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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年9月25日02時50分 加州北岸筑前大島中合 2 船舶の要目 船穂船名 押船第八助成丸
バージ第八助成号 総トン数 120トン
1,359トン 全長 31.51メートル
64.15メートル 幅 15.00メートル 深さ 4.00メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 1,471キロワット 船種船名 貨物船チャンアン 総トン数
2,920トン 全長 96.05メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
2,427キロワット 3 事実の経過 第八勘成丸(以下「勘成丸」という。)は、専らバージ第八勘成号(以下「勘成号」という。)と一対になって港湾建設用の石材運搬作業に従事する押船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか4人が乗り組み、船首2.7メートル船尾4.3メートルの喫水をもって、船首を勘成号の船尾凹部に嵌入してこれを押し、また、勘成号は、バウスラスター及び船首甲板上にクレーン装置を備えたはしけで、船尾凹部に勘成丸の船首を嵌入させ、同船の3本のピン油圧装置で固定して押船例(以下「勘成丸押船山」という。)を形成し、船首尾1.8メートルの等喫水をもって、空倉のまま平成8年9月24日18時00分浜田港を発し、長崎県五島椛島に向かった。 A受審人は、同年7月21日三重県三木浦で一等航海士の職で乗船し、同年9月23日長崎港で先任船長の陸上休暇を消化させるため、初めて5日間ほど臨時に船長職を勤めることとなったばかりで、勘成丸での乗船経験豊かなB指定海難関係人に気兼ねし、出港後、船橋当直中は十分な見張りを行うよう同指定海難関係人に指示しなかった。 B指定海難関係人は、同月25日01時50分昇橋して1人で船橋当直に入り、勘成丸のマスト灯、両舷灯火及び船尾灯、並びに、勘成号のマスト灯及び両舷灯がそれぞれ点灯しているのを確認し、右舷船首方から前路を左方に横切る態勢で接近していた1万トン型貨物船と大型フェリーボートに出会ったので、その都度右転してこれらを替わし、02時20分筑前大島灯台から007度(真方位、以下同じ、)12.3海里の地点に達したとき、針路を218度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力で進行した。 02時40分B指定海難関係人は、右舷船首18度2.7海里に東進していたチャンアンの白・白・紅3灯を視認することができる状況となったが、使用していた2台のレーダーのうち、GPSプロッターに連動していた1号レーダーの画面が不調をきたし、レーダー画面上の陸岸の位置がずれていたので、その調整を始め、1号レーダーと海図台の間を往復し、見張りを行わないまま、レーダー画面の調整に熱中しているうち、同時43分右舷船首17度2海里にまで方位が変化しながら接近していたチャンアンが、速力を減じて方位の変化が次第になくなり、勘成丸押船列の前路至近に接近し始め、同時47分チャンアンは、右舷船首14度0.7海里にまで至ったのち、その方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近し始めたが、依然としてチャンアンに気づかず、速やかに右転してチャンアンの後方を替わるなど、同船の進路を避けずに続航中、同時49分チャンアンの短1声を聞いたのち、右舷船首至近に迫った同船の紅灯を見て驚き、機関を反転させ、右舵一杯をとって右回頭を始めたが、02時50分筑前大島灯台から347度8.1海里の地点で、勘成丸押船列は、270度を向いた勘成号の船首が、2ノットの残存速かでチャンアンの左舷中央部に直角に衝突した。 当時、天候は晴で風力3の南風が吹き、視界は良好で、付近海上には白波があった。 また、チャンアンは、船尾船橋型貨物船で、船長C及び二等航海士ほか26人のベトナム社会主義共和国籍船員が乗り組み、空倉のまま船首1.1メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、同月24日14時00分大韓民国光陽港を発し、木更津港に向かった。 D二等航海士は、翌25日00時00分操舵員と2人で航海当直に入り、同日02時00分筑前大島灯台から305度12.4海里の地点に達したとき、針路を085度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて、11.0ノットの対地速力で進行した。 02時30分D二等航海士は、左舷船首26度6.1海里に南西進していた勘成丸押船列の白灯2個のほか緑灯も視認し、同時40分左舷船首29度2.7海里に同押船列の白2灯緑2灯を認め、同時43分同押船列が左舷船首30度2海里にまで接近したとき、方位が次第に後方に移っていたものの、2船間の相対位置関係が妙に気になり、衝突のおそれが生じているものと思い、機関を5.0ノットの微速力前進に減じたところ、勘成丸押船列の方位の変化がとまり始め、同時47分同押船列を左舷船首33度0.7海里に見る状況となったのち、その方位が変わらずに衝突のおそれが生じたが、勘成丸押船列に運航義務があるものと思い、動静監視を行わず、更に間近に接近するも衝突を避けるための協力動作をとらずに続航中、同時49分至近に迫った勘成丸押船列に衝突の危険を感じ、汽笛で短音1声を吹鳴し、右舵一杯を令し、同押船列を替わそうとしたが効果なく、チャンアンは、船首が180度に向いたとき、5.0ノットのまま前示のとおり衝突した。 衝突の結果、勘成号の正船首外板に亀裂を伴う凹損及び球状船首部に凹損をそれぞれ生じ、チャンアンは、左舷中央部外板に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、筑前大島の沖合において、南西進中の勘成丸押船列が、見張り不十分で、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するチャンアンの進路を避けなかったことによって発生したが、チャンアンが動静監視不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。 勘成丸押船列の運航が適切でなかったのは、船長が無資格の船橋当直者に見張りを十分行うよう指示しなかったことと、船橋当直者が見張りを十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人等の所為) A受審人は、夜間、筑前大島の沖合において、無資格者に船橋当直を委ねる場合、接近する他船を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、勘成丸での乗船経験の豊富な無資格者に気兼ねして見張りを十分に行うよう指示しなかった職務上の過失により、船橋当直者が見張りを十分に行わず、チャンアンを見落としたまま進行して、同船との衝突を招き、勘成号の正船首外板に亀裂を伴う凹損及び球状船首部の凹損を、チャンアンの左舷中央部外板に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B指定海難関係人が、夜間、船橋当直中、レーダーの調整に熱中して見張りを十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。 しかしながら、B指定海難関係人に対しては、本人が深く反省している点に徴し、勧告するまでもない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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