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1999年(平成11年)

平成10年門審第33号
    件名
貨物船千津川丸貨物船第二十八勢栄丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年3月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

清水正男、伊藤實、吉川進
    理事官
喜多保

    受審人
A 職名:千津川丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:第二十八勢栄丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
千津川丸…左舷船首ブルワークに破口
勢栄丸…右舷船尾張り出し部に凹損

    原因
勢栄丸…横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
千津川丸…警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第二十八勢栄丸が、前路を左方に横切る千津川丸の進路を避けなかったことによって発生したが、千津川丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作が遅れたことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年12月5日00時20分
大分県津久見港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船千津川丸 貨物船第二十八勢栄丸
総トン数 3,499トン 699トン
全長 105.52メートル 82.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,581キロワット 1,471キロワット
3 事実の経過
千津川丸は、可変ピッチプロペラを装備した船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか10人が乗り組み、石灰石5,620トンを載せ、船首5.43メートル船尾6.86メートルの喫水をもって、平成9年12月5日00時00分大分県津久見港の株式会社戸高鉱業社第1桟橋を発し、岡山県水島港に向かった。
A受審人は、法定灯火を点灯し、二等航海士を見張りと機関操作に就けて操船に当たり、後進しながら離岸したのち、出航作業を終えて昇橋した甲板手を操舵に就けて操船の指揮を執り、左転して小野田セメント株式会社津久見工場北岸に沿って徐々に増速しながら進行した。
00時10分A受審人は、津久見港千怒A防波堤灯台(以下「千怒灯台」という。)から267度(真方位、以下同じ。)1.2海里の地点に至り、100度の針路で進行していたとき、左舷船首30度1.5海里のところに入航する第二十八勢栄丸(以下「勢栄丸」という。)の白、白、緑3灯を初認し、同船に対する動静監視を続け、同時16分同灯台から261度1,540メートルの地点で、針路を同灯台に向けるためゆっくり左転;を開始し、同時16分半千怒灯台から260度1,430メートルの地点に達したとき、針路を080度に定め、機関を回転数毎分180にかけて推進器を半速力前進の翼角11度とし、7.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
定針したころA受審人は、左舷船首6度1,200メートルのところに、千怒灯台を航過した勢栄丸の白、白、緑3灯を認め、同船が自船の右方に横切る態勢で接近することを知り、閃光1回の発光信号と短音1回の汽笛信号を行い、00時17分勢栄丸がその方位に変化のないまま衝突のおそれがある態勢で1,000メートルまで接近したのを認めたが、右舷前方500メートルのところに錨泊船がいることもあり、勢栄丸が右転して避航するものと思い、警告信号を行わず、間近に接近しても推進器の翼角を0度として減速するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく続航した。
00時18分半A受審人は、勢栄丸が避航しないまま至近に迫ったのを認め、衝突の危険を感じて右舵一杯の35度を令し、推進器の翼角を0度、続いて全速力後進15度を令したが及ばず、00時20分千怒灯台から251度690メートルの地点において、千津川丸は、船首が140度に向いたとき、ほぼ原速力のまま、その左舷船首が勢栄丸の右舷船尾に後方から10度の角度で衝突した。当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期で、視界は良好であった。
また、勢栄丸は、船尾船橋型の貨物船兼砂利運搬船で、B受審人ほか6人が乗り組み、空倉で、船首1.90メートル船尾3.20メートルの喫水をもって、同月4日19時25分山口県徳山下松港を発し、津久見港の貝島化学工業株式会社の專用桟橋に向かった。
B受審人は、翌5日00時05分津久見黒石灯浮標の南東方0.1海里の地点で昇橋し、法定灯火を点灯していることを確かめて操船に当たり、同時10分津久見港の入港に備えて乗組員を入港配置に就け、機関を徐々に減速し、同時15分千怒灯台から343度200メートルの地点で、針路を箆(の)島の南方に向く240度に定め、機関を微速力前進にかけ、5.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
00時15分半B受審人は、千怒灯台から323度200メートルの地点に達したとき、右舷船首15度1,530メートルのところに出航する千津川丸の白・白・紅3灯を初認し、同船に対する動静監視を続け、同時16分半同灯台から287度270メートルの地点に至ったとき、千津川丸を右舷船首14度1,200メートルのところに認め、そのころ同船からの発光信号を視認して同船が自船の前路を左方に横切る態勢で接近することを知った。
B受審人は、00時17分千津川丸がその方位に変化のないまま衝突のおそれがある態勢で1,000メートルまで接近したのを認めたが、同船が港内の広い水域に向け左転して避けてくれるものと思い、右転するなどして同船の進路を避けることなく、依然同じ針路で続航し、同時18分半至近に迫った千津川丸を見て衝突の危険を感じ、左舵一杯の50度をとり、船橋への衝突を避ける目的で機関を半速力前進にかけて左回頭中、船首が150度に向いたとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、千津川丸は、左舷船首ブルワークに破口を生じ、勢栄丸は右舷船尾張り出し部に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、大分県津久見港において、勢栄丸が、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する千津川丸の進路を避けなかったことによって発生したが千津川丸が警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作が遅れたことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、夜間、大分県津久見港において入航中、右舷前方に千津川丸の白、白、紅3灯を視認し、同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めた場合、右転するなどしてその進路を避けるべき注意義務があった。しかるに、同人は、千津川丸の広い水域に向けて左転して避けてくれるものと思い、同船の進路を避けなかった職務上の過失により、そのまま進行して同船との衝突を招き、千津川丸の左舷船首ブルワークに破口を生じさせ、勢栄丸の右舷船尾張り出し部に凹損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判去第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間大分県津久見港において出航中、左舷前方に勢栄丸の白、白、緑3灯を視認し、同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近しているのを認めた場合、更に接近したときに警告信号を行い、間近に接近したときには減速するなど衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、勢栄丸が避航するものと思い、警告信号を行わず、間近に接近しても衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、同船と至近に迫って右転したものの、既に衝突を避けるための時機を失して衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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