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1999年(平成11年)

平成10年長審第66号
    件名
交通船宝山丸漁船和丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年3月11日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

坂爪靖、安部雅生、原清澄
    理事官
酒井直樹

    受審人
A 職名:宝山丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:和丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
宝山丸…左舷船首部外板に破口
和丸…右舷船首部に備えた揚網機に損傷、船長が8日間の入院加療を要する胸部打撲傷等

    原因
宝山丸…見張り不十分、船員の常務(新たな危険)不遵守(主因)
和丸…見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、宝山丸が、見張り不十分で、無難に航過する態勢の和丸に対し、新たな衝突の危険を生じさせたことによって発生したが、和丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年11月9日18時15分
熊本県横浦漁港
2 船舶の要目
船種船名 交通船宝山丸 漁船和丸
総トン数 6.6トン 2.03トン
全長 15.40メートル
登録長 830メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 496キロワット
漁船法馬力数 45
3 事実の経過
宝山丸は、航行区域を限定沿海区域に定め、専ら熊本県嵐口漁港を基地とし、主として同漁港周辺を移動する海上タクシーとして使用される最大搭載人数14人のFRP製交通船で、A受審人が1人で乗り組み、客を迎えに行く目的で、船首0.20メートル船尾0.60メートルの喫水をもって、平成9年11月9日18時07分同漁港を発し、航行中の動力船の灯火を表示して同県横浦漁港東側の防波堤基部付近にある浮桟橋に向かった。
発航後、A受審人は、操舵室右舷側のいすに腰掛けて手動操舵に当たり、18時09分半ごろ嵐口港4号防波堤灯台(以下「4号防波堤灯台」という。)から312度(真方位、以下同じ。)920メートルばかりの、活魚養殖施設の南西端付近を右舷側に航過したころ、左舷前方に前路を右方に横切る態勢の北上船を認め、減速して同船を避航したのち、同時10分半4号防波堤灯台から312度990メートルの地点に達したとき、針路を横浦漁港沖合に設置された防波堤の南東端に向く314度に定め、機関を半速力前進にかけて8.0ノットの速力で進行した。
18時12分A受審人は、右舷船首6度970メートルのところに横浦島西岸沿いを南下する和丸の白、白、紅緑4灯を視認でき、その後同船と右舷を対して無難に航過する態勢で接近したが、客が待つ浮桟橋基部の水銀灯の明かりに気をとられ、周囲の見張りを十分に行うことなく、同船の存在に気付かないまま続航した。
18時14分半A受審人は、4号防波堤灯台から313度2,000メートルの地点に達し、白、白、緑3灯を表示した和丸が右舷船首30度160メートルに接近したとき、いすから立ち上がり、探照灯で右舷前方を照射して浮桟橋を確かめ、針路を同桟橋に向く352度に転じたところ、同船と新たな衝突の危険を生じさせることになったが、依然周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船を避けるための措置をとらないまま、同時15分わずか前再び探照灯で浮桟橋を照らして進行中、18時15分4号防波堤灯台から315度2,080メートルの地点において、原針路、原速力のまま、宝山丸の左舷船首部に和丸の船首が前方から32度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。
また、和丸は、刺網漁業等に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、いか引き釣り漁を行う目的で、船首0.30メートル船尾0.40メートルの喫水をもって、同日18時06分横浦漁港を発し、航行中の動力船の灯火のほか白色全周灯を表示して横浦島東岸付近の漁場に向かった。
発航後、B受審人は、操舵室囲壁後部右舷側に備えた舵輪の後方に立って手動操舵に当たり、18時12分4号防波堤灯台から315.5度2,350メートルの地点に達したとき、針路を140度に定め、機関を微速力前進にかけて2.8ノットの速力で進行した。
定針したとき、B受審人は、正船首970メートルのところに宝山丸の白、緑2灯を視認でき、その後同船と右舷を対して無難に航過する態勢で接近したが、前路をいちべつして他船が見当たらなかったことから、前路に他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、宝山丸の存在に気付かないまま続航した。
18時14分半B受審人は、右舷船首24度160メートルとなった宝山丸が探照、灯を照射したあと、右転したため、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、依然周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船との衝突を避けるための措置をとらないまま進行中、同時15分わずか前探照灯の明かりに気付いたものの、どうすることもできず、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。衝突の結果宝山丸は、左舷船首部外板に破口を生じ、和丸は、右舷船首部に備えた揚網機に損傷を生じたが、のちいずれも修理された。また、衝突の衝撃でB受審人は、8日間の入院加療を要する胸部打撲傷等を負った。

(原因)
本件衝突は、夜間、熊本県横浦漁港において、同漁港浮桟橋に向けて北上中の宝山丸が、見張り不十分で、無難に航過する態勢の和丸に対し、右転して新たな衝突の危険を生じさせたことによって発生したが、漁場に向けて南下中の和丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、熊本県横浦漁港において、客を迎えに行くため、同漁港浮桟橋に向けて1人で操船に当たって北上する場合、前路の他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同桟橋基地の水銀灯の明かりに気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、無難に航過する態勢の和丸に気付かず、同船に向けて右転し、新たな衝突の危険を生じさせたまま進行して衝突を招き、宝山丸の左舷船首部外板に破口を和丸の右舷船首部に備えた揚網機に損傷を生じさせ、B受審人に胸部打撲傷等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、熊本県横浦漁港において、漁場に向けて1人で操船に当たって南下する場合、前路の他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、定針時に前路をいちべつして他船が見当たらなかったことから、前路に他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、宝山丸が右転したため、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったことに気付かないまま進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせ、自ら負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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