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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年4月16日04時05分 広島県福山港 2 船舶の要目 船種船名 貨物船第三万栄丸
貨物船ゴールデンアロー 総トン数 199.90トン
3,946.00トン 登録長 39.34メートル
99.02メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 441キロワット
2,942キロワット 3 事実の経過 第三万栄丸(以下「万栄丸」という。)は、瀬戸内海諸港間の輸送に従事する液体化学薬品ばら積船で、A、B両受審人ほか甲板員1人が乗り組み、苛性ソーダ186トンを積載し、船首2.5メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、平成9年4月15日16時50分徳山下松港を発し、岡山県味野港に向かった。 A受審人は、船橋当直を自身とB受審人とによる約3時間毎の交替制で実施し、同人に対し日頃から、眠気を催したとき、漁船が多いときなどは知らせるよう指示しており、また、船橋当直を乗組員に任せるときは、船橋内の簡易ベッドで仮眠をとるなどして自分も在橋するようにしていたものの、B受審人が当直に就くときには、同人が、自分が休暇下船している際は代わりに船長職を務めていること、他船で長年の船長経験を有していること、同人との長年にわたる同乗経験からその技量を認めていたことなどから、在橋せずに自室で休息をとることにしていた。 こうしてA受審人は、22時ごろクダコ水道西方を航行中、前直のB受審人と交替して船橋当直に就き、翌16日01時30分鼻栗瀬戸に差し掛かるころ、機関室の点検を終えて昇橋してきたB受審人に当直を引き継ぎ、自室に退いて休息した。 B受審人は1人で船橋当直に就き、手動操舵により、鼻栗瀬戸、伯方瀬戸、続いて弓削瀬戸を航過して備後灘に入り、03時00分百貫島灯台から331度(真方位、以下同じ。)1.1海里の地点に達したとき、針路を福山港南部港域を通過し白石瀬戸西方に向く063度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.5ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。 定針したころ、B受審人は、狭い瀬戸を航過し終え、白石瀬戸西方までの約12海里間が同一針路となり気が緩んだことに加えて、前日、早朝から出帆時まで荷役業務などで多忙であったうえその後の当直を終えたのちの寝付きが悪く、寝不足気味であったことから眠気を感じ始め、顔を洗っていったん眠気を覚まし、船橋右舷前部の椅子に腰掛け当直を続行した。 03時30分B受審人は、阿伏兎(あぶと)灯台沖に差し掛かったころ再び眠気を催し、そのまま1人で当直を行っていると居眠りに陥り、居眠り運航となるおそれがあったが、今まで居眠りしたことはないので眠ってしまうことはないと思い、休息している甲板員を起こし、2人による当直体制をとるなど居眠り運航の防止措置をとらずに進行した。 こうしてB受審人は、03時45分ごろ福山港港界まで約1海里になった付近で居眠りに陥り、同港内で所定の灯火を掲げて錨泊中のゴールデンアロー(以下、「ア号」という。)に向首して進行し、04時02分同船まで0.5海里に接近したものの、依然居眠りに陥っていてこのことに気付かず、万栄丸は、居眠り運航のまま同船を避けずに続航中、04時05分鴻石(こうのいし)灯標から033度2.1海里の地点において、原針路、原速力のままその船首がア号の左舷中央部に後方から83度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。 A受審人は、自室で就寝中、衝撃で衝突したことを知り、昇橋して事後の措置に当たった。 また、ア号は、鋼材輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、船長Cほか17人が乗り組み、空倉のまま、船首1.8メートル船尾4.5メートルの喫水をもって、同月12日福島県小名浜港を発し、翌々14日07時15分福山港に至り、荷役待ちのため、港長の指示を受けて前示衝突地点付近で右舷錨を投錨し、錨鎖3節を延出して錨泊を開始した。 ア号は、甲板手3人による4時間交替制の停泊当直を実施し、翌15日日没時、前部及び後部に白色全周灯1個をそれぞれ掲げ、作業灯などにより甲板、ファンネルを照明し、船橋周囲に多数の通路灯を点灯して錨泊を続け、翌16日04時ごろ当直甲板手が、当直交替の連絡のため降橋して次直者の部屋に出向き、まもなく昇橋して次直者と引き継ぎを始めようとしたとき、340度に向首して錨泊中、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、万栄丸は、船首部外板、ブルワークなどに曲損を生じ、ア号は、左舷中央部外板に亀裂を伴う凹損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、福山港において、万栄丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で錨泊中のア号を避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為) B受審人は、夜間、備後灘沿岸を1人で船橋当直に就き東行中、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、乗組員を起こして2人による当直体制をとるなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、それまで居眠りしたことはなかったので居眠りに陥ることはないと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、前路で錨泊中のア号を避けずに進行して衝突を招き、ア号の左舷中央部外板に亀裂を伴う凹損を、万栄丸の船首部、ブルワークなどに曲損を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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