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1999年(平成11年)

平成9年門審第120号
    件名
プレジャーボート海鳳丸漁船かず丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年2月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

清水正男、伊藤實、吉川進
    理事官
喜多保

    受審人
A 職名:海鳳丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:かず丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
海鳳丸…右舷中央部ブルワーク及び操舵室を大破、船長が約1箇月の通院加療を要する左第7肋骨骨折
かず丸…船首船底に破口並びに船首部及び錨台に破損

    原因
かず丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
海鳳丸…形象物不表示、動静監視不十分、注意喚起信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、かず丸が、見張り不十分で、錨泊中の海鳳丸を避けなかったことによって発生したが、海鳳丸が、錨泊中であることを示す形象物を表示しなかったばかりか、動静監視不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Bの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年6月12日15時20分
長崎県壱岐島東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート海鳳丸 漁船かず丸
総トン数 7.3トン 5.9トン
全長 15.40メートル
登録長 11.91メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 496キロワット
漁船法馬力数 90
3 事実の経過
海鳳丸は、FRP製プレジャーモーターボートで、A受審人が1人で乗り組み、遊漁の目的で、船首0.5メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、平成9年6月12日08時45分福岡県糸島郡志摩町岐志漁港を発し、壱岐島東方沖合の釣り場に向かった。
10時30分ごろA受審人は、魚釣埼灯台から084度(真方位、以下同じ。)41海里の地点に至って機関を停止し、重さ50キログラムの錨に直径24ミリメートルで長さ100メートルの合成繊維索と同じ長さのワイヤロープをつないだものを錨索として取り付け、左舷船首の錨台から水深49メートルの海中に投じて、錨索を約100メートル延ばし、錨泊中であることを示す黒色球形形象物を表示しないまま錨泊したのち、左舷中央部及び両舷船尾の計3箇所の舷側から釣り竿をそれぞれ出して釣りを始め、自らは船尾甲板中央部に設置したいすに腰を掛けて各竿の様子を見ながら釣りを続けた。
A受審人は、潮と釣果の様子から前示錨泊地点で2回の転錨を行い、15時15分半船首を348度に向けて錨泊していたとき、右舷船首45度1.2海里のところに自船に向けて接近するかず丸を初認し、いすから立ち上がって同船の動きを見守り、同時18分かず丸が距離1,000メートルまで近づいたことを認め、同船の左舷側が見えていたことと、先に航過した他の漁船がいずれも自船の船首方を100メートルないし200メートル離して航過したことから、かず丸も自船の船首方を無難に替わしていくものと思い、そのころ左舷中央部の釣り竿がたわむ様子を見て同竿のところに移動し、電動リールのスイッチを入れて魚の釣り上げに取り掛かり、その後かず丸に対する動静監視を十分に行わなかったので、同船が避航の動作をとらないまま自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、注意喚起信号を行わなかった。
同時20分わずか前A受審人は、魚を釣り上げたとき、船の波切り音に気付き、振り返って右舷方を見たところ至近に迫ったかず丸を認め、衝突の危険を感じ、機関を始動しようとして一旦は操舵室に入ったものの、かず丸の接近模様から同室に衝突すると思い、急いで船首部に移動して大声で叫んだものの効なく、15時20分前示錨泊地点において、海鳳丸は、船首を348度に向けたまま、その右舷中央都にかず丸の船首が、前方から45度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期で、視界は良好であった。
また、かず丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人と同人の息子である甲板員1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同日06時00分長崎県壱岐郡芦辺町八幡浦漁港を発し、同島北東方沖合の漁場に向かった。
B受審人は、07時00分前示漁場に至って操業を開始し、出航前夜寝冷えをして風邪気味で体調が悪かったため、13時30分操業を甲板員に任せて操舵室後部で横になって休息し、14時30分体調が回復しなかったことと、漁模様が芳しくなかったことから早めに操業を打ち切って漁獲の整理を行い、同時53分魚釣埼灯台から051度10.2海里の地点を発進し、針路を壱岐島左京鼻の南方に向く213度に定め、機関を16.0ノットの半速力前進にかけ、手動操舵により進行した。
ところで、かず丸は、16.0ノットの速力で進行すると船首が浮上し、操舵室の右舷側に設置された操舵席のいすに腰を掛けて操船を行うと、船首方が見えにくいことから、平素、B受審人は舵輪の後方に立つなどして前方の見張りを行っていた。
漁場発進後、B受審人は、いすに腰を掛けて操舵に当たり、15時15分半魚釣埼灯台から073度5.0海里の地点に達したとき、正船首1.2海里のところに錨泊している海鳳丸を視認できる状況となり、体調が悪くて十分に見張りができない状態となったものの、漁場の往復時に付近海域で船舶を見掛けなかったことから、前路に錨泊する他船はいないものと思い、いすから立ち上がって見張りを行うことも、作動していたレーダーを監視することもせず、後部甲板で漁具の整理をしていた甲板員を船橋に呼んで補助の見張りに立たせるなどして前路の見張りを十分に行うことなく、いすにぼんやりとして腰掛けていたので、同船に気付かなかった。
B受審人は、15時18分正船首のかず丸に距離1,000メートルまで近づき、同船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然、前路の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船を避けることなく続航中、同時20分わずか前、操舵室前面の窓から正船首に海鳳丸の操舵室を認め、機関を後進にかけたものの及ばず、かず丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、海鳳丸は、右舷中央部ブルワーク及び操舵室を大破し、のち売却処分され、かず丸は、船首船底に破口並びに船首部及び錨台に破損を生じたが、のち修理され、A受審人が約1箇月の通院加療を要する左第7肋骨骨折を負った。

(原因)
本件衝突は、長崎県壱岐島東方沖合において、かず丸が、帰港のために南下中、見張り不十分で、前路で錨泊中の海鳳丸を避けなかったことによって発生したが、海鳳丸が、錨泊中であることを示す形象物を表示しなかったばかりか、動静監視不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、単独で操船に当たり、長崎県壱岐島東方沖合を帰港のために南下中、体調が悪くて十分に見張りができない状態となった場合、前路で錨泊する他船を見落とすことのないよう、甲板員を船橋に呼んで補助の見張りに立てるなどして前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漁場の往復時に付近海域で船舶を見掛けなかったことから前路に錨泊する他船はいないものと思い、甲板員を船橋に呼んで補助の見張りに立てるなどして十分な見張りを行わなかった職務上の過失により、前路で錨泊中の海鳳丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、海鳳丸の右舷中央部ブルワーク及び操舵室を大破させ、かず丸の船首船底に破口並びに船首部及び錨台に損傷を生じさせ、A受審人に約1箇月の通院加療を要する左第7肋骨骨折を負わせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
A受審人は、長崎県壱岐島東方沖合において、錨泊して魚釣り中、右舷前方から接近するかず丸を視認した場合、同船と衝突のおそれが生じることになるかどうかを判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、釣り竿にかかった魚を釣り上げることに気を取られ、かず丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する同船に気付かず、注意喚起信号を行うことなく釣りを続けて衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、自ら負傷するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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