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1999年(平成11年)

平成10年長審第81号
    件名
漁船ひろよし丸漁船ゆり丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年6月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

原清澄、安部雅生、保田稔
    理事官
山田豊三郎

    受審人
A 職名:ひろよし丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:ゆり丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
ひろよし丸…船首部に擦過傷
ゆり丸…右舷側中央部外板を大破、のち廃船、船長の娘が頭蓋骨骨折などを負って死亡

    原因
ひろよし丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
ゆり丸…見張り不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、ひろよし丸が、見張り不十分で、漂泊中のゆり丸を避けなかったことによって発生したが、ゆり丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年11月23日17時57分
鹿児島県阿久根市倉津埼西岸沖
2 船舶の要目
船種船名 漁船ひろよし丸 漁船ゆり丸
総トン数 4.59トン 0.4トン
全長 11.58メートル 6.96メートル
登録長 9.20メートル 6.24メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 139キロワット
漁船法馬力数 9
3 事実の経過
ひろよし丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、あじ、さばなどを獲る目的で、船首0.35メートル船尾1.35メートルの喫水をもって、平成9年11月23日05時57分鹿児島県阿久根漁港倉津地区を発し、06時30分ごろ阿久根港倉津埼灯台(以下「倉津埼灯台」という。)の南方4.3海里ばかりの漁場に至って操業を始め、漁獲物約20キログラムを獲て操業を終え、航行中の動力船が表示する法定灯火を点灯し、17時30分ごろ同漁場を発進して帰途に就いた。
発進後、A受審人は、操舵室内の船横方向に渡した床面からの高さ約80センチメートル、幅約25センチメートルの板に腰を掛け、機関を全速力前進にかけて10.5ノットの対地速力とし、手動操舵で陸岸を右舷側に見ながら、これに沿って北上中、行き合った棒受網船団からの航走波の影響を受けて船体の動揺が大きくなったので、半速力前進の8.0ノットに減じ、17時53分倉津埼灯台から233度(真方位、以下同じ。)730メートルばかりの地点に達したとき、針路を000度に定めて進行した。
ところで、A受審人は、自船にレーダーを装備していなかったうえ、操舵室のプラスチック製の窓が経年変化で変色するなどして前路の見通しを妨げるし、また、板に腰を掛けて前路の見張りを行うと船首部に死角を生じるから、平素、阿久根港内に入り、倉津埼灯台から286度340メート川ばかりに存在する平瀬に並ぶころ、立ち上がって操舵室の天窓から顔を出し、周囲の見張りを行っていた。
17時55分ごろA受審人は、いまだ薄明時で他船の船体も視認し得る状況下、浮遊物等を確認するため操舵室前面の両舷側に40ワットの作業灯各1個を点灯して海面を照らし、同時55分半倉津埼灯台から284度610メートルの地点に達したとき、倉津地区に向かうため針路を転じることにしたが、船首部の死角を補うため、身体を横に移動して一文字防波堤などの遠方の操舵目標をいちべつしただけで、転針方向に他船はいないものと思い、天窓から顔を出して前方の状況を確かめるなどの見張りを十分に行うことなく、板に腰をかけたまま、転針方向360メートルまかりのところで漂泊中のゆり丸に気付かないで、針路を阿久根港西防波堤灯台を右舷船首6度ばかりに見る060度に転じて続航した。
17時56分A受審人は、倉津埼灯台から292.5度540メートルの地点に達したとき、ゆり丸を正船首250メートルのところに視認でき、その後、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、依然板に腰を掛けて同船に気付かないまま進行中、17時57分倉津埼灯台から319度430メートルの地点において、ひろよし丸の船首がゆり丸のほぼ右舷中央部に後方から70度の角度をもって衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、日没は17時16分で、視界は良好であった。
A受審人は、衝突の衝撃を感じたとき、瀬か岩に乗り揚げたものと思い、周囲の状況を確かめないまま、急いで機関を後進にかけ、ゆり丸から自船を離脱させたところ、ほどなく左舷前方の海上から「助けてくれ」という叫び声を聞き、初めて他船と衝突したことを知った。
また、ゆり丸は、一本釣り漁業に従事する木製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、同人の娘を同乗させ、いか釣りの目的で、船首0.30メートル船尾0.50メートルの喫水をもって、同日16時00分阿久根漁港倉津地区を発し、平瀬付近の釣り場に向かった。
16時30分ごろB受審人は、平瀬の南方360メートルばかりの釣り場に至り、操航舵室後部両舷側から釣り竿を一本ずつ出し、左手で舵柄を持ち、必要に応じてクラッチの嵌合を繰り返しながら極くわずかな前進速力で、左舷側の釣り竿を置き竿として操舵室後方右舷側に座り、娘を自分の後方に座らせて釣り竿をしゃくりながら釣りを始めたが釣果がほとんど得られなかったので、17時ごろマスト上部に10ワットの白色全周灯を、同下部に20ワットの両色灯を,点灯して釣り場を移動することにした。
17時20分ごろB受審人は、小型の漁船などが行き交う平瀬の北右250メートルばかりの釣り場に移動を終えて再び釣りを始め、前示衝突地点付近で水深が7ないし8メートルの瀬付近を右回りにゆっくり移動し、同時54分船首が北東方を向いていたとき、右舷側の竿にいかがかかったので、クラッチを切って機関を中立運転とし、これの取り込み作業にかかったところ、折からの北東風で船首が右舷方に落されて130度に向首したまま、左舷方を向いて同作業を続けた。
17時55分半B受審人は、右舷船尾70度360メートルばかりのところに、自船に向首したひろよし丸の白、紅、緑3灯を視認でき、その後、同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、いかの取り込み作業に気をとられ、周囲の見張りを十分に行うことなく、接近する同船に気付かないまま同作業を続行した。
17時56分B受審人は、250メートルばかりまで接近したひろよし丸を認め得る状況となったが、依然同船に気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、速やかにクラッチを操作するなどして衝突を避けるための措置をとることもできないまま、同時57分わずか前接近するひろよし丸の機関音に初めて気付いて右舷方に目を転じ、至近に迫った同船を認めたものの、どうする暇もなく、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、ひろよし丸は、船首部に擦過傷を生じただけであったが、ゆり丸は、右舷側中央部外板を大破し、倉津地区の造船所に引き付けられたものの、のち廃船とされた。また、B受審人は海上に浮かんでいたところ、A受審人に救助されたが、同受審人が機関を後進にかけたことから、B受審人の娘C(平成2年2月18日生)は推進器に接触して頭蓋骨骨折などを負って死亡した。

(原因)
本件衝突は、日没後の薄明時、鹿児島県阿久根港内において、ひろよし丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中のゆり丸を避けなかったことによって発生したが、ゆり丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、日没後の薄明時、鹿児島県阿久根港内を航行中、阿久根漁港倉津地区に向けて転針する場合、操舵室のプラスチック製の窓が経年変化で変色して前路の見通しを妨げ、同室の板に腰を掛けて前路の見張りを行うと船首部に死角を生じていたのであるから、転針方向で漂泊中の他船を見落とすことのないよう、操舵室の天窓から顔を出すなどして見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、遠方の操舵目標をいちべつしただけで、転針方向に他船はいないものと思い、操舵室の板に腰を掛けたままで見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中のゆり丸に気付かないまま進行して衝突を招き、自船の船首部に擦過傷を、ゆり丸の右舷側中央部外板に破口を伴う損傷を生じさせ、B受審人の娘を頭蓋骨骨折などによって死亡させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、日没後の薄明時、鹿児島県阿久根港内の小型の漁船などの航路筋付近において、いか釣りを行う場合、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、釣れたいかの取り込み作業に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船に向首接近するひろよし丸に気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、速やかにクラッチを操作するなどして衝突を避けるための措置をとることもできないま漂泊を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷と、同人の娘の死亡とを生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

参考図






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