ、自らも船橋で入航準備のため操舵機などの作動点検に当たり、同時27分折からの西風の影響を受けて266度に向首してレーダーの作動状況を確かめていたとき、ほぼ右舷正横0.6海里に第八栄光丸(以下「栄光丸」という。)のレーダー映像を初めて認め、その後同船が衝突のおそれのある態勢で接近する状況であることを知った。同時28分少し前栄光丸が自船を避けないまま約400メートルに接近したころ、衝突の危険を感じ、同船に避航を促すために警告信号を行ったが効なく、07時29分前示錨泊地点において、近竜丸の右舷船尾部に、栄光丸の船首が、後方から80度の角度で衝突した。 当時、天候は曇で風力3の西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、視界は良好であった。 また、栄光丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人及び実兄ほか1人が乗り組み、5月初旬青森県竜飛漁港を出港して石川県沖でいか漁を開始以来、北上するいかを追って操業を続け、12月初旬に北海道稚内港沖合の漁場に達した。その後、南下して松前沖合で操業中のところ、久しぶりに同月15日08時30分竜飛漁港に戻ったが、漁期も終りに近づき、少しでも水揚げしようとして、長期間に及ぶ連続出漁により乗組員が疲労状態ながら、1泊操業の目的で、船首0.6メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、同日14時10分同港を発し、陸奥湾で引き続いて操業を行った。 こうして、翌16日早朝B受審人は、いか約1トンを獲て操業を打ち切り、水揚げの目的で、06時30分陸奥弁天島灯台から213度2.9海里の地点を発し、針路を186度に定めて自動操舵とし、折からの西風の影響を受けて東方に2度圧流されながら機関を全速力前進にかけて12.1ノットの対地速力で青森港に向かった。 ところで、B受審人は、これまで船橋当直を有資格の実兄と3時間ないし4時間交代で行ってきたが、今回水揚げ地までの航程が短いこともあって単独で船橋当直を行うことにした。 ところが、07時00分B受審人は、漁場を発してからいすに腰掛けた姿勢で当直に当たっていたころ、これまでの長期間の出漁で疲労が蓄積した状態であったうえ前日からの操業に際しても睡眠を取っていなかったので、次第に船橋内の暖房も効いて眠気を催すようになった。しかし、皆が精を出して操業に当たっており、眠気ぐらいは自らの手で克服しなければと思い、帰航開始後まもなく休息した兄と当直を交替することなく、そのまま単独当直を続けているうちに居眠りに陥り、07時27分近竜丸に向首したまま衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、これに気付かず、また、同船が吹鳴した汽笛による警告信号も聞こえず、同船を避けないまま続航し、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、近竜丸は、右舷船尾外板に亀裂を伴った凹損及び右舷甲板ハンドレールに折損を生じ、栄光丸は、船首部を圧壊したが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、青森湾において、航行中の栄光丸が、居眠り運航の防止装置が不十分で、休息中の乗組員との当直交替が行われず、船橋当直者が居眠りに陥り、錨泊中の近竜丸を避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為) B受審人は、青森湾において、水揚げのため青森港に向かって単独で当直中、入港間近にして眠気を催した場合、長期間に及ぶ連続出漁により疲労が蓄積し休息不足の状態であったから、居眠り運航に陥ることのないよう、休息中の有資格者である実兄と当直を交替するなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、皆が精を出して操業に当たってきたので、眠気程度のことは自らが克服しなければならないと思い、休息中の兄と当直を交替するなどの居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、眠気を催しながら単独当直を続けているうちに居眠りに陥り、前路で錨泊中の近竜丸を避けないまま進行して、同船との衝突を招き、近竜丸の右舷船尾外板に亀裂を伴った凹損及び右舷甲板ハンドレールに折損を生じさせ、また栄光丸の船首部を圧壊させるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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