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1999年(平成11年)

平成10年門審第123号
    件名
プレジャーボートさくら灯浮標衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年6月23日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

供田仁男、阿部能正、西山烝一
    理事官
今泉豊光

    受審人
A 職名:さくら船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船首部外板に破口、のち沈没、船長が全治約1箇月の右橈骨骨折、同乗者1人が約3箇月の右肋骨骨折、右胸部打撲及び右外傷性気胸

    原因
保針不十分

    主文
本件灯浮標衝突は、保針が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年10月22日21時45分
福岡県博多港
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートさくら
総トン数 17.57トン
全長 11.58メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 169キロワット
3 事実の経過
さくらは、昭和57年に建造されたFRP製プレジャーボートで、2基2軸及び1舵を装備し、自動操舵装置がなく、船体前半部の甲板下に前部船室、後半部の甲板上に後部船室を有していた。後部船室は、その前部右舷側に操縦席を配し、同席を挟んで右側の側壁に後方に開く引き戸を取り付けた出入口を、また、左側のほぼ船体中心線上に後部船室から前部船室に降りる階段をそれぞれ設け、同階段操縦席側の壁の下部に配電盤を備えていた。
さくらは、A受審人が平成8年7月に前所有者から購入したのち、博多港第1区東浜埠頭南岸の奥部に位置する東浜船だまりに係留されており、同埠頭の西端から1,500メートル西方の東、西両防波堤の水路が港口になっていた。そして、東防波堤の港口側先端部に博多港東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)が設置され、同灯台から105度(真方位、以下同じ。)350メートルルのところに、同防波堤南側の浅水域を示す博多港内港湾局第1号灯浮標(以下「第1灯浮標」という。)が敷設されていた。
A受審人は、さくらによる初めての巡航を計画し、同年10月22日夕刻、東浜船だまりに赴いて1人で同船に乗り組み、航海灯の点灯状況を確認するなどの出港準備にとりかかった際、予備を含む3台のバッテリーが配電盤内に組み込まれたスイッチにより4段階切替え方式になっていることを知った。
こうして、A受審人は、友人Bほか1人を同乗させ、船首0.9メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日21時35分東浜船だまりを発し、博多港港外に向かった。
A受審人は、操縦席で立って舵輪を持ち、東浜埠頭の南岸沿いに西行したのち、21時41分少し前東防波堤灯台から123度1,380メートルの地点において、針路を港口に向く297度に定め、機関を半速力前進にかけて8.0ノットの対地速力で進行したところ、周囲に他船を見かけなかったことから、バッテリーを切り替えると航海灯や室内灯の点灯状態がどのように変化するものか調べてみることを思いついた。
21時42分A受審人は、右舷船首17度730メートルに第1号灯浮標の灯火を望み、そのままの針路を保持すれは同灯浮標を右舷側に220メートル離して航過する態勢であったが、短時間なら操舵しなくとも直進するものと思い、第1号灯浮標に著しく接近することのないよう保針に努めることなく、舵輪から手を離し、バッテリーの切替えスイッチを操作し始めた。
A受審人は、左右の推進器の推力差等により、針路が徐々に右偏して第1号灯浮標に接近したが、開放した出入口の船首側の枠を右手でつかみ、身体を左前方に傾けて左手でスイッチを切り替え、航海灯や室内灯が消灯したり再び点灯したりするのを確かめながら続航中、21時45分さくらは、船首が000度を向いたとき、原速力のまま、第1号灯浮標に衝突した。
当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
その結果、第1号灯浮標に損傷はなく、さくらは、船首外板に擦過傷を生じただけであったものの、A受審人は、衝突の衝撃により勢いよく閉じた出入口の引き戸で右手首を強打し、全治約1箇月の右橈骨骨折を負い、また、B同乗者は、甲板上で転倒して失神し、同約3箇月の右肋骨骨折、右胸部打撲及び右外傷性気胸を負った。
衝突後、A受審人は、出入口の引き戸に右手を挟まれたまま鍵が掛かり、どうすることもできず、同乗者の1人がかぎを壊すのを待つうち、さくらは、操船不能となって港内を迷走し、21時50分港口付近の西防波堤に衝突して船首部外板に破口を生じ、前部船室に浸水が始まった。
間もなく、A受審人は、右手を抜くことができ、再び操船にあたって西防波堤沿いに南下し、最寄りの博多漁港魚市場岸壁に着岸後、救急車を手配したうえ同乗者2人を下船させたころ、浸水が激しさを増したので離岸し、港外の浅瀬に任意座礁しようと進行中、22時30分東防灘堤灯台から202度1,630メートルの港内で、さくらは、沈没したが、のち引き揚げられ、A受審人は、博多臨港警察署の警備艇に救助された。

(原因)
本件灯浮標衝突は、夜間、博多港を出航中、保針が不十分で、港口付近の灯浮標に著しく接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、博多港を出航中、港口付近の灯浮標を右舷側近距離に航過する針路で進行する場合、同灯浮標に著しく接近することのないよう、保針に努めるべき注意義務があった。しかし、同人は、短時間なら操舵しなくとも直進するものと思い、舵輪から手を離してバッテリー切替えスイッチを操作し、保針に努めなかった職務上の過失により、針路が徐々に右偏して灯浮標への衝突を招き、船首に擦過傷を生じさせ、自らが右橈骨骨折を、同乗者が右肋骨骨折、右胸部打撲及び右外傷性気胸をそれぞれ負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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