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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年8月15日01時05分 千葉県犬吠埼沖合 2 船舶の要目 船種船名 貨物船第五山菱丸
貨物船プリンセスセイコー 総トン数 985トン
6,641トン 全長 72.95メートル
100.61メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 1,471キロワット
3,089キロワット 3 事実の経過 第五山菱丸(以下「山菱丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製液体化学薬品ばら積船で、A受審人ほか9人が乗り組み、融解硫黄1,330トンを積載し、船首3.80メートル船尾5.10メートルの喫水をもって、平成10年8月14日12時30分宮城県塩釜港を発し、名古屋港に向かった。 翌15日00時45分犬吠埼灯台から058度(真方位、以下同じ。)5.8海里の地点において、休息中のA受審人は、船橋当直中の二等航海士から霧のため視程が約100メートルに狭められたとの報告を受けて昇橋し、自ら操船指揮にあたり、針路を185度に定め、機関を全速力前進にかけ、南南西方に流れる約1.5ノットの海流に乗じ、2度ほど右方に圧流されながら、14.5ノットの対地速力で、航海灯を点じて霧中信号を吹鳴し、自動操舵により進行した。 A受審人は、00時46分機関を使用する旨の連絡に船橋当直中の操舵手を機関室に向かわせ、レーダーで約213海里前方に認めた同航の第三船(以下「第三船」という。)の右舷側につくつもりで、二等航海士に命じて針路を210度に転じるとともに微速力に減じ、1度ほど左方に圧流されながら、12.7ノットの対地速力で続航し、その後再び昇橋した操舵手を手動操舵に、二等航海士をレーダー見張りにそれぞれあたらせ、速力が減衰しながら進行した。 A受審人は、00時49分犬吠埼灯台から063度5.2海里の地点において、第三船の右舷側についたので針路を193度まで戻し、2度ほど右方に圧流され、10.2ノットに減衰した対地速力で続航したところ、同時52分6海里レンジとしたレーダーで右舷船首8度4.0海里のところにプリンセスセイコー(以下「プ号」という。)のレーダー映像を初認し、同時53分同灯台から070度4.7海里の地点において、北上する同船と左舷を対して航過するつもりで針路を235度に転じ、5度ほど左方に圧流されながら更に9.3ノットに減衰した対地速力で進行した。 A受審人は、その後もレーダー監視を続け、00時56分左舷船首33度2.7海里にプ号のレーダー映像を認めるようになったとき、極微速力に減じ、8.3ノットの対地速力から更に減衰しながら続航したところ、同時58分犬吠埼灯台から074度4.0海里の地点において、左舷船合首33度2.0海里に同映像を認め、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことを知り、二等航海士からもその旨の報告を受けたが、既に減速しているので大丈夫と思い、針路を保つことができる最少限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく進行した。 A受審人は、その後も3海里レンジとしてプ号のレーダー監視を続けていたところ、方位が変わらないまま同船となおも接近したが、二等航海士に左舷ウイングに出て左舷前方を見張るよう指示しただけで、依然機関を極微速力にかけたまま続航し、01時04分プ号のレーダー映像を左舷船首30度500メートルに認めて衝突の危険を感じ、操舵手に右舵一杯を命じたものの、及ばず、01時05分犬吠埼灯台から079度3.2海里の地点において、6.5ノットの対地速方で、270度に向首した山菱丸の左舷側後部に、プ号の船首が前方から80度の角度で衝突した。 当時、天候は霧で、風力2の北東風が吹き、視程は約100メートルで、付近海域には南南西方に流れる約1.5ノットの海流があった。 また、プ号は、船尾船橋型の貨物船で、船長B、二等航海士Cほか16人が乗り組み、合板3,070立方メートルを横載し、船首4.49メートル船尾5.72メートルの喫水をもって、同月14日15時10分京浜港横浜区を発し、宮城県石巻港に向かった。 C二等航海士は、翌15日00時00分ごろ犬吠埼灯台の南方12海里付近で船橋当直につき、同時45分同灯台から138度4.4海里の地点において、操舵手を手動操舵につけ、針路を005度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.6ノットの対地速力で、南南西方に流れる海流により2度ほど左方に圧流されながら、航海灯を点じて進行したところ、同時46分半霧で視程が約3海里となったとき、6海里レンジとしたレーダーで右舷船首13度6.0海里に山菱丸のレーダー映像を初認し、同船と南下する第三船とのレーダー監視を続けながら続航した。 C二等航海士は、00時50分霧のため視程が約100メートルに狭められたが、霧中信号を吹鳴せず、安全な速力に減ずることもせず、原針路、原速力のまま進行し、同時55分第三船を右舷側に約0.7海里離して航過したのち、同時58分犬吠埼灯台から104度3.2海里の地点において、山菱丸のレーダー映像を右舷船首17度2.0海里に認めるようになり、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、同船とも第三船とほぼ同じ距離を隔てて航過できるものと思い、針路を保つことができる最少限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく、霧中信号を開始しただけで続航した。 C二等航海士は、01時03分少し過ぎ山菱丸のレーダー映像を右舷船首18度0.5海里に認めてようやく衝突の危険を感じてB船長に報告したうえ、同時05分少し前右舵一杯としたが、及ばず、010度に向首して、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 B船長は、衝突したころ昇橋し、事後の措置にあたった。 衝突の結果、山菱丸は、1番左舷燃料油タンク付近の左舷側後部外板に破口を、プ号は、船首に凹損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理され、山菱丸から流出した多量の燃料油によって付近の海域及び海岸が汚染された。
(原因) 本件衝突は、両船が霧のため視界が制限された犬吠埼沖合を航行中、南下する山菱丸が、レーダーにより前方に探知したプ号と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最少限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、北上するプ号が、安全な速力に減じなかったばかりか、レーダーにより前方に探知した山菱丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最少限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、霧のため視界が制限された犬吠埼沖合を南下中、レーダーにより前方に探知したプ号と著しく接近することを避けることができない状況となったことを知った場合、針路を保つことができる最少限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかるに、同人は、既に機関を極微速力に減じていたので大丈夫と思い、針路を保つことができる最少限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかった職務上の過失により、南南西方に流れる海流に乗じて進行し、プ号との衝突を招き、山菱丸の左舷側後部外板に破口を、プ号の船首に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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