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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年9月19日06時10分 北海道苫小牧港 2 船舶の要目 船種船名 油送船第三大和丸
漁船第六十五隆宝丸 総トン数 1,473トン
9.89トン 全長 83.97メートル
18.20メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 2,059キロワット 漁船法馬力数 120 3 事実の経過 第三大和丸(以下「大和丸」という。)は、船尾船橋型油送船で、A受審人ほか10人が乗り組み、ガソリン及び軽油各1,500キロリットルを積載し、船首4.9メートル船尾6.0メートルの喫水をもって、平成10年9月14日12時35分愛媛県菊間港を発し、関門海峡経由で、北海道苫小牧港の日石・苫小牧埠頭共同桟橋に向かった。 A受審人は、島根県沖合を航行中、台風の接近により同月15日12時30分から翌16日07時05分まで境港港外で錨泊したのち、越えて18日18時45分苫小牧港の港域内に至り、苫小牧港東外防波堤灯台(以下「東外防波堤灯台」という。)から164度真方位、以下同じ。)2.3海里の地点に右舷錨を投じて錨鎖7節を延出し、錨泊中を表示する白色全周灯2個及び球形形象物1個並びに危険物搭載中を表示する赤色全周灯1個を掲げて錨泊し、翌朝07時に着桟、揚荷役する予定で待機した。 A受審人は、投錨配置を解いたあと、台風の余波による荒天航海で乗組員が疲れているからゆっくり休ませてやろうと思い、乗組員を休息させ、自ら船橋当直に当たっていたところ、夜半ごろになって風波が弱まり、周囲に航行船が見当たらなくなったので、翌朝06時30分の着桟操船開始時刻まで船橋当直者を配置しなくても大丈夫と思い、自船が危険物積載船で、かつ出入港船が輻輳(ふくそう)する港域内に錨泊していたものの、次直の船橋当直者を配置することなく、自室に退いて休息した。 同月19日06時00分A受審人は、大和丸が141度を向いていたとき右舷船首20度1.8海里のところに自船に向けて来航する第六十五隆宝丸(以下「隆宝丸」という。)を視認することができる状況であったが、船橋当直者を配置していなかったので、その報告が得られず、その後同船が自船に向首したまま衝突のおそれある態勢でなおも接近したが、注意喚起信号を行うことができないまま錨泊中、06時10分前示錨泊地点において、大和丸の左舷船首部に隆宝丸の左舷船首部が前方から20度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。 また、隆宝丸は、かれい刺網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか2人が乗組み、船首0.6メートル船尾2.0メートルの喫水で、同月18日20時30分苫小牧港の漁港区域を発し、22時ごろ同港南方15海里ばかり沖合の漁場に至り、前もって投入しておいた刺し網の揚網作業を開始し、かれい及びほっけなど合計150キログラムを漁獲したのち、刺し網を投入して漁を打ち切り、翌19日05時00分同漁場を発進し、帰途に就いた。 B受審人は、発進後、1人で船橋当直に当たり、同時33分少し過ぎ東外防波堤灯台から169度9.0海里の地点に達したとき、針路を351度に定め、機関を全速力前進にかけて11.0ノットの対地速力で、自動操舵によって進行した。 ところで、隆宝丸は、機関を全速力前進にかけて進行すると船首が浮上し、正船首から左右各舷に約2点の範囲で死角が生じ、見通しが妨げられる状況であった。 06時00分B受審人は、東外防波堤灯台から163度4.1海里の地点に達したとき、針路を自動操舵のまま開発局苫小牧港東島防波堤灯台に向く341度に転じ、操舵室右舷側後部に置かれている戸棚の上に腰掛けて続航し、転針したとき、ほぼ正船首1.8海里に船首を南南東方に向けて錨泊している大和丸を初認できる状況であったが前方を一見して前路に錨泊船はいないものと思い、船首を左右に振るなどして船首死角を補う見張りを十分に行わなかったため、このことに気付かず、その後衝突のおそれある態勢でなおも接近したが、同船を避けることなく進行中、隆宝丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。 衝突の結果、大和丸は左舷船首部外板に擦過傷を生じ、隆宝丸は左舷船首及び左舷船尾ブルワークに損傷、後部マストに曲損及び揚網機に破損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、北海道苫小牧港において、同港南方漁場から帰航中の隆宝丸が、見張り不十分で、錨泊中の大和丸を避けなかったことによって発生したが、大和丸が、船橋当直者を配置せず、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) B受審人は、1人で船橋当直に当たり、苫小牧港南方の漁場から同港に向けて帰航する場合、機関を全速力前進にかけて進行すると船首方の一部に死角が生じて前方の見通しが妨げられる状況であったから、前路で錨泊中の大和丸を見落とさないよう、船首を左右に振るなどして船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。 しかるに、同人は、同港入口に向けて転針したとき前方を一見して前路に錨泊船はいないものと思い、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、大和丸を避けないまま進行して同船との衝突を招き、同船の左舷船首部外板に擦過傷を生じさせ、隆宝丸の左舷船首及び左舷船尾ブルワークに損傷、後部マストに曲損及び揚網機に破損をそれぞれ生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人は、夕刻、苫小牧港の港域内に投錨して翌朝の着桟操船開始時刻まで錨泊待機する場合、自船が危険物積載船で、かつ、出入港船が輻輳する港域内に錨泊しているのであるから、衝突のおそれのある態勢で接近する他船に対して注意喚起信号を行うことができるよう、船橋当直者を配置すべき注意義務があった。しかるに、同人は、夜半まで錨泊当直に当たって付近に航行船が見当たらなくなったことから、翌朝の着桟操船開始時刻まで船橋当直者を配置しなくても大丈夫と思い、船橋当直者を配置しなかった職務上の過失により、隆宝丸が自船に衝突のおそれがある態勢で接近している旨の報告が得られず、注意喚起信号を行うことができないまま錨泊を続けて隆宝丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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