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1999年(平成11年)

平成11年仙審第12号
    件名
貨物船第十八益栄丸漁船第八宝来丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年7月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

高橋昭雄、上野延之、内山欽郎
    理事官
黒田均

    受審人
A 職名:第十八益栄丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:第十八益栄丸一等航海士 海技免状:三級海技士(航海)(旧就業範囲)
C 職名:第八宝来丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
益栄丸…右舷船首外板に小凹損
宝来丸…左舷船首尾外板に亀裂等の損傷

    原因
益栄丸…見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
宝来丸…見張り不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第十八益栄丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る第八宝来丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第八宝来丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年9月30日15時17分
宮城県金華山南東方沖
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第十八益栄丸 漁船第八宝来丸
総トン数 498.36トン 19.16トン
全長 69.70メートル 21.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 956キロワット 481キロワット
3 事実の経過
第十八益栄丸(以下「益栄丸」という。)は、船尾船橋型鋼製貨物船で、A及びB両受審人ほか3人が乗り組み、鋼材1,520トンを載せ、船首3.75メートル船尾4.70メートルの喫水で、平成9年9月29日14時40分北海道室蘭港を発し、大阪港に向かった。
A受審人は、船橋当直をB受審人との単独6時間2直制を採り、翌30日12時00分陸前御崎岬灯台から113度(真方位、以下同じ。)8.2海里の地点で、針路を198度に定め、同人と当直を交替した。その際、B受審人には長年の相乗船を通して船橋当直に関する指導を行ってきており、付近には他船も見当たらず、有資格者でもある同人に対して特に当直に関する指示を与える状況でもなかったので、針路及び速力等の運航模様だけを引き継ぎ自室に退いた。
当直に就いたB受審人は、その後海流に乗じて11.3ノットの対地速力(以下速力は対地速力である。)で自動操舵により進行し、他船とほとんど出会うこともなく金華山沖に差しかかり、15時01分半金華山灯台から117度2.5海里の地点で、針路を210度に転じた。
ところで、金華山沖は特に南下する船舶と石巻湾から三陸沖合の漁場に向かう漁船とが出交わす海域で、しかも折から西日の海面反射力験く南下船にとって右舷前方が眩い状況であったところ、15時08分半B受審人は、右舷船首47度2海里のところに金華山の島陰から現われた第八宝来丸(以下「宝来丸」という。)を視認することができ、その後同船が自船の前路を左方に横切りその方位が明確に変わらず、衝突するおそれのある態勢で互いに接近する状況であった。しかし、それまで付近に他船が見当たらなかったので、船橋前面コンソール盤の右端に置かれたいすに腰掛けたままの姿勢で当直に当たり、適宜見張りの位置を変えるなりレーダーを利用するなりして石巻湾等の右舷方に対する見張りを十分に行わなかったので、宝来丸に気付かず、その進路を避けないまま続航中、同時17分少し前右舷前方至近に迫った同船に初めて気付き、急いで機関を停止続いて操舵を自動から手動に切り換えて左舵一杯としたが及ばず、15時17分金華山灯台から168度3.9海里の地点において、益栄丸は、その船首が186度を向いたとき、原速力のまま、その右舷船首部が、宝来丸の左舷船首部に後方から60度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の北西風が吹き、視界は良好であった。
また、宝来丸は、宮城県鮎川港を基地にしたいか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人及びD指定海難関係人の親子ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首1.0メートル船尾2.2メートルの喫水で、同月30日14時30分同港を発し、金華山南東方30海里の沖合漁場に向かった。
出航後、C受審人は、船橋当直をいつものとおり牡鹿半島南端沖の操業水域に達するまで単独で行い、14時50分陸前黒埼灯台から186度0.6海里の操業水域に達したところで、針路を目的漁場に向かう126度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて10.9ノットの速力で父親と当直を交替した。その際、自船の針路が金華山沖を南北方向に航行する船舶の針路と交差することになり、また、船橋前部両舷甲板上には多数の集魚灯が装備されて前方の見張りが一部妨げられた状況であったが、父親が漁労長として操業海域に入ると常時単独で船橋当直を兼ねて魚群探索に当たっており、付近に他船も見当たらなかったので、これまでどおり当直を行ってくれると思い、見張りに関して特に指示を行わないまま操業の準備作業に当たった。
こうして、15時08分半D指定海難関係人は、左舷船首49度2海里に益栄丸を視認することができ、その後同船が自船の前路を右方に横切りその方位が明確に変わらず、衝突するおそれのある態勢で互いに接近する状況であったが、当直交替の際にレーダーで金華山沖に航行船がいないことを確かめていたことから、前方には他船がいないものと思って探索に当たっているうちにこれに気を取られ、見張りを十分に行わなかったので、その後金華山の島陰から現われて南下する益栄丸に気付かず、操業準備のため船橋床上に座って釣り糸を製作中の息子に同船の接近を知らせることができなかった。
C受審人は、父親から益栄丸の接近状況の報告を受けられず、同船に対して避航を促すための汽笛による警告信号を行うことも、さらに間近に接近した際に転舵または行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作を取ることもできないまま作業を続けた。
15時17分少し前D指定海難関係人は、たまたま左眩側集魚灯設備の間隙から左舷船首至近に迫った益栄丸に初めて気付き、急いで機関を後進に切り換えたが及ばず、宝来丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、益栄丸は右舷船首外板に小凹損を生じ、宝来丸は左舷船首尾外板に亀裂等の損傷を生じたがのち修理された。

(原因)
本件衝突は、金華山南東方沖において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、南下中の益栄丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る宝来丸の進路を避けなかったことによって発生したが、東行中の宝来丸が、見張り不十分で、益栄丸に対して警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
宝来丸の運航が適切でなかったのは、船長の船橋当直者に対する見張りに関する指示が十分に行われなかったことと、船橋当直者の見張りが十分に行われなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
B受審人は、単独で船橋当直に当たって三陸沿岸沿いに南下する場合、金華山南東方沖が石巻湾から沖合漁場に向かう漁船と出交わす海域で、しかも折から西日の海面反射が強く右舷前方が眩しい状況であったから、金華山の島陰から現われて前路を左方に横切る態勢で接近する宝来丸を見落とすことのないよう、見張りの位置を変えるなりレーダーを利用するなりして同方向に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、金華山沖に至るまで付近に他船を見かけなかったので、いすに腰掛けたままの姿勢で当直に当たり、見張りの位置を変えるなりレーダーを利用するなりして石巻湾等の右舷方に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、金華山の島陰から現われた宝来丸に気付かず、その進路を避けないまま進行して、同船との衝突を招き、益栄丸の右舷船首外板に小凹損を生じさせ、また宝来丸の左舷船首尾外板に亀裂等の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、金華山南東方沖合漁場に向かう際、無資格者に船橋当直を行わせる場合、金華山沖が三陸沿岸沿いを航行する船舶と出会いの多いところで、更に船橋前部両舷甲板上には多数の集魚灯が装備されて前方の見張りが一部妨げられた状況であったから、特に左舷前方の金華山の島陰から現われて南下する益栄丸を見落とすことのないよう、レーダーを使って見張るなどの見張りに関する指示を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、父親が無資格者でも漁労長として操業海域に入ると常時単独で船橋当直を兼ねて魚群探索を行っていたので、いつものように当直を行ってくれるものと思い、見張りに関する指示を十分に行わなかった職務上の過失により、船橋当直者から接近する益栄丸の報告を受けられず、同船に対して避航を促すよう警告信号を行うことも、さらに間近に接近した際に転舵または行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作を取ることもできないまま進行して、同船との衝突を招き、両船に前示のとおりの損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
D指定海難関係人が、前方に対する見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
D指定海難関係人に対しては、見張りの重要性について十分に反省し、事後C受審人との2人による船橋当直に努めている点に徴し、勧告しない。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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