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1999年(平成11年)

平成10年仙審37号
    件名
漁船第八久栄丸防波堤衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年3月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

高橋昭雄、今泉豊光、供田仁男
    理事官
上中拓治、黒田均

    受審人
A 職名:第八久栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船首外板に亀裂を伴う損傷

    原因
安全運航に対する配慮不十分

    主文
本件防波堤衝突は、安全運航に対する配慮が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年2月27日14時55分
新潟県両津港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八久栄丸
総トン数 19.87トン
登録長 17.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 130
3 事実の経過
第八久栄丸は、えびかご漁業に従事するに操舵室のあるFRP製漁船で、A受審人ほか5人が乗り組み、操業の目的で、平成9年2月27日00両津港を発し、02時佐渡島弾埼東南東方沖の漁場に至って操業を行い、えび約150キログラムを獲て操業を終え、船首尾1.0メートルの等喫水をもって、12時54分弾埼灯台から109度(真方位、以下同じ。)14.6海里の地点で、GPSプロッタ装置に記録された往路の航跡を逆にたどるよう針路を両津港港口に向かう240度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの速力で帰途に就いた。
A受審人は、漁労長を兼務しながら操業中を含めて発航から帰航までの全航程の船橋当直を単独で行うようにしていた。ところが、出航前4時間ばかりの睡眠をとっただけで、さらに操業を終了したときには発航から13時間以上にも及ぶ長時間の当直に就いていたことから、疲労と休息不足の状態にあったが、転針や機関操作を頻繁に行うことになる入航時の操船に備えて、帰航開始時の広い水域を航行中に他の者に当直を一時行わせて休息をとるなりあるいは船橋当直補助員を配するなど安全運航に対する配慮を十分に行うことなく、既に船舶所有者に連絡した入港時刻までに漁獲物の選別を済ませようと思い、乗組員全員を船尾甲板での漁獲物の選別竹業にあたらせ、自らは単独で当直を続けた。
ところで、A受審人は、船内電源装置として主機駆動による交流発電機及び24ボルト直流発電機が併用され、船舶所有者から入港時など減速状態で航行する際に主機の運転に差し支えがあるので交流発電機を停止するよう強く指示されていた。そこで、入港に備えて港口の防波堤から約1海里手前に達したところで、減速したうえ同発電機を停止する措置をとり、さらに操舵を自動から遠隔に切り替える手順とし、余裕をもって入航操船を行うようにしていた。
ところが、14時48分A受審人は、両津漁港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から068度1.1海里の地点に達したものの、疲れた状態でいすに腰掛けた姿勢のまま当直を続けていたので、平素行っていた減速そして交流発電機の停止及び操舵装置の切替え等一連の入航操船の手順をとることを失念し、その時機を逸したまま進行した。
14時54分少し前A受審人は、港口東方沖に築造された通称沖防波堤の南端を右舷正横100メートルに航過したところで、ようやく入航操船の一連の操作をまだ行っていないことに、しかも既にその時機を逸していることに気付き、慌てて同操作をとろうとして機関を8.0ノットの半速力前進に減速し、続いて操舵を自動から遠隔操舵に切り替え、南防波堤灯台と両津漁港北防波堤灯台との間に向けるつもりで右舵をとった。その後回頭惰力がついたところを見計らって当て舵をとったところ、減速に伴う交流発電機の停止操作を行っていないことに気付き、そのまま操舵室左舷側後部にある配電盤に向かった。そして、配電盤のダイヤル及びブレーカーを操作して交流発電機を停止している間に、当て舵が効いて船首が両津港北防波堤に向首するようになったまま続航中、14時55分少し前操舵室前部中央部に戻ったとき、船首至近に同防波堤の壁面が迫っているのを認めて急いで機関を全速力後進としたものの及ばず、14時55分南防波堤灯台から164度300メートルの地点において、第八久栄丸は、ほぼ230度に向首して原速力のまま、船首部が防波堤の北東側壁面に直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力3の南南西の風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
防波堤衝突の結果、船首外板に亀裂を伴う損傷を生じたが、のち修理された。

(原因)
本件防波堤衝突は、佐渡島東方沖合の漁場から漁を終えて両津港に帰航する際、安全運航に対する配慮が不十分で、疲労した体調のまま単独で船橋当直が続けられて入航操船が適切に行われず、両津港防波堤に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、佐渡島東方沖合の漁場から両津港に帰航する場合、出航から操業終了までの長時間に及ぶ連続した単独船橋当直を続け疲れた状態であったから、港口付近での入航操船を行うにあたって不測の事態を招くことのないよう、帰航開始後一時でも休息をとるかあるいは船橋当直補助員を配するなどの安全運航に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、事前に連絡した入航時刻までに漁獲物の選別作業を済ませようと思い、乗組員全員に同作業を行わせ、帰航開始後一時でも休息をとるかあるいは船橋当直補助員を配するなどの安全運航に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、長時間に及ぶ連続当直により疲労したまま単独で当直を続け、入航操船を適切に行う時機を逸し、両津港北防波堤に向かって進行して防波堤衝突を招き、船首外板に亀裂を伴う損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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