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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年10月4日18時10分 神戸港 2 船舶の要目 船種船名
プレジャーボートさくら 全長 9.50メートル 機関の種類 電気点火機関 出力
169キロワット 3 事実の経過 さくらは、船体中央部に操舵室を設けたFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、知人5人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.7メートル船尾0.9メートルの喫水をもって、平成9年10月4日10時10分兵庫県尼崎西宮芦屋港新西宮ヨットハーバーを発し、大阪湾南口の由良瀬戸に向かった。 ところで、A受審人は、10年ほど前から所有していたプレジャーボートにより、年間10回ばかり大阪湾内において釣りを行っていたが、同8年9月にGPSプロッタを装備した新造のさくらに買い替え、その後同船で3回航海をした経験により、同プロッタを海図代わりに使用すれば容易に航海することができるものと思い、発航前に最新の海図にあたるなどして、尼崎西宮芦屋港及び神戸港付近の水路調査を行わなかった。 A受審人は、由良瀬戸及び兵庫県由良港内で釣りをしたのち16時30分同港を発して帰途につき、建設中の明石海峡大橋を見て帰ることとして淡路島東岸沿いを北上中、日が暮れ始め、夜間航行に不安を持ったので同橋に近づくのを断念し、17時33分平磯灯標から204度(真方位、以下同じ。)3.7海里の地点で尼崎西宮芦屋港の港口ヘ向けることにした。 この時、A受審人は、GPSプロッタを見たうえ、神戸港ポートアイランド沖合を経て神戸港第7防波堤と西宮防波堤との間に向くよう、針路を064度に定めたところ、当時、ポートアイランド南側は埋立工事が進捗中で、同埋立地南東端から090度方向に600メートルにわたって築造中の防波堤があったが、同プロッタにはこれが入力されておらず、その存在に気付かないまま、機関回転数を毎分3,100とし、22.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。 17時48分A受審人は、平磯灯標から104.5度3.8海里の地点に達したとき、日が沈み暗くなったので速力を17.0ノットに減じ、それまで大阪湾全域を表示させていたGPSプロッタを明石海峡から神戸港にかけての表示に切り替え、ポートアイランドの南西沖合を東行した。 A受審人は、18時03分GPSプロッタのほぼ針路線上に現れた黄色の輝点を認め、同時09分少し過ぎ同輝点が500メートルとなったので、これを避けるため徐々に左転したところ、前方約380メートルに築造中の防波堤に向首する態勢となったが、このことに気付かず続航中、18時10分伸戸港第6南防波堤灯台から176度1,450メートルの地点において、さくらは、015度を向首し原速力のまま、その船首が築造中の防波堤に衝突した。 当時、天候は曇で風力3の東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、日没は17時40分であった。 衝突の結果、船首部を大破し、のち廃船とされ、A受審人及び同乗者全員が全治1週間から3箇月の骨折、打撲傷等を負った。
(原因) 本件防波堤衝突は、夜間、淡路島東岸から神戸港を経て、尼崎西宮芦屋港に向け航行する際、発航前の水路調査が不十分で、神戸港ポートアイランド南側埋立地南東端に築造中の防波堤に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、大阪湾において魚釣りの目的で、尼崎西宮芦屋港を発航する場合、神戸港ポートアイランド南側埋立地南東端に築造中の防波堤の存在が分かるよう、あらかじめ最新の海図にあたるなどして水路調査を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、GPSカッタを装備しているので大丈夫と思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、同プロッタにはポートアイランド南側埋立地南東端に築造中の防波堤が入力されていなかったが、これを使用して進行し、同防波堤との衝突を招き、船首部を大破させて廃船に至らしめたうえ、自身及び同乗者全員が全治1週間から3箇月の骨折、打撲傷等を負うに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。 |