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1999年(平成11年)

平成11年函審第32号
    件名
引船もんべつ丸3号漁船第18北宝丸外3隻衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年9月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

酒井直樹、大山繁樹、古川隆一
    理事官
熊谷孝徳

    受審人
A 職名:もんべつ丸3号船長 海技免状:四級海技士(航海)(履歴限定)
    指定海難関係人

    損害
もんべつ丸…左舷船尾外板塗料が剥離
北宝丸…船尾ブルワーク及び船首外板に亀裂
和栄丸…船尾ブルワーク及び船首外板に亀裂
松栄丸…船尾左舷側ブルワーク、右舷側ブルワーク及び船首外板に亀裂
輝世丸…右舷側ブルワークに亀裂

    原因
もんべつ丸…操船・操機不適切(操舵装置の作動確認不十分)

    主文
本件衝突は、離岸操船開始前における操舵装置の作動確認が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月17日12時35分
北海道紋別港
2 船舶の要目
船種船名 引船もんべつ丸3号 漁船第18北宝丸
総トン数 99.29トン 9.75トン
全長 26.70メートル
登録長 13.65メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 860キロワット
漁船法馬力数 120
船種船名 漁船第38和栄丸 漁船第三十八松栄丸
総トン数 9.74トン 9.85トン
登録長 12.86メートル 13.04メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 120 75
船種船名 漁船第八輝世丸
総トン数 9.7トン
全長 14.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 120
3 事実の経過
もんべつ丸3号(以下「もんべつ丸」という。)は、北海道沿岸で台船の曳航及び船舶の離着岸支援作業などに従事する鋼製引船で、平成10年8月5日早朝北海道紋別港第2ふとう北岸壁でA受審人が前任船長と交代して機関長及び甲板員と乗り粗み、ロシア連邦の貨物船の入航着岸作業を支援したあと、同日12時00分同港第2ふとう北岸壁に係留し、翌6日午前中に船首1.2メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、同岸壁から同港第2船だまり西岸壁の南端から60メートルばかりの地点に船首索2本、船首ブレスト1本、船尾ブレスト1本、船尾索1本をとって左舷付けで係留し、その後もんべつ丸の右舷側に社船の引船晴昂丸が左舷付けで並列に接舷し、そのまま停泊した。
ところで、紋別港第2船だまりは、紋別港北部の第1船だまりの南方に位置し、西側に北北東に約320メートル延びる西岸壁と同岸壁南端から東北東に約125メートル延びる南物揚場とその東端から西岸壁とほぼ平行に北北東に約260メートル延びる東物揚場とで囲まれた長方形となっており、幅約80メートルの水路が北東方に開き、南物揚場には常時多数の漁船が船首付けで並列に係留していた。
A受審人は、社船のもんべつ丸7号で同年7月13日から同月25日まで船長職を執っていたが、社命により臨時に8月5日及び翌6日の両日もんべつ丸に船長として乗り組んだもので、前任船長から操舵室内の配電盤のスイッチ操作などについて引継ぎを受けたものの、同月7日から休暇になり、もんべつ丸を下船したので同船の操船経験は前示2回で操舵装置の電源スイッチの操作に慣れていなかった。
A受審人は、休暇明けの同月15日に所有者から北海道能取湖から北海道サロマ湖まで曳航作業に従事するよう指示を受け、翌16日夕刻もんべつ丸に再び乗船したが荒天であったので同日深夜に予定していた出航を延期し、17日12時30分第2船だまり西岸壁を離岸して紋別港第1ふとう西岸壁に着岸後補水したのち出航する予定として16日夜紋別市内の自宅に帰宅した。
A受審人は、翌17日12時30分少し前に帰船したとき、もんべつ丸船首前方約15メートルに漁船2隻と引船1隻が左舷付けで船首を北方に向け並列に係留し、もんべつ丸の船尾後方約10メートルに、3隻の給油バージが船首を南方に向け並列に係留しており、南物揚場岸壁にはその西端と西岸壁の角部から約20メートル、もんべつ丸の右舷後方約35メートルに第18北宝丸(以下、「北宝丸」という。)が船尾から錨を投下して船首を164度(真方位、以下同じ。)に向けて船首付けで係留し、その左舷側に第38和栄丸(以下、「和栄丸」という。)、第三十八松栄丸(以下、「松栄丸」という。)、第八輝世丸(以下、「輝世丸」という。)ほか6隻ばかりの漁船が同じ係留方法で並列に係留しており、もんべつ丸の前後方向の操船水域は約50メートルとなっていた。
A受審人は、急いで昇橋すると、すでに船首の係留索1本のみが残され、機関も用意されて出港準備が整っており、離岸操船水域が狭かったので晴昂丸の支援を受けこととし、右舷前部に引き綱をとり、晴昂丸に右舷正横方向に引く用意をさせ、操舵室内の配電盤及び操舵装置の油圧ポンプのスイッチをそれぞれ投入して操舵スタンドでダイヤル式の遠隔操舵に切り替えたものの、配電盤のスイッチ操作が不慣れで、操舵装置の電源を投入しなかった。
A受審人は、12時30分船首配置の甲板長から船首係留索の解き放しについて指示を求められたが、離岸予定時刻になり急いでいたので操舵装置の電源を投入したものと思い、離岸操船開始前に舵を左右にとるなどして操舵装置の作動確認を十分に行うことなく、同係留索を解き放すよう命じた。
12時30分少し過ぎA受審人は、船首係留索を解き放したあと晴昂丸に右舷正横方向へ引かせ始め、ダイヤルを回して舵角をとり遠隔操舵の試験を行ったところ、舵角指示器の指針が動かず、パイロットランプの白灯が点灯しなかったので、機関室側で電源が投入されていないものと判断し、上甲板で離岸作業をしていた機関長に対して機関室に降りて電源の点検を行うよう指示したのち12時32分離岸状況を確認したところ、自船はすでに晴昂丸により岸壁から10メートルばかり正横方向に引き出されていたので同船を停止させ、その引き綱を解き放させた。
A受審人は、その後北西風を船首から受け自船が後方へ圧流されて南物揚場岸壁に係留中の北宝丸の船尾に向かって接近し始めたので、後進行きあしを止めようとして12時33分操舵室右舷側の主機操縦ハンドルに手をかけ、機関を微速力前進にかけようとしたが、まだ同船まで20メートルばかり距離があるので更に接近して衝突の危険があるなら晴昂丸の支援を受けようと考え直し、同ハンドルから手を離したとき、同ハンドルが少し後進の位置に入ったことに気付かなかった。
こうして、もんべつ丸は次第に後進行きあしが大きくなりながら北宝丸の船尾に向かって接近し、12時35分少し前A受審人が、左舷後方20メートルばかりの給油バージの替わり方が速くなったので後進行きあしが大きくなっていることに気付き、12時35分機関を前進にかけたが間に合わず、紋別港内港防波堤灯台から197度365メートルの地点において、338度を向いたもんべつ丸の左舷船尾が北宝丸の右舷船尾に2.5ノットの速力で後方から6度の角度で衝突し、引き続き北宝丸の左舷に同船と同様に並列に接舷していた和栄丸の右舷船尾に衝突して停止し、衝突の衝撃で和栄丸の左舷側が松栄丸の右舷側にほぼ並行のまま衝突し、続いて松栄丸の左舷側が輝世丸の右舷側に衝突した。
当時、天候は曇で風力3の北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、北宝丸は、定置漁業に従事するFRP製漁船で、操業を終了して8月12日07時30分船尾から錨を投下し、船首を164度に向けて南物揚場岸壁に船首付けで係留したあ無人としていたとろ、前示のとおり衝突した。
和栄丸は、定置漁業に従事するFRP製漁船で、春の漁期を終了して8月5日15時00分船尾から錨を投下し、船首を164度に向けて南物揚場岸壁に船首付けで北宝丸の左舷に接舷して並列に係留したあと無人としていたところ、前示のとおり衝突した。
松栄丸は、定置漁業に従事するFRP製2漁船で、春の漁期を終了して8月6日15時00分船尾から錨を投下し、船首を164度に向けて南物揚場岸壁に船首付けで和栄丸の左舷に接舷して並列に係留したあと無人としていたところ、前示のとおり衝突した。
輝世丸は、定置漁業に従事するFRP製漁船で、操業を終了して8月12日08時00分船尾から錨を投下し、船首を164度に向けて南物揚場岸壁に船首付けで松栄丸の左舷に接舷して並列に係留したあと無人としていたところ、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、もんべつ丸は、左舷船尾外板塗料が剥離しただけであったが、北宝丸は、船尾ブルワーク及び船首外板に、和栄丸は船尾ブルワーク及び船首外板に、松栄丸は、船尾左舷側ブルワーク、右舷側ブルワーク及び船首外板に、輝世丸は、右舷側ブルワークにそれぞれ亀裂などの損傷を生じ、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、北海道紋別港第2船だまり西岸壁において、引船を使用して離岸操船を行う際、離岸操船開始前の操舵装置の作動確認が不十分で、操舵室内配電盤の操舵装置の電源が投入されないまま離岸し、船首方向からの風により風下に圧流され、後方に係留していた北宝丸及び和栄丸に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、紋別港第2船だまり西岸壁において、引船を使用して離岸操船を行う場合、離岸操船開始前に舵を左右にとるなどして、操舵装置の作動確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、配電盤のスイッチ操作が不慣れで、操舵装置の電源を投入したものと思い、操舵装置の作動確認を十分に行なわなかった職務上の過失により、操舵室内配電盤の操舵装置の電源が投入されないまま引船の支援を受けて離岸し、船首方向からの風により風下に圧流され、後方に係留していた北宝丸及び和栄丸に向かって進行して北宝丸及び和栄丸との衝突並びに外2隻の衝突を招き、もんべつ丸の左舷船尾外板塗料を剥離させ、北宝丸の船尾ブルワーク及び船首外板、和栄丸の船尾ブルワーク及び船首外板、松栄丸の船尾左舷側ブルワーク、右舷側ブルワーク及び船首外板、輝世丸の右舷側ブルワークにそれぞれ亀裂などの損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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