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1999年(平成11年)

平成10年門審第26号
    件名
瀬渡船信福丸護岸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年8月13日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

西山烝一、宮田義憲、清水正男
    理事官
今泉豊光

    受審人
A 職名:信福丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船首部を圧壊、釣り客1人が約8週間の入院加療を要する右大腿骨顆部骨折等、同1人が約4週間の入院加療を要する右鎖骨骨折等、同1人が全治約30日間の両膝表皮剥離創、船長が全治約5週間の頭部打撲及び左第5肋骨骨折等

    原因
見張り不十分

    主文
本件護岸衝突は、見張りが不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年10月24日05時30分
福岡県響灘西地区
2 船舶の要目
船種船名 瀬渡船信福丸
総トン数 4.80トン
登録長 11.14メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 169キロワット
3 事実の経過
信福丸は、専ら瀬渡しに従事するFRP製小型遊漁廉用船で、A受審人が1人で乗り組み、釣り客3人を乗せ、瀬渡しの目的で、船首0.6メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成9年10月24日05時15分福岡県北九州市若松区浜町1丁目の船溜まりを発し、響灘水路西口の北西方約1.5海里沖合にある西第1防波堤に向かった。
ところで、同市若松区の響灘西地区では埠頭等を建設するため、埋立地の造成工事が行われており、響灘水路西口の荒曽根の北方には、港湾関連用地としての埋立地(以下「港湾用埋立地」という。)が、同地の西方約800メートルには廃棄物処理・活用用地としての同工事用の外周護岸(以下「外周護岸」という。)がそれぞれ築造されており、外周護岸北東端(以下「護岸北東端」という。)から北西方沖合約900メートルのところに西第1防波堤の一部が完成していた。また、同工事区域を示す黄色灯浮標が、護岸北東端の東方175メートルに1基(以下「東方灯浮標」という。)、外周護岸南東端の南東方220メートルに1基、港湾用埋立地南西端の南方200メートルに1基(以下「南方灯浮標」という。)、及び同端南東方280メートルに1基がそれぞれ設置されていた。
A受審人は、発航して直ちに、機関を回転数毎分2,350にかけて17.1ノットの対地速力とし、若松航路を経て響灘水路内を西行して05時27分ごろ同水路の西口に至ったとき、南方灯浮標の灯火を船首方やや右に見て北上し、同時28分少し前同灯浮標を右舷正横約20メートルに見る、小田山三角点から324度(真方位、以下同じ。)3,230メートルの地点において、護岸北東端を左舷方25メートルばかりに並航してから西第1防波堤に向けて転針するつもりで、針路をGPSプロッター上に表示された同防波堤方に向く320度に定め、同速力のまま手動操舵により進行した。
05時29分A受審人は、船首右舷前方460メートルのところに東方灯浮標の灯火を視認したものの、そのころ日出前でまだ暗かったことと霧とで外周護岸を視認できず、また、レーダーの調節不良により同護岸の映像が不鮮明で、護岸北東端を明らかに探知できないまま、同端まで550メートルに近づく状況となったが、GPSプロッターや調整不良で画像の不鮮明なレーダーを注視することに気を取られ、レーダーを調節して見張りを十分に行うことなく、ときどき同灯浮標の灯火を見て続航した。
こうして、A受審人は、05時30分わずか前東方灯浮標の灯光の方位から見当をつけ、護岸北東端を航過したと思って西第1防波堤に向け左転することにしたが、同北東端を確かめようとして、舵輪の下方に設置されているレーダーの画面を見ながら左手で舵輪を操作していたこともあって、過度の左舵を取り、外周護岸に向首するようになった直後、レーダーから顔を上げ、正船首至近に同護岸を視認し、全速力後進をかけたが及ばず、信福丸は、05時30分小田山三角点から322度2.4海里の地点にあたる、護岸北東端から約40メートル南方の外周護岸に、船首が270度を向いて10ノットの速力で衝突した。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期で、日出は06時28分であった。
衝突の結果、信福丸は、船首部を圧壊したが、のち修理され、釣り客Bは約8週間の入院加療を要する右大腿骨顆部骨折等を、同Cは約4週間の入院加療を要する右鎖骨骨折等を、同Dは全治約30日間の両膝表皮剥離創を、A受審人は全治約5週間の頭部打撲及び左第5肋骨骨折等をそれぞれ負った。

(原因)
本件護岸衝突は、夜間、福岡県響灘西地区において、西第1防波堤に向け航行中、見張りが不十分で、外周護岸に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、福岡県響灘西地区において、西第1防波堤に向け航行中、外周護岸を視認できずに護岸北東端に近づく状況となった場合、同護岸に衝突することのないよう、レーダーを調節して見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、GPSプロッターや調整不良で画像の不鮮明なレーダーを注視することに気を取られ、レーダーを調整して見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、護岸北東端を確かめないまま左舵をとり、外周護岸に向かって進行して同護岸との衝突を招き、船首部を圧壊し、釣り客3人に右大腿骨顆部骨折、右鎖骨骨折及び両膝表皮剥離創等を負わせ、自らも頭部打撲等を負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。






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