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1999年(平成11年)

平成11年函審第23号
    件名
漁船第五十二龍徳丸漁船とら丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年9月9日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大石義朗、大山繁樹、古川隆一
    理事官
熊谷孝徳

    受審人
A 職名:第五十二龍徳丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:とら丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
龍徳丸…右舷側後部外板に亀裂を生じて機関室内に浸水、発電機及び安定器などに濡損
とら丸…船首部外板に亀裂

    原因
龍徳丸…動静監視不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
とら丸…動静監視不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第五十二龍徳丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切るとら丸の進路を避けなかったことによって発生したが、とら丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年5月26日03時00分
福井県福井港北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十二龍徳丸 漁船とら丸
総トン数 19.80トン 19.61トン
登録長 15.20メートル 16.53メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 150 160
3 事実の経過
第五十二龍徳丸(以下「龍徳丸」という。)は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、平成9年5月25日13時30分福井県福井港三国区を発し、17時00分同港西方沖合20海里ばかりの漁場に至って操業を開始し、翌26日02時00分いか約1.1トンを獲て操業を打ち切り、船首0.5メートル船尾2.4メートルの喫水をもって、02時30分同港北西方沖合15海里ばかりの漁場を発進し、帰航の途についた。
発進時、A受審人は、航行中の動力船の灯火を表示して1人で船橋当直に当たり、02時31分雄島灯台から327度(真方位、以下同じ。)14.9海里の地点に達したとき、針路を雄島灯台に向く149度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
A受審人は、02時55分雄島灯台から327度11.6海里の地点に達したとき、右舷船首53度1.0海里にとら丸の3個ばかりの白色作業灯を初めて認め、同船の笠付き作業灯の上方のマスト灯と同作業灯の間の紅灯が識別できる状況であったが、これを認めず、停留して操業中の同業船と思い、左舷船首3海里ばかりを先行する1隻の同業船の集魚灯の灯火に気を取られ、その後衝突の有無を判断できるよう、とら丸の動静を十分に監視することなく、同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、速やかに右転するなどして同船の進路を避けずに続航した。
02時59分半、A受審人は、とら丸が右舷船首53度120メートルに接近するのを認め、衝突の危険を感じ、機関を後進として行きあしを減じ再び同船を見たところ、その船首が右舷船橋至近に迫ってくるので、03時00分わずか、機関を全速力前進にかけたが効なく、03時00分雄島灯台から327度10.9海里の地点において、とら丸の船首が、原針路のまま行きあしが停止した龍徳丸の右舷側後部に後方から86度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力3の南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、とら丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか2人が乗り組み、同月25日09時00分石川県金沢港を発し、15時00分福井港西方沖合15海里ばかりの漁場に至って操業を開始し、翌26日02時30分いか約1.5トンを獲て操業を打ち切り、船首0.8メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、福井港北西方沖合12海里ばかりの漁場を発進し、帰航の途についた。
発進時、B受審人は1人で船橋当直に当たり、前部マスト上部にマスト灯1個、その下方に上方への光を遮蔽する笠を取り付けた500ワットの作業灯を1個、船橋上部両舷側の中央より少し後方に両舷灯、後部マスト上部に船尾灯1個、船橋上部前端及び後端の両舷側に舷灯及び船尾灯の識別を妨げないよう笠を取り付けた500ワットの作業灯各1個を点灯して、前部及び船尾上甲板を照明し、甲板員2人を前部上甲板の漁獲物箱詰め作業に従事させながら東行し、02時40分雄島灯台から311度11.6海里の地点に達したとき、針路を金沢港西防波堤灯台の北方0.8海里に向かう063度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.5ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
B受審人は、02時55分雄島灯台から322度11.0海里の地点に達したとき、左舷船首41度1.0海里に龍徳丸の白、緑2灯を初めて認め、同船が前路を右方に横切る態勢であることを知ったが、一見しただけで、接近すれば自船を右方に見る龍徳丸が自船の進路を避けるものと思い、その後衝突のおそれの有無を判断できるよう、龍徳丸に対して動静を十分に監視することなく続航した。
02時57分B受審人は、龍徳丸の方位に変化がないまま前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で1,100メートルに接近する状況となったが、甲板員が箱詰め作業終了後に報告した箱の数が誤っていたので、再度検数に当たらせ、その様子を操舵室右舷側出入口の引き戸を開け顔を出して見ていたため、このことに気付かず、警告信号を行わず、更に接近しても右転するなどの衝突を避けるための協力動作をとらずに進行中、03時00分わずか前、龍徳丸の船橋が正船首至近に迫っているのを認めたが、どうすることもできず、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、龍徳丸は、右舷側後部外板に亀裂を生じて機関室内に浸水し、発電機及び安定器などに濡損を生じ、同業船に曳航されて金沢港に入港し、とら丸は船首部外板に亀裂を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、福井県福井港北西方沖合において、両船が、互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、龍徳丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切るとら丸の進路を避けなかったことによって発生したが、とら丸が動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、福井県福井港北西方沖合漁場から福井港に向けて南下中、前路を左方に横切る態勢のとら丸を認めた場合、同船との衝突の有無を判断できるよう、同船の動静を十分に監視すべき注意義務があった。ところが、同人は、停留して操業中の同業船と思い、左舷船首方3海里ばかりを先行する同業船に気を取られ、とら丸の動静を十分に監視しなかった職務上の過失により、同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、同船の進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、龍徳丸の右舷側後部外板に亀裂、発電機及び安定器などに濡損を生じさせ、とら丸の船首部外板に亀裂を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、福井県福井港北西方沖合漁場から石川県金沢港に向けて東行中、前路を右方に横切る態勢の龍徳丸を認めた場合、衝突の有無を判断できるよう、引き続き同船の動静を十分に監視すべき注意義務があった。ところが、同人は、一見しただけで、接近すれば自船を右方に見る龍徳丸が自船の進路を避けるものと思い、漁獲物を箱詰めした箱の検数に気を取られ、龍徳丸の動静を十分に監視しなかった職務上の過失により、同船が衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、衝突を避けるための協力動作をとらずに進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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