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1999年(平成11年)

平成11年仙審第21号
    件名
漁船北晴丸防波堤衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年9月28日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

長谷川峯清、高橋昭雄、上野延之
    理事官
黒田均

    受審人
A 職名:北晴丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
右舷船首部外板及び球状船首に亀裂を伴う損傷

    原因
操舵装置の作動確認不十分

    主文
本件防波堤衝突は、操舵装置の作動確認が不十分で、操舵不能状態に陥ったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年12月9日08時00分
新潟県両津港
2 船舶の要目
船種船名 漁船北晴丸
総トン数 19.82トン
登録長 18.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 190
3 事実の経過
北晴丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首1.0メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成9年12月8日14時00分新潟県両津漁港を発し、同県佐渡島の北西方にある瓢箪礁南端付近の漁場に向かい、同日夕刻から操業を開始して約1トンのいかを漁獲したのち、翌9日04時45分弾埼灯台から314度(真方位、以下同じ。)11.4海里の地点を発進し、同漁港に向けて帰途に就いた。
両津漁港は、佐渡島北東部の両津湾湾奥にある両津港内の北部にあり、長さ約600メートルの両津漁港北防波堤と、長さ約240メートルの同漁港南防波堤との間に幅約90メートルの港口を有し、同南防波堤に接続して139度方向に延び、南東から東南東方に2箇所で屈曲して築造された長さ約1,300メートルの両津港北防波堤の内側で両津港と接続する水面を有していた。
操舵装置は、操舵スタンド、舵角指示器、電磁弁、遠隔管制器及び油圧ポンプユニットで構成され、同スタンドの舵輪の左方下部に設けられた操作切換えスイッチにより、自動、遠隔、手動無追従の各操舵方法を選択して切換えが行われるようになっており、磁気コンパスの偏位を設定針路に戻す自動、遠隔管制器のダイアル操作による遠隔及び手動の各方法で操舵を行うときには電磁弁を介して、また、無追従で操舵を行うときには同スタンドのレバー操作により直接、それぞれ同ポンプユニットを作動させて必要な転舵角を得るものであった。
A受審人は、出入港時には同スイッチを遠隔の位置に合わせて遠隔管制器のダイアルにより、また、港外で航行中には同スイッチを自動に切り換えてそれぞれ操舵操船を行う方法を採っていたところ、この1年間に1ないし2回操舵スタンド内で異音が聞こえて操作切換えスイッチが切り換わらないことがあったが、同スイッチを自動と遠隔とに何回か切り換え操作を行っているうちに正常に戻っていたことから、業者への修理依頼も、操舵装置の取扱説明書を読むこともしないまま運航を続けていた。
発進後A受審人は、単独の船橋当直に就いて周囲の見張りに当たり、弾埼を右方に見て南下し07時00分宮ノ埼灯台から093度1.5海里の地点において、針路を210度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて8.5ノットの速力で進行した。
07時50分A受審人は、西南西の風毎秒約15メートル、波高約2メートルの状況のもと、両津港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から004度1.1海里の地点に達して両津港北防波堤まで1海里に接近したとき、操舵装置の操作切換えスイッチが前示の不調状態になっても、何回か切り換え操作を行えば正常に作動するものと思い、入航に際し、操舵装置の切換えが正常に行われて操舵が異常なく行われるかどうか、入航前に同スイッチの異常の有無や舵が正常に作動するかどうかなどの操舵装置の作動確認を十分に行うことなく、両津港に入港する直前にほぼ直角に大舵角で右転する必要があったので、この風浪の影響を受けずに同漁港に入港できるよう、両津港北防波堤にできるだけ近づき、同漁港港口を見通せる地点に至ってから右転して直航するつもりで、自動操舵のまま針路を206度に転じるとともに、機関を半速力前進に落として6.4ノットの速力で続航した。
07時59分少し前A受審人は、北防波堤灯台から310度780メートルの地点に至って両津港北防波堤まで200メートルの距離となったとき、両津漁港港口に向けて転針するつもりで、操作切換えスイッチを自動から遠隔に切り換えて遠隔管制器のダイアルを右に回したところ、操舵装置内部で異音が聞こえて右転が始まらず、舵角指示器も右に振れなかったことから、初めて操舵装置に異常が発生したことを知り、同防波堤が直前に迫っていたので、機関を後進にかけて行きあしを止めようとしたが、慌てて機関クラッチハンドルと機関回転数そのままでプロペラ回転数を下げることができるトローリングハンドルとを取り違えて手前に引いたため行きあしが落ちず、風浪の影響でわずかに左転しながら進行中、08時00分北防波堤灯台から291度660メートルの地点において、船首が174度を向いたとき、原速力のまま、両津港北防波堤に右舷船首が35度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力7の西南西風が吹き、波高は約2メートルで、潮候は上げ潮の中央期にあたり、視界は良好であった。
防波堤衝突の結果、北晴丸は右舷船首部外板及び球状船首に亀裂を伴う損傷を生じ、のち操舵装置の操作切換えスイッチとともに修理された。なお、両津港北防波堤はペイントが対着しただけで損傷を生じなかった。

(原因)
本件防波堤衝突は、新潟県両津港において、自動操舵から遠隔操舵に切り換えて同港に入航しようとする際、入航前の操舵装置の作動確認が不十分で、操舵操作切換えが正常に行われず、操舵不能状態に陥ったまま防波堤に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、新潟県両津港において、自動操施から遠隔操舵に切り換えて同港に入航しようとする場合、操舵装置の操作切換えスイッチの異常の有無や遠隔操舵が正常に作動するかどうかなどの入航前の同装置の作動確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、この1年間に1ないし2回操舵操作切換えスイッチの不調により操舵装置が正常に作動しないことがあったものの、何回か同スイッチの切り換え操作を行っているうちに正常に戻っていたことから、同スイッチが不調になっても、何回力切り換え操作を行えば同装置は正常に作動するものと思い、入航前の操舵装置の作動確認を十分に行わなかった職務上の過失により、操舵操作切換えが正常に行われず操舵不能状態に陥り、遠隔操舵ができないまま両津港北防波堤に向首進行して同防波堤との衝突を招き、北晴丸の右舷船首部外板及び球状船首に亀裂を伴う損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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