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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年9月28日02時25分 徳山下松港港外 2 船舶の要目 船種船名 押船はっこう
はしけNo.1はっこう 総トン数 212トン
約1,468トン 全長 27.51メートル
72.02メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力 1,765キロワット 船種船名
漁船日栄丸 総トン数 4.93トン 全長 14.90メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 40キロワット 3 事実の経過 はっこうは、専ら徳山下松港と関門港との間のはしけ押航作業に従事する2基2軸のコルトノズルを装備した鋼製押船で、船長C(以下「C船長」という。)及びA受審人ほか4人が乗り組み、船首3.20メートル船尾3.60メートルの喫水をもって、鋼材2,240トンを積載し、船首4.30メートル船尾4.60メートルとなった、非自航で無人の鋼製はしけNo.1はっこうの船尾ノッチ部に船首を嵌合して全長92メートルの押船列(以下、はっこう及びNo.1はっこうの両船を総称するときには、「はっこう押船列」という。)とし、平成9年9月28日01時50分徳山下松港第4区の製鉄所岸壁を発し、関門港に向かった。 C船長は、はっこう押船列に法定の灯火を表示して離岸操船に当たり、防波堤を替わったところで船橋当直をA受審人に委ねて降橋し、自室で休息をとった。 単独、船橋当直を任されたA受審人は、01時58分少し過ぎ徳山下松港島田防波堤灯台から259度(真方位、以下同じ。)800メートルの地点で、針路を243度に定め、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。 A受審人は、02時19分半わずか過ぎ火振埼灯台から100度1.8海里の地点に達したとき、右舷船首22度1.6海里のところに日栄丸の表示する白、紅の2灯を初認し、その後同船が前路を左方に横切り、衝突のおそれのある態勢で互いに接近したが、そのうち同船が針路を転じるものと思い、速やかに右転するなどして同船の針路を避けずに続航中、同時25分少し前ようやく衝突の危険を感じて左舵一杯としたが及ばず、はっこう押船列は、02時25分火振埼灯台から128度1.2海里の地点で、原速力のまま190度を向首し、No.1はっこうの右舷後部と日栄丸の船首とが後方から80度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期であった。 C船長は、自室で休息中、衝撃を感じて昇橋し、日栄丸との衝突を知り、事後の措置に当たった。 また、日栄丸は、船体ほぼ中央部に操舵室及び同室内甲板下に機関室を備えたFRP製漁船で、鯵(あじ)・太刀魚(たちうお)のはえ縄漁を行う目的で、B受審人が1人で乗り組み、船首0.12メートル船尾1.48メートルの喫水をもって、同日01時ごろ徳山下松港第1区の船溜りを発し、山口県柳井市平郡島沖の漁場に向かった。 B受審人は、発航時から法定の灯火を表示して徳山湾を南下し、02時08分わずか過ぎ火振埼灯台から294度1.3海里の地点で、針路を130度に定め、機関を全速力前進にかけ9.0ノットの速力で、自動操舵により進行した。 B受審人は、02時14分半少し過ぎ火振崎灯台から285度840メートルの地点で、左舷船首43度2.9海里のところにはっこう押船列の表示する白、白、緑の3灯を初認し、同時17分同灯台から207度650メートルの地点で、針路を110度に転じて続航した。 転針したときB受審人は、機関室内に以前からビルジが滞留していたことから、発航後機関室内に設置してあるビルジ排出ポンプを始動していたので、はっこう押船列まではまだ距離があるから大丈夫と思い、ビルジ排出状況を,点検するため機関室におりたところ、ビルジ排出が順調に行われていなかったため、同ポンプのフィルターの掃除を始めた。 02時19分半わずか過ぎB受審人は、火振崎灯台から158度0.5海里の地点に達したとき、左舷船首25度1.6海里のところにはっこう押船列が存在し、その後同押船列が前路を左右に横切り衝突のおそれのある態勢で互いに接近する状況であったが、操舵室を不在とし動静監視が不十分となり、このことに気付かず、警告信号を行わず、更に接近しても衝突を避けるための協力動作をとることなく進行中、日栄丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。 B受審人は、フィルター掃除を終え操舵室に戻ろうとしたとき、衝撃を感じ、同室内に戻ってはっこう押船列との衝突を知り、事後の措置に当たった。 衝突の結果、はっこう押船列はNo.1はっこうの右舷後部に凹損を生じ、日栄丸は、船首部を圧壊したが、のちいずれも修理され、B受審人が約2週間の安静加療を要する腰椎捻挫を負った。
(原因) 本件衝突は、夜間、徳山下松港港外において、両船が互いに針路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、西行中のはっこう押船列が、前路を左方に横切る日栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、南下中の日栄丸が、操舵室を不在とし動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、徳山下松港港外を西行中、右舷方に白、紅の2灯を表示した日栄丸を視認し、衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めた場合、速やかに右転するなどして同船の進路を避けるべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのうち日栄丸が針路を転じるものと思い、速やかに右転するなどして同船の進路を避けなかった職務上の過失により、原針路、原速力まま進行して、日栄丸との衝突を招き、N0.1はっこうの右舷後部に凹損を生じさせると共に、日栄丸の船首部を圧壊させ、B受審人に約2週間の安静加療を要する腰椎捻挫を負わせるに至った。 B受審人は、夜間、単独で操船に当たり徳山下松港港外を南下する場合、左舷船首方にはっこう押船列が西行していることを知っていたのであるから、衝突のおそれがあるかどうか判断できるよう、同押船列に対する動静監視を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、はっこう押船列までまだ距離があるから大丈夫と思い、機関室でビルジポンプフィルターの掃除を行い、操舵室を不在として動静監視を行わなかった職務上の過失により、同押船列と衝突のおそれのある態勢で互いに接近する状況であることに気付かず、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して、はっこう押船列との衝突を招き、両船に前示の損害及び同人に負傷をそれぞれ生じさせるに至った。
参考図
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