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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年7月17日08時40分 北海道小樽市高島岬北西方沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船第3竹寿丸
遊漁船第21すみよし丸 総トン数 5.1トン 登録長 11.94メートル 全長
9.48メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 漁船法馬力数 70 出力 72キロワット 3 事実の経過 第3竹寿丸(以下「竹寿丸」という。)は、ほたて養殖業に従事するFRP製漁船で、A受審人がほか2人と乗り組み、平成10年7月17日04時00分北海道小樽市祝津漁港を発し、同時15分同市高島岬の北西方2海里ばかりのほたて貝養殖施設に至り、同時45分稚貝養殖網の揚網作業を終え、05時00分帰港した。 帰港後A受審人は、乗組員とともに養殖網から稚貝を採取し、枝縄で縦に連結した15個の養殖かご114連に分散して入れたのち、これを同施設内の海中に設置された幹縄に取り付ける目的で前部上甲板に載せ、船首0.40メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、08時28分同漁港を発し、再び同施設に向かった。 発航後A受審人は、単独船橋当直に当たって祝津漁港防波堤入口を通過したのち高島岬沖合に向け北上し、08時34分日和山灯台から002度(真方位、以下同じ。)500メートルの地点に達したとき、針路をほたて貝養殖施設内西部の幹縄の浮標に向く290度に定め、機関を全速力前進にかけ、14.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。 ところで、竹寿丸は、全速力に増速すると、船首が浮上するうえに操舵室前部左舷側のクレーンの台座と煙突カバーにより操舵室内右舷側の操舵位置からは左舷船首4点から右舷船首2点の間に死角を生じて前方を見通すことができない状況であった。 このためA受審人は、他船が存在する海域を全速力で航行するとき、舵及び機関の遠隔操縦装置のコードを操舵室内から船首楼甲板まで延出して同甲板に立って当直し、船首死角を補う見張りを行っていた。 定針したときA受審人は、正船首1.4海里にシーアンカーに掛かって漂泊している第21すみよし丸(以下「すみよし丸」という。)を視認できる状況で、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近した。しかしながら、同人は、早朝のほたて貝養殖施設往復航海で漂泊船を認めなかったことから、前路に他船はいないものと思い、船首方のすみよし丸を見落とすことのないよう、遠隔操縦装置のコードを延出して船首楼甲板で当直するなどの船首死角を補う見張りを十分に行わず、操舵室内の右舷側に立って操舵に当たっていたので、同船の存在に気付かず、同船を避けることなく続航中、08時40分突然衝撃を受け、日和山灯台から300度1.5海里の地点において、竹寿丸の右舷船首が、原針路、原速力のまま、すみよし丸の右舷船首に前方から50度の角度で衝突し、これを乗り切った。 当時、天候は晴で風力3の東北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期にあたり、視界は良好であった。 また、すみよし丸は、船首右舷側に船橋を設けた和船型のFRP製遊漁船で、B(大正14年9月26日生、四級小型船舶操縦士免状受有)が船長として1人で乗り組み、釣り客6人を乗せ、船首0.30メートル船尾0.50メートルの喫水をもって、同日04時30分北海道小樽港勝納川河口岸壁を発し、05時10分前示衝突地点付近に至り、船首からパラシュート型シーアンカーを投じ、引き索を7メートルばかり延出してこれに掛かり機関を停止して漂泊した。 B船長は、05時15分船首が東北東風に立ったので、釣り客全員を上甲板の両舷側に配置してかれいの一本釣りを行わせ、自らは操舵室後部付近で釣り客の監視に当たっていたところ、08時34分船首が060度に向いているとき右舷船首50度1.4海里に自船に向首接近中の竹寿丸を視認できる状況であった。しかしながら、同人は、釣り客の監視に気をとられて周囲の見張りを十分に行わなかったので、その後竹寿丸が衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、同船に対して避航を促す警告信号を行わず、同船が更に接近してもシーアンカーの引き索を解き放ち機関を始動して後進にかけるなどの衝突を避けるための措置をとることなく漂泊中、08時40分わずか前、右舷船首方30メートルに迫った竹寿丸の船首を初認したが、何の処置もとれず前示のとおり衝突した。 衝突の結果、竹寿丸は左舷船首船底外板に破口を伴う擦過傷及び推進器翼に曲損を生じ、すみよし丸は、右舷船首外板及び船橋を圧壊して左舷側に転覆し、主機その他に濡れ損を生じ、乗船員全員が海中に投げ出されてB船長と釣り客のC(昭和2年1月10日生)が死亡したほか3人の釣り客がそれぞれ頭部挫傷、肩挫傷及び肘挫傷などを負い、船体は僚船により祝津漁港に引き付けられたが修理不能で廃船処分された。
(原因) 本件衝突は、北海道小樽市高島岬北西方沖合において、竹寿丸が、同士祝津漁港から同市高島岬北西方のほたて貝養殖施設に向け西行中、見張り不十分で、前路で漂泊中のすみよし丸を避けなかったことによって発生したが、すみよし丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、シーアンカーの引き索を解き放ち機関を始動して後進にかけるなどの衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、北海道小樽市高島岬北西方沖合において、同市祝祝津漁港から同市高島岬北西方のほたて貝養殖施設に向け全速力で西行する場合、船首が浮上するうえに操舵室前部左舷側のクレーンの台座と煙突カバーにより操舵室からは船首方の一部に死角を生じて見通しが妨げられる状況であったから、前路でシーアンカーに掛かって漂泊中のすみよし丸を見落とすことのないよう、舵及び機関の遠隔操縦装置のコードを延出して船首楼甲板で当直するなどの船首死角を補う見張りを行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、早朝のほたて貝養殖施設往復航海で漂泊船を認めなかったことから、前路に他船はいないものと思い、操舵室内の右舷側に立ったまま船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、すみよし丸と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船の左舷船首船底外板に破口を伴う擦過傷及び推進器翼に曲損を生じさせ、すみよし丸の右舷船首外板及び船橋を圧壊して転覆、廃船処分させ、同船の船長及び釣り客1人を死亡させ、釣り客3人にそれぞれ頭部挫傷、肩挫傷及び肘挫傷などを負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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