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1999年(平成11年)

平成9年門審第108号
    件名
漁船金比羅丸プレジャーボート愛好丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年1月20日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

清水正男、畑中美秀、西山烝一
    理事官
平良玄栄

    受審人
A 職名:金比羅丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:愛好丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
金比羅丸…船首船底に擦過傷
愛好丸…船尾及び操舵室に破損

    原因
金比羅丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
愛好丸…見張り不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、金比羅丸が、見張り不十分で、漂泊中の愛好丸を避けなかったことによって発生したが愛好丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年5月23日16時30分
長崎県壱岐島北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船金比羅丸 プレジャーボート愛好丸
総トン数 48トン
全長 13.10メートル
登録長 10.83メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 209キロワット 198キロワット
3 事実の経過
金比羅丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成9年5月23日07時00分長崎県壱岐島勝本港を発し、同島北西方沖合の七里ケ曽根の漁場に向かった。
A受審人は、前示漁場に至って操業を開始したが、漁獲がなかったので漁場を移動するため、15時55分若宮灯台から297度(真方位、以下同じ。)10.6海里の地点を発進し、壱岐島北方に向けて東行中、僚船との無線電話で小呂島の北西方沖合の漁場で漁模様がよい旨の情報を得たので同漁場に向かうこととし、16時26分若宮灯台から302度1.5海里の地点に達したとき、針路を071度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流に乗じて17.5ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
ところで、金比羅丸は、操舵室の右舷側に設置された操舵席のいすに腰を掛けて操船を行うと、船首の形状から船首方が見えにくいことから、平素、A受審人は操舵席の前に立つなどして前方の見張りを行っていた。
定針したころA受審人は、いすに腰を掛けて操舵に当たり、正船首1海里のところに漂泊している愛好丸を視認できる状況であったが作動していたレーダーを一瞥(べつ)しただけで船影が見当たらなかったことから、前路に他船はいないものと思い、操舵席の前に立つなどして前方の見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かなかった。
A受審人は、16時28分若宮灯台から324度1.2海里の地点に達したとき、正船首の愛好丸に距離1,000メートルまで近づき、同船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然、前方の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船を避けることなく続航中、同時30分わずか前操舵室の左舷側の窓から海面上にシーアンカーの浮きを発見し、不審に思って立ち上がったとき、16時30分若宮灯台から351度1.2海里の地点において、金比羅丸は、原針路、原速力のまま、その船首が愛好丸の船尾に左舷後方から10度の角度で衝突し、同船尾に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、付近には1.5ノットの東北東流があった。
また、愛好丸は、FRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、同人の親族3人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日05時00分佐賀県唐津港を発し、壱岐島北方の釣り場に向かった。
B受審人は、07時ごろ辰ノ島の北方1海里の地点に至って機関を停止し、漂泊してたいの手釣りを始め、潮流によって若宮島の北方まで流されたところで機関を使用し、潮上りをして元の地点に戻り、これを繰り返しながら釣りを行った。
16時20分B受審人は、機関を停止して目印の浮きを付けた長さ2メートルのシーアンカーに長さ45メートルの索を取り付けて船尾から海中に投じ、船首を061度に向けて漂泊し、折からの潮流によって東北東方に流されながら後部甲板で手釣りをしていたとき、波をかぶるようになったので同乗者が釣りをしていた前部甲板に移動し、キャビン前面の右舷側甲板上に置いたクーラーの上に腰を掛けて手釣りを再開した。
ところで、愛好丸は、船体中央部にキャビンとこれに続く操舵室を設け、更にその右舷側後方に操舵室に続くトイレを設備しており、前部甲板に座って釣りをすると、船尾方が見えにくいことから、平素、B受審人は、立ち上がったり左右の舷側から身を乗り出して後方の見張りを行ってた。
B受審人は、16時26分若宮灯台から347度1.2海里の地点に達したとき、左舷船尾10度1海里のところに自船に向けて接近する金比羅丸を視認できる状況であったが、前部甲板に移動した際に周囲を見たところ船舶が見当たらなかったことから周囲に他船はいないものと思い、立ち上がったり舷側から身を乗り出したりして後方の見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かなかった。
16時28分B受審人は、金比羅丸が距離1,000メートルまで近づき、避航の動作をとらないまま衝突のおそれがある態勢で自船に向首して接近したが、依然、後方の見張りを十分に行うことなく、このことに気付かず、警告信号を行うことも、機関を使用するなどして同船との衝突を避けるための措置をとることもなく釣りを続け、同時30分わずか前たまたま後方を見た同乗者の1人が至近に迫った金比羅丸に気付いて叫んだが、どうすることもできず、愛好丸は、船首を061度に向けたまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、金比羅丸は、船首船底に擦過傷を生じ、機関を後進にかけて愛好丸の船尾から降り、愛好丸は、船尾及び操舵室に破損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、長崎県壱岐島北方沖合において、漁場に向けて東行中の金比羅丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の愛好丸を避けなかったことによって発生したが、愛好丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、長崎県壱岐島北方沖合において、漁場に向けて東行する場合、前路で漂泊する他船を見落とすことのないよう、操舵席の前に立つなどして前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路に他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の愛好丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、金比羅丸の船首船底に擦過傷を生じさせ、愛好丸の船尾及び操舵室を破損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、壱岐島北方沖合において、漂泊して船尾方が見えにくい位置に座って釣りを行う場合、後方から接近する他船を見落とすことのないよう、立ち上がったり舷側から身を乗り出したりして後方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、周囲に他船はいないものと思い、後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、後方から接近する金比羅丸に気付かず、警告信号を行うことも、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとることもなく釣りを続けながら漂泊して衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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