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1999年(平成11年)

平成10年門審第27号
    件名
漁船海栄丸貨物船グローバル プログレス衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年8月31日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

宮田義憲、西山烝一、平井透
    理事官
千手末年

    受審人
A 職名:海栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
グ号…左舷側後部外板に擦過傷
海栄丸…船首部を大破、マストを曲損

    原因
海栄丸…居眠り運航防止措置不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
グ号…横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、海栄丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切るグローバル プログレスの進路を避けなかったことによって発生したがグローバル プログレスが、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年1月22日13時07分
福岡県沖ノ島北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船海栄丸 貨物船グローバル プログレス
総トン数 19.01トン 4,238.15トン
全長 113.10メートル
登録長 16.31メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,794キロワット
漁船法馬力数 140
3 事実の経過
海栄丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首1.00メートル船尾2.10メートルの喫水をもって、平成10年1月22日10時30分山口県特牛港を発し、長崎県対馬長崎鼻東方沖合20海里ばかりの漁場に向かった。
これより先、A受審人は、同月21日15時ごろ同海域に出漁して夜間操業を行い、豊漁であったことから漁獲物の箱詰め作業に追われて睡眠をとらないまま操業を続け、翌22日04時ごろ操業を打ち切った後、単独で操舵、操船にあたり、09時30分に同港に入港して水揚げを終え、氷、燃料などを補給した後、離岸したので睡眠不足となっていた。
A受審人は、発航とともに単独で操舵、操船にあたり、10時35分特牛灯台から283度(真方位、以下同じ。)1,100メートルの地点において、針路を272度に定めて自動操舵とし、機関を11.0ノット(対地速力、以下同じ。)の全速力前進にかけて進行した。
A受審人は、12時30分ごろから持参の弁当をとり、その後僚船と無線連絡を行うなどして、同時50分沖ノ島灯台から068度14.8海里の地点に達したころ船橋後部の甲板面より30センチメートル高く作られている居室部分の床に腰掛け、寝室入口の壁にもたれかかってGPSプロッターやレーダーの画面を見て見張りにあたっていたところ、前日からの睡眠不足で急に眠気を催したが、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、休息中の乗組員を昇橋させて2人当直とするなど居眠り運航の防止措置をとることなく、続航するうち、いつしか居眠りに陥った。
こうして、A受審人は、13時02分沖ノ島灯台から065度12.9海里の地点に達したとき、右舷船首19度1.9海里のところに前路を左方に横切るグローバル プログレス(以下「グ号」という。)を認めることができ、その後その方位がほとんど変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近したが居眠りに陥ってこのことに気付かず、同号の進路を避けないまま進行中、13時07分沖ノ島灯台から063度12.0海里の地点において、海栄丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首がグ号の左舷側後部に前方から70度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力4の北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、視界は良好であった。
また、グ号は、大韓民国の馬山港及び釜山港と日本の神戸港及び大阪港間を結ぶ定期航路に就航する船尾船橋型コンテナ専用船で、韓国人船長Bほか韓国人14人及び中国人1人が乗り組み、コンテナ貨物2,013.1トンを載せ、船首3.75メートル船尾5.25メートルの喫水をもって、同月22日06時40分釜山港を発し、大阪港に向かった。
B船長は、自ら運航の指揮にあたり、釜山港港口防波堤を航過後、針路を127度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、12.5ノットの速力で関門海峡に向かって南下し、08時00分ごろ船橋当直を三等航海士に委ねて降橋し、自室に退いて休息した。
12時00分二等航海士は、沖ノ島灯台から358度13.9海里の地点において、前直の三等航海士から同針路、同速力で当直を引き継ぎ、操舵手に補佐させて当直に就き、同時57分左舷船首16度4.0海里ばかりのところに前路を右方に横切る態勢の海栄丸を初めて視認し、折から昼食を終えて代理店に電話連絡するために昇橋したB船長にその旨報告した。
B船長は、電話連絡を終え、二等航海士から海栄丸が更に接近する旨再度報告を受け、これを見守るうち、13時02分沖ノ島灯台から058度11.6海里の地点で、海栄丸が左舷船首16度1.9海里となり、その後その方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め、手動操舵への切り替えと警告信号の吹鳴を令して同航海士に短音5回を繰り返して吹鳴させ、以後操船の指揮は自らがとることを告げ、同船を監視しながら進行した。
13時03分B船長は、海栄丸が一向に自船の進路を避ける気配のないまま、更に接近して1.5海里となり、その後なおもその方位が変わらないまま、間近に接近するのを認めたが、速やかに機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとらないで続航し、同時06分690メートルに接近したのを認めて右舵一杯としたが及ばず、162度に向首したとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、グ号は左舷側後部外板に擦過傷を生じ、海栄丸は船首部を大破してマストを曲損したが、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、沖ノ島北東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、海栄丸が居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切るグ号の進路を避けなかったことによって発生したが、グ号が衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、沖ノ島北東方沖合を漁場に向け西行中、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、休息中の乗組員を昇橋させて2人当直とするなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、グ号の進路を避けないまま進行し、同船との衝突を招き、海栄丸の船首部を大破してマストを曲損し、グ号の左舷側後部外板に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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