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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年5月5日05時28分 犬吠埼東北東方沖合 2 船舶の要目 船種船名 プレジャーボートアーニスト
漁船大勝丸 総トン数 14.00トン 4.99トン 全長 13.07メートル 15.70メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
514キロワット 47キロワット 3 事実の経過 アーニストは、最大搭載人員15人のFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、友人2人を乗せ、遊漁の目的で、船首尾とも1.3メートルの等喫水をもって、平成9年5月5日04時30分日出間近で周囲が明るくなっていたことから、航行中の動力船の灯火を掲げず、茨城県波崎漁港の定係地を発し、犬吠埼北東方の釣り場に向かった。 A受審人は、友人を船室で休ませ、単独で操船に当たり、04時40分銚子港東防波堤川口灯台から305度(真方位、以下同じ。)400メートルの地点で、針路を065度に定め、機関を全速力前進にかけて19.1ノットの対地速力とし、操縦席に腰掛けてレーダーを作動させ手動操舵で進行した。 05時15分ごろA受審人は、霧のため急激に視程が100メートルに狭められる状態になったが発航後付近に他船を見かけなかったことから、航行中の動力船の灯火を掲げず、霧中信号を行うことも安全な速力とすることもなく、最大レンジの16海里としたレーダーを時折見ながら全速力で続航した。 A受審人は、05時22分少し過ぎ犬吠埼灯台から054度144海里の地点で、ほぼ正船首2.5海里にレーダーにより大勝丸の映像を探知でき、その後同船と著しく接近する態勢であるのを認めることができる状況であったが、レーダーを一瞥(べつ)して近距離圏内に船舶の映像を認めなかったので他船はいないものと思い、減速して安全な速力とすることも、レーダーを短距離レンジに切り替えるなど見張りを十分に行うこともせず、同船の存在に気付かないまま進行した。 05時25分半A受審人は、大勝丸が正船首1.1海里に接近し、同船と著しく接近することを避けることができない状況となっていたが、予定の釣り場に近づいたのでGPSプロッタ画面に気をとられ、短距離レンジに切り替えるなどしてレーダーを適切に用いた見張りを十分に行わなかったので、このことに依然気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めることもなく続航中、突然船首に衝撃を感じ、05時28分犬吠埼灯台から055度163海里の地点において、原針路、原速力のままのアーニストの船首が、大勝丸の船首に前方から2度の角度で衝突した。 当時、天候は霧で風力3の南風が吹き、視程は約100メートルで、日出は04時41分であった。 また、大勝丸は、昭和46年10月に進水した、汽笛不装備の一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、かつお曳(ひ)き縄漁の目的で、船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日02時45分航行中の動力船の灯火を掲げて千葉県銚子漁港を発し、犬吠埼北東方の漁場に向かい、途中04時ごろから、霧のため急激に視程が100メートルに狭められた状態で、霧中信号を行わず、同業他船と無線連絡をとりながら進行し、05時少し前から霧の様子を見るため漂泊した。 B受審人は、視界の回復が見られないので操業をあきらめ、周囲が明るくなったことから、航行中の動力船の灯火を消灯し、05時08分犬吠埼灯台から056度18.8海里の地点で、針路をGPSプロッタで確認した銚子漁港の一ノ島に向首する243度に定め、機関を半速力前進にかけて7.5ノットの対地速力として発進し、操舵室の床にひざをつき、同室内前方に設置されたレーダーを監視しながら自動操舵で進行した。 05時22分少し過ぎB受審人は、犬吠埼灯台から055度17海里の地点で、3海里レンジとしたレーダーで正船首僅(わず)か右方2.5海里にアーニストの映像を初めて認めたが、同映像を一瞥したのみで互いに右舷を対して替わるものと思い込み、レーダーによる動静監視を十分に行わずに続航した。 B受審人は、05時25分半アーニストがほぼ正船首1.1海里となり、同船と著しく接近することが避けられない状況となったが、依然右舷を対して替わるものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行うことなく、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めずに原針路、原速力で進行中、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、アーニストは、船首部が圧壊して破口を生じ、大勝丸は、船首張出し部を折損したがのちそれぞれ修理され、B受審人は1箇月の加療を要する右肋骨骨折を負った。
(原因) 本件衝突は、霧による視界制限状態の犬吠埼北東方沖合において、釣り場に向かって東行するアーニストが、霧中信号を行わず、安全な速力としなかったばかりか、レーダーによる見張り不十分で、帰港のため西行する大勝丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保っことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、大勝丸が、霧中信号を行わず、レーダーによる動静監視不十分で、アーニストと著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は霧による視界制限状態の犬吠埼北凍方沖合を釣り場に向かって東行する場合、安全な速力とし、かつ前方から接近する態勢の大勝丸を探知できるよう、短距離レンジに切り替えるなどしてレーダーを適切に用いた見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、長距離レンジのレーダー画面を一瞥したのみで近距離圏内に映像を認めなかったので他船はいないものと思い、予定の釣り場に近づいたのでGPSプロッタ画面に気をとられ、速やかに安全な速力とせず、短距離レンジに切り替えるなどしてレーダーを適切に用いた見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、安全な速力としないまま、大勝丸に気付かずに進行して同船との衝突を招き、アーニストの船首部を圧壊させ、大勝丸の船首張出し部を折損させ、B受審人に肋骨骨折を負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。 B受審人は、霧による視界制限状態の犬吠埼北東方沖合を帰港するため西行中、前方から反航する態勢で接近するアーニストをレーダーで探知した場合、著しく接近することを避けることができない状況となるかどうか判断できるよう、レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、同映像を一瞥したのみで互いに右舷を対して替わるものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、アーニストと著しく接近することに気付かないまま進行して同船との衝突を招き、前示の損傷などを生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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