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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年4月23日07時25分 香川県与島港 2 船舶の要目 船種船名 旅客船咸臨丸2
貨物船第十一栄福丸 総トン数 385トン 199トン 全長 49.00メートル 37.95メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
809キロワット 625キロワット 3 事実の経過 咸臨丸2(以下「咸臨丸」という。)は、香川県与島及び同県小与島を一周する遊覧観光に従事する鋼製旅客船で、船長Bほか1人が乗り組み、船首2.45メートル船尾2.85メートル2の喫水をもって、平成9年4月22日17時45分当日の遊覧観光が終了したので同県与島港塩浜地区西岸壁(以下「西岸壁」という。)に右舷付けで、船首を084度(真方位、以下同じ。)に向けて係留した。 翌23日07時00分B船長は、朝食をとり、その後甲板倉庫で食器を洗い始めたところ、07時25分与島の72メートル頂の三魚点(以下「三角点」という。)から026度340メートルの地点において、咸臨丸は、係留したままのその左舷後部に、第十一栄福丸(以下「栄福丸」という。)の右舷船首が後方から50度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力5の北風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、衝突地点付近には約2ノットの西流があった。 また、栄福丸は、専ら中国、関西両地方の諸港間の石材及びスクラップの運搬に従事する船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか1人が乗り組み、石材60トンを載せ、船首0.80メートル船尾2.80メートルの喫水をもって、同月23日07時10分香川県本島港を発し、岡山県犬島に向かった。 A受審人は、出港操船から引き続いて船橋当直に就き、07時22分三角点から249度360メートルの地点で、針路を027度に定め、機関を10.0ノットの全速力前進にかけ、折からの逆潮流に抗して8.0ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。 07時23分半A受審人は、三角点から322度270メートルの地点に達し、香川県与島橋下を航過したとき、針路を岡山県日比港東方の犬戻鼻に向く060度に転じたところ、右舷船首15度340メートルの西岸壁に係留中の咸臨丸を初めて認めた。 そのころA受審人は、風潮流が強く、船尾トリムの大きい状態で、船首が風潮流に圧流されることから保針に努めなければならない状況で、与島北岸に接近して航行していたものの、発電を補助機関から主機関に切り換えたことによりテレビの映りが悪くなったので、短時間なら操舵輪を放置しても直進するものと思い、保針に努めることなく、手動操舵のまま操舵輪から離れてテレビの調整に当たり続航し、その後折からの強い北風と西流の影響により徐々に船首が風下に落とされ、咸臨丸に向首進行することになったが、これに気付かず、同調整を続けた。 07時25分わずか前A受審人は、テレビの調整を終えて前方を見たところ、船首至近に咸臨丸を認め、機関を全速力後進、左舵一杯、サイドスラスタを左回頭としたが及ばず、134度に向首したとき、2,0ノットの前進惰力をもって前示のとおり衝突した。 衝突の結果、咸臨丸は左舷後部ブルワークに曲損を生じ、栄福丸は右舷船首部ハンドレール及び右舷錨リセスに凹損を生じたがのちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、与島沖において、栄福丸が保針不十分で、西岸壁に係留中の咸臨丸に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、与島北岸に接近して航行する場合、強い風潮流により圧流されて西岸壁に係留中の咸臨丸と衝突しないよう、保針に努めるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、短時間なら操舵輪を放置しても直進するものと思い、保針に努めなかった職務上の過失により、手動操舵のまま操舵輪から離れてテレビの調整に当たり、西岸壁に係留されてる咸臨丸に向首進行して同船との衝突を招き、咸臨丸の左舷後部ブルワークに曲損及び栄福丸の右舷船首部ハンドレール及び右舷錨リセスに曲損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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